第318話 決着(セラ視点)
正直どうしようか悩んでいた。
今のボクの力なら、無理に押し通しても三〇人ぐらい殺すのはわけないと思っている。
けどそれをルリカとクリスの前でする勇気が、ボクにはなかった。
ソラも人が殺せないという悩みがあったみたいだが、ボクは人を殺せる。
ただ、それを二人に見せるのに抵抗があった。何と言われるか不安だった。
だからヒカリちゃんの提案にのった。
ただの答えの先延ばしだ。
何処か、魔物に蹂躙されて皆死んでくれればと思う自分がいる。
けどそれは裏切られた。なのにそれを喜んでいる自分がまたいた。
数多くの魔物に襲われたんだ。あのマルクスが生きているとは思えないけど確認しないわけにはいかない。生き残ったのが誰であれ、生かしておいていいことはないのだから……。
それと待っている間、ヒカリちゃんに良い方法があると教えてもらったことがある。
ボクはそれを聞いて驚いたと同時に、そういうことを平気で考えることが出来るようにヒカリちゃんを育てた王国に怒りを覚えた。
こんな良い子を……にするなんて……。
沸々と怒りが湧き上がってきたから慌てて深呼吸する。
落ち着かないと、見た瞬間暴走しちゃうかもしれない。
ソラに案内された場所は、強い血の臭いが立ち込めていた。こういう時、自分の鋭い嗅覚を恨めしく思う。
ボクたちに気付いたのか、帝国兵が立ち上がろうとしたが体に力が入らないようだ。
その中の一人を見て思わず飛び掛かりそうになった。
相手もボクの姿を見て、最初驚いていたようだがすぐに睨んできた。
その憎しみの籠った視線を受けて、逆に冷静に慣れた。
こいつは結局自分のことしか考えていない、そんな奴だったということがそれだけで分かった。
「た、助けてくれないか」
呻くように呟くその人は警邏隊の制服と装備だ。
たぶん何も知らないまま、命じられるまま付いてきたのだろう。違う、弱った振りをしているけど、間違いなく知っていて参加したはず。
あの瞳の色。あの微妙な仕草。ボクが今まで見てきた帝国民だ。
マルクスはそういう奴だから。あいつは自分の思い通りにならない奴を周囲に置かない。
ボクが無視して近付けば、案の定襲い掛かってきた。
ボクはその攻撃をいなし、短剣を振り抜いた。
新たな傷を負ったその男は、その勢いのまま地面に転がった。
痛みはそれほどないはずだ。致命傷を与えるのが目的じゃないから。
ボクは黙ったまま近付き、最終的にマルクスを含めた四人を斬った。
「こ、こんなことをして! ただで済むと思ってるのかこの獣が!」
「ああ、生きて帰ったら必ず殺してやる!」
罵詈雑言を浴びせられて思ったことは、この期に及んで自分たちが助かると思っているその神経。生きて帰すわけがないのに、そんな言葉が出ることに驚かされた。
「君たちはここから生きて出られないさ。運が良ければ、もしかしたら助かるかもだけどさ」
ボクの言葉にマルクスが睨んできたが、何かを感じ取ったのか表情を一変させた。
「動けないかい? この短剣は斬った相手に麻痺の効果を与えるのさ。そしてその効果は三日続く」
ヒカリちゃんによるとだけど。もちろん個体差はあるそうだけど。
「ボクたちは君たちを殺さないさ。けど、魔物はどうだろうね?」
麻痺が回っているのか、もう反論の言葉すら出ないようだ。言葉にならない呻き声は聞こえてくるけど。
これで三日間。黒い森で動けないまま過ごすことになる。
それは恐怖だ。
ボクたちが何度も何度も味わった恐怖。身を寄せ合い、朝日をまた見ることが出来た時の安堵。そうやって、何日も何日もボクたちは過ごし、皆先に逝ってしまった。
多くの仲間と友達を看取った。
どんなに痛みに苛まれても、最後の瞬間だけ、皆穏やかな表情を浮かべたのを今でも覚えている。
何故か? それはボクには分かる。
ボクもきっと、あの時死んでいたらそうだったに違いない。
苦しくて、けど最後まで諦められなくて戦い続けた。違う、あんな奴らに負けたくないと意地になって戦っていた。
それでもあの過酷な中で安らぎを得られるのは、死ぬときだけだと思っていた。
だから皆、あの時こう思ったに違いない。
やっと解放される……と。
マルクスを見ると、何かを必死に訴えかけようとしている。
他の三人もそうだ。中には情けない顔をした者もいる。
麻痺で体が動かないようだけど、表情を動かすことが出来るんだと、どうでもいいことを思った。
死なないように息をすることが出来るわけだから、全ての機能が麻痺するわけじゃないのかもしれないけど。
「あれでいいのか?」
「ああ、いいさ。それにもう死んだも同然だからさ」
ボクは知っている。この黒い森がどんなところかを。
奥に比べて浅い場所だけど、それでも少なくない魔物が次々と現れる。ここはそういう特殊な場所だ。
これだけ濃密な血の臭いが立ち込めていたら、きっと魔物は寄ってくる。
その時が、マルクスの最後だと確信している。
だから死ぬまでのその一時を、ボクたちが体験したのと同じような恐怖を感じながら過ごせばいいと思った。
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