第328話 魔王・2(ルリカ視点)

 セラの問題が解決して進んだ先で魔人と会った。

 対峙して分かったのは、私では手も足も出ないこと。出来ることはたぶん時間稼ぎだけのような気がする。今襲われたら、私はクリスを守ることが出来るのだろうか?

 私の心配を他所に、魔人……ギードは凄く友好的だった。拍子抜けしたけど、竜王様からもらった魔道具のお陰だ。

 私は安堵のため息を吐いた。

 それを見たクリスが笑っていたけど、その様子からクリスも緊張していることが分かった。

 もう何年も一緒にいる相棒だ。そのくらい見れば分かった。

 それから黒い森の中にある町、最果ての町に案内された。

 ここで初めて、私たちの旅が始まってから初めてエルフに会うことが出来た。お婆とエルス姉さん、クリス以外では四人目になる。他にも九人のエルフがここに住んでいたけど、残念ながらそこにエリス姉さんの姿はなかった。

 落ち込むクリスを見ると胸が痛んだ……。

 それどころから緊張の糸が切れたのか倒れてしまった。

 私も交代で看病したけど、その苦しそうな姿は正直見ていられなかった。

 今、クリスはどんな夢を見ているのだろうか?

 また、私の胸がチクリと痛んだ。

 私はそんなクリスの横顔を眺めながら考えた。

 エルフに関する情報は、ソラが知り合いの奴隷商から仕入れたものがあるけど、それが本当かどうかを確認する術はない。

 けど可能性があるなら探すしかない。私に出来ることはそれだけだから。

 そんな私たちに、コトリが有力な情報をくれた。

 王城でエルフに会ったというのだ。そこで精霊魔法を習ったというのだから間違いないと思う。

 次の目的地は決まった。けど……私は王都にいた時のことを思い出した。

 王城に行くにはまずは貴族街のある区域に入る必要がある。もちろん高い防壁に囲まれていて、警備は厳重で入るのは大変なはず。

 万が一入ることが出来ても、今度はさらに警備のレベルが上がるであろう王城に入るための手段を考えないといけない。

 そんな中ヒカリちゃんが秘密の通路を知っていると言うことで、話がずんずん進んで行く。

 隣を見れば、クリスはコトリが書く城内の見取り図をジッと見ている。

 その真剣な眼差しに、クリスの強い、切実な想いが伝わってくる。

 これが最後の手掛かりになるかもしれない。私も皆の声に真剣に耳を傾けた。

 そんな中、一人の魔人が私たちを訪ねて現れた。

 彼の名はイグニス。ソラからその名前は聞いていた。

 彼は魔王が私たちに会いたいと言っていると言い、魔王城に連れて行かれた。

 ミアが怖がりソラの腕に抱き付いていた。

 その様子を見ているクリスの表情は、少し複雑そうだった。

 クリスも積極になればいいのにと思ったけど、性格的に難しいのかなと思った。

 思えばミアは変わった。

 転機は竜王国で奴隷から解放されてからだと思う。

 あれ以来、ソラに対して積極的に接するようになった気がする。

 それに対してクリスは消極的だ。見ていれば好意を持っているのは分かるけど、一歩が踏み出せていない。

 これは性格もそうだけど、エリス姉さんのことがあるからだろう。全てにおいて、私たちはセラとエリス姉さんを探すことを優先したから……ちょっと寄り道をしたこともあったけど……ダンジョンとか。

 って、思考が逸れた。うん、現実逃避をするのは止めよう。

 目の前には多くの魔人たちがいた。

 その中には見知った顔の魔人もいたけど、その圧が強かった。

 もし私が一人だったら逃げ出したに違いない。

 けど魔王が手を挙げると魔人たちは私たちから離れるように距離をとった。

 敵意はなかったけど正直助かったというのが本音。

 そして次の瞬間私は衝撃を受けた。


「……ようこそ魔王城に。また……こうして会えたことを嬉しく思います」


 その声は何処か懐かしく、私の耳に響いた。

 まさか⁉ と思った。

 それが確信に変わったのはその顔を見た時だ。

 間違いない。面影が残っている。

 何よりあの優し気な眼差しは……。

 私は思わず走っていた。

 頭は真っ白だったけど体は動いていた。

 私は魔王に抱き付き、


「……エリス姉さん」


 と呟いた。涙が止まらなかった。



 あの日。私たちの村が襲われた日。

 私はエリス姉さんと逃げていた。

 必死に走ったけど子供の足だ。追っ手から逃げることなんて出来なかった。

 だけど私は逃げることが出来た。エリス姉さんが逃がしてくれたから。

 あの日以来、私はクリスの顔を見るたびに思い出した。

 クリスの顔が曇るたびに胸が締め付けられた。

 クリスを苦しめているのは村を襲った人たちじゃない、私だと思った。

 私がいなければ、きっと今もエリス姉さんと一緒に過ごすクリスがいたはずだ。

 私が二人を引き裂いたんだと、思うことが多くなった。

 だから私は本心を隠しながら探そうとクリスに言った。親友のセラも行方不明だったから、二人のことを探そうと。

 本当のことは言えなかったのは、私に勇気がなかったからだ。ごめんね、クリス。

 お婆には本当のことを話した。

 無理をする必要ないと優しく諭されたけど頑なに拒んだ。

 それからお婆は色々教えてくれたけど、ある日姿を消したまま戻って来なくなった。

 もしかしてお婆がいなくなったのも私の所為?

 答えが出ないまま私たちは旅だった。

 いくつもの国を回り、色々な人と出会い。クリスにも笑顔が増えてきた。自然に笑えるようになったような気がする。

 そしてセラと出会い、やっと、やっとエリス姉さんにも出会えた。

 本当に良かった。生きていてくれて、ありがとう。あの時助けてくれて、ありがとう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る