第331話 神殺しの武器・2

 俺は一度ステータスパネルを確認する。

 MPは……翁と話しているうちに完全に回復していた。

 創造スキルのレベルも確認したが、何度見てもMAXだ。

 俺は大きく息を吸い込むとゆっくり吐き出して集中する。

 ワイバーンと言えば、亜種であるが竜種に名前を連ねる魔物だ。

 この魔石一つでどれぐらいの財産になるか。それに加えてミスリルの塊とか……うん、考えるのは止めよう。目の前のことに集中しよう。

 俺は三つのアイテムを並べて創造のスキルを発動させる。

 イメージするのはシンプルな短剣。

 魔力に導かれるように三つのアイテムが引き寄せられるように一つへとなり、その原型を崩して溶けるように混ざり合う。

 さらに流す魔力の量を増やし、頭の中に浮かんだイメージを強くする。

 その状態を維持しながら安定するのを待つ。

 竜神の牙とミスリルが反発するが、ワイバーンの魔石が接着剤のような働きをしてそれを防ぐ。

 すると徐々に形が作られていき、やがて目の前には一振りの短剣が出来上がった。

 刀身は短剣というには少し長く、一見すると量産品の安物の短剣のように見えなくもない。


【神殺しの短剣】全てを貫くもの。取り扱い注意。


 取り扱い注意とか……切れ味が良すぎるからか?

 試し切りで予備の剣に刃を当てたら、なんの抵抗もなく真っ二つになった。一切力を入れていないのに……確かに危険だなこれ。


「ふむ、神殺しの短剣のう。しかしまさか本当に完成させるとは……」


 それを見た翁も驚いているが、とりあえずこれは危険物だからアイテムボックスに仕舞っておこう。出番がないことを祈りたいが、切り札になるものであることに変わりはない。

 魔物の上位種に使ったらサクッと狩ることが出来るのだろうか?


「それでこれはどうする? 俺が持ってていいのか、それともそっちで使うのか?」

「一番重要なものはお主のものだったのだ。お主が持っておればよいじゃろう」


 これを素直にもらって大丈夫なのか?

 確かに一番重要な竜神の牙は俺が竜王からもらったわけだが……。


「そう警戒せんでよい。わしはこう見えて研究者みたいなものじゃからのう。興味があるのじゃよ。まだ見たことのないものが出来るのをのう」

「……分かった。なら俺がもらうからな? 本当にいいんだな?」


 念を押したら苦笑された。

 けど翁は神を殺すための方法を探していたはず。それなのに?


「……一つ聞きたいことがあるんだがいいか?」

「わしが答えられることなら答えよう」

「実はここに来る時にある遺跡に寄ったんだ。遺跡っていっても、本当はたぶん家だと思うんだけど。あんたも知ってる異世界人ユタカが住んでたところだ」


 ユタカの名前が出た瞬間翁の雰囲気が少し変わった。

 細められた目と合った瞬間、ゾクリと背中が凍り付いた。

 だけど俺は次の言葉を言った。これは聞かないといけないことだから。


「そこであんたが神を殺すための武器を探しているというユタカとの会話する場面があった。もう一度聞く。本当にいいのか?」

「……構わんよ。それにわしらにはもう必要がないものじゃからのう」


 それは自分たちでそれを用意したということか?


「それよりお主たちはこれからどうするのじゃ?」


 興味を覚えて聞こうとしたが、まるで話題を変えるように聞かれた。


「俺たちの旅は元々行方不明だったエリスさんを見つけることが目的だったか……」

「ユタカの映像を見たのなら分かっているはずじゃ。魔王様がどうなるのか」


 途中で気付いた。神殺しの武器を作っていて忘れていたが思い出した。歴代の魔王が辿った運命を。その意味することは……。

 このことはクリスたちもユタカの話を聞いて知っている。気付くかもしれない。

 もし気付いたら、どのような選択をする?


「もしかして、勇者たちを撃退すると女神がこの世界に現れるのか?」


 そして思い出したのはあの壁に書かれた一文。


『今回は三度魔王が召喚者たちを退けた。四度目のその戦いに女神が降臨した?』


 それにユタカは言っていた、最後の方では、一度の召喚で魔王が倒されていたと。

 魔人は、イグニスは常に魔王を守ることを優先している。それは翁も同じなのだろう。ならそれに備えて女神を殺すための方法を探していたとしても不思議じゃないのかもしれない。

 けど女神を撃退して魔王の運命は変わるのか? そもそも女神を殺したらどうなるんだ?


「あんたたちは、女神を殺すのか?」

「……必要ならそうするつもりじゃ。そのための準備をしておる」

「それはエリスさんも知ってるのか?」

「……どうじゃろうかのう。察しているかもしれぬが、詳しくは知らないじゃろうな。わしらも魔王様の前では話していないからのう」


 魔王になった時、記憶を継承するとか言ってた気がする。


「それに魔王様は運命に逆らおうとはせんじゃろう。下手に女神に逆らえば、妹が次の魔王候補にされる可能性が増すじゃろうからのう」

「……それは女神が魔王を決めてるというのか?」

「決める時もあればそうじゃない時もある。ただ女神に敵意を持つ者、邪魔な者は選ばれやすいということじゃ。そのことは、魔王になった時に知るじゃろうしのう」


 ユタカの仲間たちが散り散りになったのは、それが原因なのか? 確かにユタカの仲間たちには、長寿の種族……エルフたちが多かったような気がする。あくまであの映像を見ていた限りだけど。


「じゃから魔王様は女神が降臨したらその身を捧げるじゃろう」


 そう言ったきり、翁は口を閉ざして悲し気な眼差しをこちらに向けてきた。



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