第329話 魔王・3

 ひとしきり泣いたルリカは、泣き疲れたのか寝てしまった。


「誰か、ここに」


 エリスが言うと、何処から現れたのかメイド服を着た魔人がやってきて、ルリカを抱えていってしまった。魔人にも性別があったんだな、とかどうでもいいことを思った。今まで男しか見たことなかったからさ。


「皆さんも安心して下さい。この子たちは私の身内ですから。どうか持ち場に戻って準備を進めて下さい」


 最終的に翁とイグニスの二人が残り、他は広間から出て行った。

 エリスは二人にも出て行って欲しそうだったが、無理だと悟ったのかそれ以上言うことはなかった。

 イグニスは特に魔王優先な感じだったし、何かあってからじゃ遅いと思っているんだろうな。


「本当に……お姉ちゃん?」

「ふふ、そうですよ。クリスも大きくなりましたね。そして……セラも」

「それを言ったらエリス姉もそうさ。けど無事で良かったよ。ルリカにはその、ちょっと驚いたけどさ」


 確かにルリカの突然の行動には正直驚かされた。


「たぶん、ルリカは……いえ、本当は気に病むことはないんですけどね。あの子はおちゃらけて見えて、真面目な子だから。それよりも、出来れば他の子たちも紹介してもらってもいいですか? コトリのことはもう知ってますが……」


 その視線は俺とミア、ヒカリへと注がれている。

 興味津々といった感じで、その楽し気な様子は魔王というよりも年相応な女性の反応だ。野次馬じゃないよな?

 俺たちは順に名乗り簡単な自己紹介をした。


「そうですか……皆さんも色々と大変な日々を過ごしたようですね。特にミアさんには迷惑を掛けてしまったようですし。私の力が及ばなかったためです。申し訳ございませんでした」


 ミアが素直に聖女をやっていたことを話すと、既にフリーレン聖王国で起こったことを知っていたのか、エリスが謝罪してきた。

 魔人……アドニスが命を狙ったことに対する謝罪のようだが、イグニスは結構自由気ままに魔人は活動しているって話だったし、彼女には責任はないように思う。


「しかしソラさんたちにはクリスたちが大変お世話になったようです。何かお礼をしたのですが、何か希望はありますか?」

「いや、俺もこの世界に来てルリカやクリスと出会えなかったら、きっとこんな風に生きて来られなかったと思う。だから感謝なんていらないよ」


 それは事実だしな。

 右も左も分からない異世界で生きて来られたのは、やはり二人に出会えたのが大きい。むしろ礼を言いたいのは俺の方だ。恥ずかしいから素直には言えないけど。


「そうですか。あ、そう言えばこれをセラに返さないとですね」


 思い出したように呟いたエリスは、立ち上がると首に掛けていたものを外すとそれをセラに手渡した。


「……これは!」

「ええ、貴女の御守りですよ。それを渡された時は血に染まっていたから、セラはその、もう亡くなっていると思ってたんですよ。イグニスから貴女のことを聞いたときはどんなに嬉しかったか。無事渡せて良かったです」


 それは精霊の御守りだった。セラはなくしたのに無事だという感じをクリスたちが受けていたのは、もしかしたらエリスが持っていたからなのかもしれない。

 実際の真実は分からないけど。


「なあ、積もる話もあると思うし。俺たちは一度席を外すよ。クリスもその方がいいだろう? 折角会えたんだし」

「うん、クリス姉は甘えるといい」


 ヒカリのストレートな言い方に、クリスは頬を染めて恥ずかしがった。

 けど本当が嬉しいことは、その口元を見れば一目瞭然だ。


「魔王様。折角ですから、ここではなく部屋を移して話したらどうですか?」


 イグニスの言葉に頷いたエリスは、二人を伴って移動した。ルリカのことも心配だから、様子を見に行くようだ。


「ではソラよ。お前たちも休むがいい。部屋に案内させよう」


 イグニスの言葉を待っていたように、メイドさんが音も無く現れとある一室に案内された。

 そこには簡単な焼き菓子や飲み物が用意されていて、寛げるような空間になっていた。

 ヒカリは椅子に腰を下ろすと、焼き菓子を一つ手に取ると匂いを確認してからパクリと食べた。

 一応警戒しても良さそうなシチュエーションなのに、ヒカリは食を優先しているのかな?

 実際鑑定しても毒物が混ぜられていないことは分かるが、その思いっきりの良さはどこからくるのだろうか?


「主、おいしいよ?」


 ヒカリに勧められて一口食べれば、確かに美味しい焼き菓子だ。

 普通にお店を出しても問題ないクオリティーで、コトリもその味に驚いている。

 実際聖都で訪れたスイーツ店の焼き菓子にもひけを取らない味だ。


「けど良かったですね。クリスたちもここでエリスさんに会えて」

「そうですよね。私も最初クリスさんを見た時は何処かで会ったかな~とか思ってたんですよ。お兄ちゃんに会ってすっかり忘れてました」


 ミアの言葉を受けてコトリも良かったと頷く。

 けど重要なことを結構な期間忘れていたことにならないか? 責めるつもりはないが、俺たち結構必死に探していることを話してたよね?

 しかし会えたことに対しては俺も同意だが、問題が一つある。

 それは彼女が魔王だということだ。

 嬉しさに舞い上がっているからかもだが、そのことに気付いているのだろうか?

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