第319話 黒い森・1

「主、お帰り」


 俺が合流すると、ヒカリが抱き着いてきた。

 別れてからそれ程時間は経ってないが、さすがに黒い森の中を一人で行動したから心配されたのかな?

 俺たちはマルクスたちが麻痺して動けないのを確認した後、先に進んだ。

 途中でマルクスたちが使った馬が森の際にいることに気付き、俺が単身転移で移動して逃がしてきた。

 この後馬がどのような行動を起こすか分からないが、ロープに繋がれたままではやがて力尽きるだろう。

 ただ俺が逃がした理由は命を助けるというよりも、馬を発見した者が黒い森に入ってくることを避けるためだ。


「それじゃ本格的に森の探索を始めるか?」


 俺の言葉を否定するように、お腹がなる音がした。

 思わずヒカリを見た俺は仕方ないと思う。実際ミアもヒカリに視線を送った!

 けど当のヒカリは首を傾げている。


「はは、なんか緊張感が消えたらお腹が鳴ったさ」


 セラが恥ずかしそうに言った。

 一安心して気が抜けたからかもしれない。ここ数日少し張り詰めていたからな。


「それじゃまずは食事にするか」


 魔物の気配もないし、ゆっくり食事を摂ることが出来そうだし。

 お祝いというわけではないが、今日の昼食は少しだけ豪華にした。

 作り置きではなくて一から料理したのは、先に倒したブラッドスネイクの血抜きと解体する時間を作るためだ。

 もっともクリスとミアが料理を手伝ってくれたから料理は直ぐに終わったけど。

 食事を終えたらアイテムボックスから竜王から受け取った魔道具を取り出した。

 その魔道具はペンダントになっていて、取り出すと淡い光を放っていた。

 竜王から受け取った時はこのような反応はなかったはずだが?

 やがてペンダントから光が伸びた。まるで道標のように。


「これを追っていけばいいってことかな?」

「そうだと思います。とりあえず信じて行ってみましょう」


 クリスが光の伸びる先を凝視しながら言った。

 これがなくても奥を目指せば到着するようなことを言っていたし、まずはこの魔道具に従って行くか。

 歩けば歩くほどMAPも更新されていくし、迷子になることはないだろう。

 それに黒い森の中とはいえ、普段歩く森とそれほど差があるような気がしない。

 確かに大きな木が多くて日の光を遮るから薄暗い感じは受けるが、同じような森ならダンジョンの中でも普通にあった。


「それはソラだけね、きっと」

「うん、主だけ」


 探索系のスキルを持つ二人が言うには、森の奥に進むたびに気配を感じにくくなっているという。

 今まで一〇出来ていたことが八しか出来なくなっている。集中力を高めたらそれを一〇に戻すことは可能だが、その分神経が擦り減っていくそうだ。


「とりあえず今の所周囲は安全だから、そこまで張り詰めなくてもいいと思うぞ。それと光が向かう先は、どうも魔物が少ないみたいだから」


 まるで魔物がいない方に進んでいるような気がする。


「けど魔物が出ないと、この子たちの力を試す機会がないね」


 ルリカの言う通り、ゴーレムは未だ魔物と戦ったことがない。

 遺跡で襲撃を受けた時も呼び出したはいいけど戦わなかったし、黒い森に入ってからも最初の襲撃以降は魔物と遭遇していないから経験値を稼げていない。

 なので専ら仲間内の模擬戦で学習しているが、強くはなっていると思うが、どれぐらい強くなっているかが分からない。


「オークぐらいなら倒せそうさ」

「そう? タイガーウルフもいけそうだと私は思うけど?」


 セラとルリカの評価だが、信じていいかは謎だ。本当ならかなり強くなったと思うんだが。


「ま、魔物を倒すよりも守りの力が上がってくれた方が私たちは安心出来るけどね」


 ルリカの言う通り、元々は見張りや盾が使える護衛みたいな感じで作ったわけだから、防御力が上がるのは良いことだ……だから模擬戦をするごとにボロボロになっているわけじゃないよね?

 魔力が続く限り自己修復をするから、ボロボロになっても復活するけど、その分活動時間が短くなっている。

 今は魔力を供給できる者が近くにいるからいいけど、いない場合は長期戦は不利になるだろう。



「あ、何かあるよ」


 その二日後。光を追いかけて進んだ先に、一つの大きな石があった。

 ペンダントから伸びる光は、その石に吸い込まれていっていた。

 それは自然の中に溶け込んで違和感なく存在していたが、近くまで寄ったら何か違和感を覚えた。

 魔力察知を使えば、その石自体から強い魔力を感じた。

 その石に手を触れたら、ペンダントが一際大きく輝き、その石の隣の空間が一瞬歪んだ。

 そこには確かに木が存在するが、手を伸ばすと木を通り抜けて向こう側に進めた。

 これがペンダントの効果かどうか分からないため、まずはセラとルリカが先に進み、何事もない事を確認したら続いてヒカリたちが入り、最後に俺が先に進んだ。

 そして木の向こう側に進んだ瞬間。表示していたMAPが突然消えた。

 再びMAPを呼び出そうとしたが、『失敗しました』という表示が突然目の前に現れた。初めてのことだ。


「どうしたの?」


 クリスに聞かれたため正直に答えた。

 周囲を見た限り森が広がっているから、黒い森の中であるとは思うが……。

 その時、警戒して使っていた気配察知と魔力察知に引っ掛かる反応があった。

 まだ遠いが、物凄い速度でこちらに近付いてくる。

 ヒカリとルリカもそれを感じたのか、慌てて武器を構えた。

 それを見たセラたちも警戒レベルを上げ、ゴーレムがクリスとミアを庇うように前に出た。

 そして緊張する俺たちの前に現れたのは、二人の魔人だった。

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