第323話 最果ての町・3
「すいません。私が騒がしくしたから……」
コトリはどうやら自分のせいでクリスが倒れたと思い込んでいるようだった。
「コトリの所為じゃないよ。色々なことが重なっただけだ。だからそんな気に病むことはないよ」
「うん、主の言う通り」
ヒカリの言葉を受けてジッとコトリはヒカリを見た。
そして徐にこちらに振り返り聞いてきた。
「今、主って言いましたよねこの子!」
「うん、主言った」
「ど、どういう関係ですか?」
「? ヒカリは主のもの?」
ヒカリは小首を傾げているが、コトリは混乱しているのか俺とヒカリを忙しそうに繰り返し見ている。
「あ~、まずはコトリはこの世界のことをどれぐらい知ってるんだ?」
「それはどういう意味ですか?」
いくつかの質問をしたところ、どうやらコトリはここに連れてこられるまで、殆どの時間を戦いに費やしていて、この世界のことを殆ど知らないことが分かった。
「まずはヒカリは俺の奴隷だが、いわゆる特殊奴隷というやつだ。で、特殊奴隷というのは……」
懇切丁寧に説明したら、「ずるいです!」と何故か怒られた。
「こんなに可愛い子と契約なんて、羨ましいです」
コトリはヒカリを後ろから包むように抱くと、口を尖らせて言った。
本当に、人って変わるものだな~と思ったのは言うまでもない。
しつこく聞いてきたから、その後ヒカリとの出会いや生い立ちを話せば、今度は涙を流して悲しんだ。
「う~、辛かったですね」
「大丈夫。主と会えたから」
その言葉にはちょっと俺もくるものがあったが、コトリの騒ぐ姿を見て冷静になれた。
「主、お腹空いた」
「そういえばそろそろご飯の時間か? ここではどうやって食事の用意をしている?」
「料理はその……スイレンさんたちが用意してくれます」
なんか今までの勢いからは考えられないほど声が小さかったが、何か分からないことがあるのだろうか?
「クリスにも何か食べさせてあげたいし。キッチンを使わせてもらえるように頼んでもらっていいか?」
「え、料理出来るんですか?」
「そりゃ~出来るよ。保存食とか美味くないし」
「うん、主の料理は美味しい」
「えっと、たぶん他の人がいるかもですし、案内しますね」
コトリに案内された台所では、初めて会う二人のエルフがいた。
二人は俺たちのことを既に聞いていたのか、簡単に自己紹介をしてきた。
俺たちも名乗り、台所を借りたい理由を話したら快く承諾してくれた。
それどころか俺の作る料理に興味があるみたいで、料理の手を止めて見てきただけでなく、色々と質問を飛ばしてきた。
しかしエルフはそういう種族なのか、会う人は皆顔が整っていて美人が多い。もっともそんな数に会ってないから分からないけど。
そのことについて口を滑らしたら、コトリは確かにと同意して頷いていた。
今まで一〇人以上に会ったけど、皆美人で羨ましいと呟いた。
「私はお城でもエルフの人に会ったんですよ。その、首輪をしてましたけど」
詳しく聞けばエレージア王国の王都。あの城で会い、精霊との契約方法を教えてもらったとのことだった。
それを聞いた料理をしていたエルフたちは、顔を曇らせて心配ねと言っていた。
その話を聞いて、思い出すのはドレットの手紙。やはりあの情報は間違っていなかったということか。
ここにいない以上、王都に向かう必要があるが城の中だと手を出せない。
魔王を倒すために戦力をこちらに投入しているとは思うが、完全な手薄になるわけがない。
いっそギードたちに相談して手を貸してもらうか?
「けどお兄さん、本当に料理が出来たんですね」
暗くなった雰囲気を変えるためか、コトリが話題を変えた。
俺も考えるのをそこで止めて、それに乗ることにして種明かしをした。
「俺の実力と言うよりもスキルのお陰かもしれないけどな」
「そんなことない。主の料理はなくてもきっと美味しい」
ヒカリは否定してくれるけど、俺は料理スキルのお陰だと思っている。あとは鑑定かな? 鑑定で食材や調味料が理解出来るのも大きい。
「とにかく、こっちはクリス用で胃に優しいスープにしたから。あとこれは良かったらコトリたちで食べてくれればいいかな?」
「お兄さんたちの分は?」
クリスのこともあるし、しばらく滞在するつもりだから何処か滞在できる場所か空き地を紹介してもらう予定だと言ったら、ここに泊ってはと言われた。
エルフの人たちも部屋は空いているからと歓迎ムードだ。
一応新しい料理を教えて欲しいとは言われたけど。
その後スイレンたちもやってきて、泊っていけばいいと言ってくれたのでしばらくここに滞在することになった。
これからどうするかは、とりあえずクリスが回復してからだな。
黒い森から出ることはあの異空間を使えばすぐだけど、そこからエレージア王国に行くとなると長旅になる。
お金はあるし、いっそ馬車を購入……する必要はないか。ゴーレム馬車を上手いこと偽装して、そのまま走らせた方が早い。
いっそ悪路でも走れるように、改造すればいいのかな?
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