第317話 追跡・3

 追っ手がやはり現れた。

 警邏隊にしては数が多いからすぐに分かった。その数三〇。


「それでどうするの?」

「街道でやり合うのはやっぱ危険だと思うんだ。だからいっそ黒い森の中で戦えたらいいなと思ってる」

「黒い森ね。それまで逃げられると思う?」


 確かに夜の移動に使っているゴーレム馬車は、街道なら問題なく進めるが荒野は難しい。いや、無理をすればいけなくはないけど、たぶんしっかり休むことが出来ない。凸凹だから振動がきっと辛い。


 そこで荒野に入ってから、クリスと一緒に水魔法を使って地面を濡らすことにした。試しに大量の水を与えたら、ぬかるんで歩き難い環境を作ることが出来たからだ。

 ただ乾くのも早いようで長時間その状態を保つことは出来ないが、それでも行動を阻害することは出来そうだ。

 その狙いは見事的中し、一定の距離を保つことが出来、ついに黒い森に入るまで追い付かれることがなかった。

 しかしこの追っ手。やはり因縁がある者だな。

 ここまで執拗に追ってくる以上、ただの警邏隊とその協力者であるはずがない。

 一度近くまで接近された時に、クリスが精霊の力を使って相手の容貌を確認したが、その中にマルクスと同じ特徴の人物がいた。

 セラは間違いないと言った。


「それでどの辺りで迎え討つつもり? 結構魔物の反応があるわよ」


 ルリカの言う通り、MAPを確認すると魔物の反応が多い。

 追っ手と戦えば、その音を聞いて魔物が寄ってくる可能性は高い。


「セラはどうしたいんだ?」

「特に思うことはないさ。追いかけられるのは鬱陶うっとうしいけど……」

「セラちゃんは恨んでないの?」

「……ボクだって思うところはあるさ。けどそれに関しては、もうどうしようもないからさ」


 俺の問い掛けには何ともないと答えたセラだったが、クリスに聞かれて苦しそうに顔を歪めた。

 本当はセラだって怒っている。

 苦しそうにしたのはマルクスによって黒い森へ追いやられて死んでいった仲間たちのことかもしれない。


「……セラ姉。いい方法がある」


 するとそれまで黙っていたヒカリが口を開いた。

 ヒカリの提案は実にシンプルで、確かにこの方法なら打撃を与えることが出来る。

 マルクス一行の動きからして、少なくとも一人は索敵能力を持ったものがいるはずだ。それは俺たちの方に迷うことなく向かって来ていることから間違いない。

 だからそれを逆手に取って罠を張るというのがヒカリの提案した方法だ。

 俺たちは魔物の多い方に進路をとり、その途中で罠を仕掛けた。

 相手に直接攻撃を与えるものではなく、単純に大きな音を鳴らすものだ。

 ただ静まり返った森の中で音が響けば、それに引き寄せられる魔物は多いだろう。

 セラたちが強いられたことを、マルクスたちにも味合わせる。確かに意趣返しとしてはいいのかもと思った。

 ヒカリは以前聞いたセラの話を覚えていて、その方法を提案したんだろうな。

 そしてマルクスたちは、俺たちの狙い通りに動き、罠に掛かった。

 森の中に大きな音が響き、周囲に散っていた魔物が一斉に引き寄せられるように動き出した。

 もちろん進路上にいる俺たちのところにも向かってくる魔物がいるため、そいつらはこちらで処理した。

 下手に逃げ惑うと、逆に多くの魔物をこちらに引き寄せてしまう可能性があるからだ。

 それに数が少ないところを選んで、前もって移動していたしな。

 俺たちが相手にしたのはブラッドスネイク五体。これがマルクスたちの方に向かわせていたら結構な戦力になったかもと思ったが仕方ない。

 ヒカリは嬉しそうだったけど。


「実際のところ、警邏隊とか帝国の人間の力ってのはどれぐらいなんだ?」


 鑑定してレベルを確認したが、バラバラなんだよな。そのため強いのかどうかが分からない。

 単純に考えればレベルが低いってことは、それだけ魔物を倒してないってことなんだろうが……。

 実際取り巻きだとセラが言ってた男のレベルは八だった。


「正直強い奴は強いさ。力こそ全ての国だから。ただ弱い者は弱い……人に任せて自分は一切戦ったりしないからさ」


 マルクスもそんな一人だったそうだが、今はどうなのか?


「それで戦況はどうなの?」


 ルリカに聞かれたから俺はMAPから分かることを伝える。

 もっともMAPに表示された反応が消え具合で、被害状況を伝えることぐらいしか出来ないが。

 現在囲まれないように、マルクスたち……帝国兵は円のような陣形を組んでいる。その中心に七人ぐらいいるが、予備兵なのかそれとも身分が高い者なのか、それはここからでは分からない。

 最初の攻防は見事な手際で攻撃を防いだ。もっとも魔物の移動速度の差があるため、突出した魔物が最初に倒されただけだ。

 実際第二波では、三人の反応が消えた。

 すぐにその穴を埋めるため中央の三人が前に出たが、徐々に魔物に圧されていった。

 一時間後、群がっていた魔物の反応は全て消えて、残ったのは四人だけになった。

 その間、中央から一人動かない者がいた。


「終わったようだ」


 魔物を退けた帝国兵は、その場から一切動きを見せない。

 一時間も絶えず休みなく戦えば仕方がないだろう。

 この後どうするかはセラが決めることになっている。

 痛い目を合わせて終わりならこのまま俺たちは先を急ぐが、もし許せないなら……。

 セラは頷き、歩き出した。

 向かう先は帝国兵たちのいる方向。

 それが答えなら、俺たちはただ従うだけだ。その権利は、セラだけが持ち合わせたものなのだから。

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