第332話 翁の研究所

 しばらくして調子を取り戻した翁に、部屋にある色々な資料を見せてもらった。

 中には貴重なものもあるようで、今俺が手にした書物にはアイテムの効果について書かれていた。


「月桂樹の実は状態異常関係の治療薬として使えるのか」


 本に書かれていることを読むことで新たな知識を吸収できる。


「エリクサーは死者すら生き返らせることが出来る?」

「ん? そんなことが書かれておるのか? それは誤りじゃのう」


 俺の呟きに反応を示した翁は、俺から本を受け取ると徐に訂正を入れ始めた。

 そこに追加して書かれていたのは、『死後直ぐに使用した場合に限る』の一文だった。


「……試したことがあるのか?」

「うむ、昔二度ほどのう。ダンジョンで入手したものがあったから使ってみたことがあったのじゃよ。それで一度は失敗し、もう一度は成功したというわけじゃ」


 ダンジョンか……死者すら生き返らせるというなら、権力者が欲しがりそうだ。

 しかし直ぐに使用しないと効果がないということは、予め持っていないと駄目ということか。他にも万能回復薬としての効果もあるようで、重傷者を完治させることが出来るみたいだ。


「……聖樹の実というのは載ってないんだな」

「初めて聞く名じゃな。どんな実なのじゃ?」

「いや、俺もどんなやつかは知らないよ」

「なんじゃそれは」


 翁は呆れたが、どんな実か知らないのは本当だ。

 これは創造スキルで、エリクサーを作るために必要な材料として名前が表示されたものだ。

 他にも竜の魔石とか色々と必要な材料があるが、初めて聞く名前は聖樹の実だけだったから確認したわけだ。


「こっちの本は何だ?」

「これは結界についてじゃな。魔王城や最果ての町に使っているものの基礎となったものじゃな」

「どうやって研究してるんだ?」


 それこそこの技術を町とかで使えれば、魔物の襲撃を防げるようになる。

 特に山奥の小さな村とか、魔物の脅威にさらされたら全滅なんてこともありえる。将来的に何処かの町か村に住むようになるなら、是非とも欲しい。


「これはダンジョンを研究したんじゃったかな。今じゃとわしらは入ることが出来なくなったが、遥か昔は普通にダンジョンに潜ったりしておったからのう」


 エリクサーを手に入れたのもその時だったそうだ。

 詳しく聞くと、ボス部屋の入ったらボスを倒すまで出られないというダンジョンの仕様を研究し、突き詰めていったらしい。

 出られないという仕様を入って来れないという反対の仕様に変えて、さらにはそこから条件を付けていって、魔物を入れないようにしたとのことだ。

 敵意ある者を排除するというところまで出来たら、魔王を倒しに来る者を入れなくすることが出来るようになったが、さすがにそれは無理だったようだ。

 そうすると魔石に反応している結界ということなのだろうか? なら魔石のない害獣は防げないということになるのかな?

 他にも過去の魔王に空間魔法の使い手がいたため、一緒になって研究したと懐かしそうに翁は言った。

 あと個人的に気になったのはゴーレム関連の本か。

 そう言えばユタカの遺跡でもゴーレムが設置されていたそうだが、俺たちが到着した時は既に排除されたあとだったんだよな。

 ここに載っているのは主に設置型ゴーレムに関するもので、やはり活動時間に関する研究が色々と書かれている。

 設置型は待機中にエネルギーを充填出来る仕組みにしたようで、他にも所定の位置の床にエネルギー供給用の魔法陣を密かに描いているそうだ。

 魔法陣の図形を変えることで他にも色々な効果を付与することが出来るらしいが、さっぱり分からない。この辺りはクリスとか、あとはヨルあたりに頼む方がいいかもしれない。

 ただこれも拠点で使用するにはいいけど、やはり俺が使おうとしている旅のお供的な使用は難しいかもしれない。


「いや、諦めるのはまだ早いか?」

「何の話じゃ?」


 思わず呟いた言葉に翁が反応したため、今使用しているゴーレムについて話した。


「なるほどのう。確かに自立型で色々な命令で動くゴーレムが出来れば、魔物狩りにも使用することが出来るかもじゃな」


 物凄く興味を持ったようで、俺が今使っているゴーレムを実際に見せたりした。

 あーだ、こーだ色々専門的なことを言われて頭が痛くなったとだけ言っておこう。

 話している内容の半分以上は右から左へと抜けていったな。

 ただエネルギーの消費を抑える術式をゴーレムの核に刻んでくれたため、活動時間が少しだけ伸びた。

 それでも激しい動きをすると消費するスピードは速いから、やはり自分でエネルギーを生み出せる仕組みにするのが一番良さそうだ。

 他にイグニスが最果ての町から魔王城に移動した時に使っていたものについて質問したが、あれもダンジョンのワープ機能の応用らしいが、魔力の強い者……俺のパーティーでは俺かクリスぐらいしか使えないだろうということだった。

 そんなことで、時間を忘れて翁と色々と話し込んだのだった。

 

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