第325話 最果ての町・5

 最果ての町に到着して一週間ほどが過ぎた。

 伏せっていたクリスも徐々に回復していて、どうにか立ち直りつつあった。


「そろそろクリスにも話した方がいいかな?」


 夕食を終えた席で、ルリカとミアに相談した。

 セラは今クリスについて看病中で、ヒカリはコトリに捕まっている。

 コトリは自分よりも年下の子が出来て嬉しいみたいだ。

 なら町の子供たちは? と思うが、コトリが新参者だからか妹分的に扱われるようだ。特に男の子たちからは。

 だから余計に身近にいるヒカリを構っている。ヒカリの境遇を知ったというのも少なからずあると思うが。


「……そうね。明日辺り伝えてもいいかもね」

「それと町の様子が少し気になりますね。子供たちも大人から町の外に絶対に出るなと言われているようですし」


 ミアの言う通り、町の雰囲気が少しピリピリしている。

 魔人のギードが一度顔を見せ、魔王城の近くまで人間たちが攻めてきたと言いにきたことがあった。それが関係しているのだろう。

 この町は魔王城よりもさらに深部にあるため人がくることは殆どないというが、絶対ではない。実際迷って辿り着いた人間は今までにもいたらしい。

 一応この町に張られた結界の効果の一つに、悪意ある者は入れないとあるらしいが。

 そう考えると、ここの結界を作ったのは何者なのかと気になる。



 翌朝。クリスが部屋から出て来て皆で揃って食事を摂った。

 この建物内には一〇人のエルフの人が住んでいて、皆クリスのことを心配して何度も顔を出したから既に皆顔見知りだ。他には獣人の小さな子供たちもいて、皆が揃うと騒がしくなる。

 クリスは一人一人に礼を言って、やがて俺たちと合流した。


「クリス姉、大丈夫?」

「はい、心配をお掛けしました」

「うん、心配した」


 ヒカリがギュッと抱き付けば、クリスは抱きとめてあげている。

 その様子を見る限り、無理をしてないように見えるし話しても良さそうだ。

 もっともそれを言うのは俺じゃなくてルリカだけど。俺から話す予定だったが、ルリカが是非言いたいとのことだった。

 一人、また一人と席を立って行き、やがて俺たちパーティー以外だとコトリだけが残った。


「クリス、落ち着いて聞いて欲しいの。ただその前に、以前ソラが知り合いの奴隷商から受け取った手紙の内容を覚えている?」

「……うん。エレージア王国にエルフが送られたかもって話だよね?」

「うん。それだけどね、本当にいるみたいなの。コトリちゃんがお城で会ってるみたいなの」


 その言葉にクリスは驚いている。

 けどコトリから詳しい話を聞いていくうちに徐々に表情を曇らせていく。


「ゆ、許せないです!」


 話を聞き終えると、クリスには珍しく声を荒げて叫んだ。

 その怒り様はかなりのもので、興奮して肩で息をしている。


「クリス落ち着いて。怒るのは分かるけど……」

「……ごめんなさい。うん、私は大丈夫だよルリカちゃん」

「それで話の続きだけど、どうする?」

「そんなのもち……ろん……」


 クリスはそこまで口にしてハッとして口を閉じた。


「私はクリスが望むなら叶えてあげたい。けど……どうする?」


 ルリカのその言葉に嘘偽りはないのだろう。

 ただ現実問題として考えて、お城にいるエルフを助けるということは、お城に潜入するということだ。

 クリスが行きたいと言えばルリカもセラも力を貸すはずだ。もちろん俺だって力を貸す。けどそれは極めて困難で危険なこと。

 クリスもそのことが分かっているから迷っているのだろう。

 国と国を移動して探していた旅とは違う。旅だって危険なことには変わりないけど、普通に移動する人はするから無理じゃない。


「主……」


 その時ヒカリがくいくいと袖を引いてきた。


「どうしたんだヒカリ?」

「うん、お城入れる」


 その一言に皆の視線がヒカリに集中した。


「私たちが使っていた秘密の通路がある。私も一回だけど使ったことがある」


 それはヒカリが所属した機関が使っていたという非公式のルートのようで、滅多に使われないそうだ。

 ヒカリが利用したのもたまたまだったようで、知らない人も多いだろうと言う。

 ヒカリが紙に書いて説明してくれた。コトリも知っている場所があったようだったが、ヒカリの話すところには行ったことがないとのことだ。


「そこなら見つからずに入れそうか?」

「見張りはいる。けど正面から入るよりは安全、だと思う」


 ヒカリが通った時から月日が経っているから今はどうなってるか分からないみたいだが、それでも無策で行くよりはましだろう。

 あとはコトリに王城内の詳しい地図を作成してもらえば、効率的に探すことが可能になるのか?


「あ、あの! エルフの人を助けるんですよね? 私もついて行っていいですか?」


 話がまとまりだしたところで、突然コトリが手を挙げた。


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