第330話 神殺しの武器・1
「味はどうじゃ?」
ヒカリとミアとコトリの三人が楽しそうに話している時、訪れた者がいた。
翁と呼ばれていた魔人だ。翁は好々爺と言った感じで笑みを浮かべていた。
「うん、悪くない。美味しい」
「はい、美味しいです」
「おじいちゃん。何で前は出してくれなかったの!」
コトリだけ見当外れな回答をしているが、気にしたら負けだ。きっと。
それにコトリ。一応ここに最初に連れてこられた時は捕虜だったんじゃないのか?
「ほほほ、それは良かった。それよりそこの坊主と少し話したいと思ってのう。ちょっと借りてもいいかのう?」
ヒカリとミアが不安そうにこちらを見たが、一応魔王の客の一人として招かれているから変なことはされないだろう。
それに良い機会だ。俺も確認したいことがある。
翁は俺がついて来るのを確認すると無言のまま歩き出した。
廊下は竜王国の王城を思わせる感じで、調度品こそ飾られてないが掃除も行き届いていて清潔感が保たれている。
魔王城といえば、そこらへんに罠があったり、禍々しい石像が飾られていてそれが突然襲い掛かってきたりと、もっと禍々しいものをイメージするのだがここではそんなことを一切感じない。
大きなガラス窓から外を覗けば、手入れのされた草木が植えられていて、色とりどりの花が咲いている。
「驚いたかのう?」
「分かるのか?」
「初めて攻めてくる異世界人はだいたい驚くからのう。イメージと違うと呟く者もいたかのう」
「それもあるが、ここって戦場になるんだよな? もっと破壊の跡とか残っているところがあっても良さそうだと思ってな。それとも魔人が壊れたところを直したりしてるのか?」
「なるほどのう。じゃが我々が直接直してるわけじゃないのう。自己修復機能みたいなのがついておるのじゃよ」
詳しく話を聞けばこのお城。破壊されても玉座で魔力を供給すると、壊れたものが勝手に修復されていくとのことだ。
特に魔王がいる時は、効率よく直すことが出来る。お城だけでなく、お城を中心にある程度の領域がその範囲になっているそうだ。
「何だってそんな機能があるんだ?」
ある意味欲しいなその機能。どんな仕組みか調べてみたいところだ。
「さてのう。昔からそうじゃったとしか言えないのう。さて、それより到着じゃ」
翁に続いて部屋に入れば、そこには見知った魔人が一人いた。
「なんじゃここにおったのか」
「仕方ないだろう。僕にはあの場にいる資格がないし……それに聖女ミアがきているって話だしさ」
アドニス。聖王国でミアを殺そうとした魔人だ。
「落ち着くがよい。我々は聖女に手を出すことはせんよ。アドの坊主もそうじゃろう?」
「……従うよ。それに魔王様が悲しむことはしたくないし」
「と、言うことじゃ。じゃから落ち着くがよい」
翁の言う通り落ち着こう。本当かどうかは分からないが、ミアのことを聖女と知っていて招いたんだ。なら手荒なことをされることはないだろう、と思いたい。
失敗したか? だがこの翁という魔人、どうも俺とだけ話したいような感じだったしな……。
「アドの坊主は何なら謝ってくるがよい。それが出来ぬなら少しイグニスのところへでも行っておるがよい」
そう言ってアドを部屋から追い出した。
「さてこれで本題に入れる。お主、竜王から牙をもらったのであろう?」
「ああ」
「見せてもらえるかのう?」
俺はその言葉に従い竜神の牙を取り出した。
「確かに。お主も鑑定を使えるのじゃろう? ならこの効果を知っておるな」
【竜神の牙】これを使った武器は神をも殺すだろう。加工難易度は最高難度。
「ふむ、何やら魔力を感じるが何かしたのかのう?」
「これを使った武器を作ろうとしたんだけど、なかなか上手くいかないんだよ」
創造のスキルで短剣を作成しようとしたが、今まで全て失敗に終わっている。
失敗すると素材が消えるのが普通なのだが、竜神の牙に関しては元の状態に戻るだけで消滅することはなかった。
だからこそ何度も挑戦出来たわけだけど。
「なるほどのう。それで完成出来そうなのかのう?」
「スキルも上がったから出来る! と言いたいところだけど無理なんだよな」
創造のスキルが先日10になったのに、やはり失敗に終わった。
「ちとどうやっているか見せてもらってもよいかのう?」
俺は頷き、創造のスキルで短剣を作成しようとした。剣の部分を牙で作り、柄の部分を鉱石類で作る。
魔力を流すと徐々に短剣の形へとなっていくが、完成間近で破砕する音が鳴り、竜神の牙は元の形に戻り、鉱石類は消滅して消えてしまった。
「……いつもこんな感じだ」
「なるほどのう。たぶん牙に対して、使っている素材が負けておるのじゃろうな」
そう言うと翁は部屋の中をあさり、何かを探し始めた。
アドニスのことで気付かなかったが、この部屋……かなり汚いな。それを今まで気付かなかった俺も俺だけど……。
荷物が乱雑に積み上げられていて、設置された棚には本がびっしりと詰まっている。入らなくなったのか、床に積み重ねられているものさえある。
今いる場所はいいが、一歩奥に行けば何処に足を踏み入れればいいのかさえ分からない。
だが翁は全てが分かっているのか、的確に隙間に足を踏み入れて歩いている。
「おお、ここにあったのか。ふむ、これとこれなら耐えられるはずじゃ」
そう言って渡されたのはミスリルの塊と一つの魔石。魔石は青く輝き、そのままでも魔力を感じる。
鑑定すると、ワイバーンの魔石であることが分かった。
「使っていいのか?」
思わず聞き返したが、翁は無言で頷くだけだった。
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