第321話 最果ての町・1

 歓迎の言葉を言い放ったギードは、今はいない。

 後からやってきた新しい魔人に連れられて何処かに行ってしまった。


「話に聞くのと、実際に見るのとじゃ全然ちがうわね」

「うん、ボクも少し魔人に関しての認識が変わったさ」


 ルリカとセラは驚いていたが、ミアとヒカリは複雑な表情を浮かべている。

 ミアはアドニスに酷い仕打ちを受けたし、ヒカリはイグニスを相手に戦った記憶があるからだろうな。


「ヒルルクと申します。ギード様より町を案内するように仰せつかさりました。分からないことがありましたらお聞きください」


 代わりに町を案内してくれるというのがこのヒルルク。狼の獣人らしく、頭の上にちょこんと乗る耳はセラと似た感じだが、ふさふさの尻尾は明らかに違う。

 ヒカリが揺れる尻尾に釘付けになっている。ま、分からなくもない。


「エルフ様をお探しということを聞いています。まずはスイレン様のもとに案内しますね」


 ヒルルクは歩きながら簡単に町のことを教えてくれた。

 現在この町には、住人が二〇〇〇人ほどいて一緒に生活をしているとのことだ。

 この町で生まれた者もいれば、黒い森で迷い保護された者もいれば、ギードたち魔人に保護されて連れて来られた者もいるとのことだ。

 基本的な生活は自給自足を行なっていて、生活自体することには困らないそうだ。

 また町全体を特殊な結界で覆っているため、魔物が町に迷い込むこともないそうだ。


「あ、ヒルルクの姉ちゃん。ギード何処行った?」

「ギード様にこれ渡したいの」

「ギードの兄ちゃんは?」


 案内されていたら町の子供たちが走って来て、次々と質問している。

 ヒルルクは屈んで子供たちに目線を合わせると、


「ギード様はお仕事でお城に戻りました。お姉ちゃんはこちらのお客さんを案内していますから、後でお話を聞きますね」


 と優しく言っていた。

 それを受けて俺たちの存在に気付いたのか、興味深そうにこちらを見てくる者と、ヒルルクの後ろに隠れる者に別れた。それでも気になるのか、半分顔を出してこちらを覗いているけど。


「さ、私も後でそちらに顔を出しますから。それともついてきますか? 今からスイレン様のところに行きますが」


 その言葉を受けて、子供たちはついてくることを選んだようだ。

 ワイワイと騒ぐ子供たちに囲まれて、一気に騒がしくなった。

 子供たちは歩きながらひっきりなしにヒルルクに話し掛けているが、慣れているのか上手い具合に対応している。

 その周囲からあぶれた子供たちはターゲットを俺たちにかえたのか色々な質問が飛んでくる。


「森の中を移動してきたんだろ? もしかして兄ちゃんたち強いのか?」

「どうだろうな? ギードに案内してもらってきたから。それに森の中では魔物とは殆ど戦ってないんだ」

「そうなのか~。強かったら戦い方教えてもらいたかったのにな」


 子供たちの話に耳を傾けると強さに対する憧れが強いように思えた。

 それは彼らが、もしくは彼らの親たちがここに来た理由の一つだからなのかもしれない。

 けどそれ以上に、役に立ちたいという想いが強いようだ。

 二〇〇〇人もの人が暮らす空間。自給自足をしているが増える人数に対して土地の広さは変わらない。

 だから大人たちは森へ出て魔物を狩る。

 今は魔人たちがからいいが、休眠期に入ると自分たちだけで魔物を狩る必要が出てくる。その時に人手はあった方がいいと皆が口を揃えて言った。

 やはりこの世界に生きる者たちは、状況が状況だから自立している者が多い……ような気がした。


「そう言えば、魔人の中で誰が一番強いんだ?」


 強さに憧れる子供たちの話を聞いていて、ふと思いついたことを口にした。


「ギードのあんちゃんだ!」

「イグニス様~」

「ドラコン?」

「アド君可愛い……」

「翁のじっちゃんだよ~」


 と次々と名前が出てきた。

 知らない名前も多かったが、強さとは別の感想を述べる子もいた。


「はいはい、皆が魔人様のことを好きなのは分かりましたから。もう少し静かに歩きましょうね」


 パンパンと手を叩いて騒がしくなった子供たちを静める姿は、本当に手慣れている。


「けど本当に強いのはヒルルクの姉ちゃんだぜ! 逆らったら……」


 ヒルルクのその手腕に感心していたら、そう耳打ちしてきた少年がいた。

 君、さっきギード最高と叫んでいた子だよね? そしてその告げ口をした瞬間、ヒルルクが瞬く間に接近してきて拳骨を落とした。

 頭を押さえる少年を、呆れた目で見る子供たち多数。これもいつもの光景なのかもしれない。


「さ、スイレン様を待たせてはいけません。今からは静かに行きますよ?」


 顔は笑っていたけど目は笑っていなかったな。

 あれだけ騒がしかった子供たちも、黙って手を繋いでついてくる。

 どうやらヒルルクはこの町でも怒らせてはならない一人なのかもしれない。

 その後はヒルルクの説明を受けながら町中を歩いた。

 魔物と戦うことがあるからか、鍛冶屋もあるようだ。

 ただ人が訪れるような場所じゃないから、宿屋はないみたいだ。

 その辺りは空き地でも貸してもらえばいいから、後で相談だな。

 そして連れて来られたそこは、少し古びた……歴史を感じるような大きな家だった。


「ここはエルフ様や、身寄りのない子たちが住んだりしています」


 そう言って、ヒルルクはドアを開けて中に入っていった。

 


 

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