第312話 アストゥース・1
町の前まで到着したら、ルリカとクリスはかなり驚いているようだった。
「どうしたんだ二人とも?」
「あ、前来た時と町の様子が随分変わっていたから少し驚いたの」
「クリス。これは変わったってレベルじゃないと思うよ」
話を聞いたところ、以前の町は普通に防壁に囲まれたありふれた町だったらしい。
しかし今は王国にあった南門都市と同じような感じで、町の周囲に農場が儲けられている。ただ違う点は、農場を囲うような柵……防壁がないため、魔物に攻められたら一溜りもない点か?
良く見るとまだ農地は拡大されているから、柵を設置しようにも出来ないのかもしれない。
「あと外壁に沿って小屋のようなものが見えるから、そこに人が住んでいるのかもです」
「あ、本当ね」
農地を眺めながら街道を歩いて行けば、確かに防壁に張り付くように簡易な小屋が建ち並んでいる。
そしてもう一つは農地で働く人たちの姿。その殆どが奴隷の首輪をしていて、その中には獣人の姿もある。
思えばこの世界に来て、これ程多くの奴隷が一箇所に集まって働くのを見たのはこれが初めてかもしれない。
そもそも奴隷を連れ歩く人自体それ程見てない。
「どうしたのソラ?」
「奴隷がこれほど集まっているのを見たのがこれが初めてだったからさ」
「今は奴隷の殆どが黒い森関係の人手に回されてるからかもね。けど獣王国や魔導国家では結構見かけたかな」
俺がマジョリカじゃあまり見てないことを話すと、ルリカはもう一つのダンジョン街であるプレケスでは結構の数の奴隷を見たという。
「たぶんソラが思っている以上に、この世界は奴隷の数が多いさ」
セラは何処か遠くを見て言った。
安全を保障するとはいっても、あくまで奴隷主が直接奴隷に危害を加えることを禁止しているのであって、その労働環境は決していいとは言えないそうだ。
特に犯罪奴隷の扱いは酷く、重罪人に対しては容赦がないという。ある意味それは自業自得だから仕方がないのかもしれないが。
「ふーん、行商人ね」
俺の身分証を確認しているが、視線は女性陣の方に注がれている。
特に門番の片割れは、厳しい視線を送ってきている。今俺の対応している者は興味の度合いが多いようだが、この差は何処からくるのだろうか?
「揉め事は起こすなよ」
と言われて俺たちは町の中に入った。
「何、あいつ。セラのこと睨みつけてたよね」
「うん、怖いほど睨んでいました」
ルリカとクリスもあの視線には気付いていたようだ。
ミアも少し不安そうにしている。ヒカリは、ミアの手を握って静かについてきている。
「ここじゃ何だから、後で話すさ」
と注目を浴びたセラは小声で言ったきり黙ってしまった。
町の中の雰囲気はドロースよりも酷く、旅人である俺たちを見る視線も何処か余所余所しい。
大通りには屋台が並んでいるが活気がない。
「ギルドに寄るか? それとも先に宿にするか?」
「……先に宿にしましょう。セラもその方がいいでしょう?」
結局宿を先にとり、俺たちは行商をしながら旅をしている一行だと宿の主人には説明した。次の目的地を何気なく聞いてきたから、防衛都市ノーブに行くか帝都ハイルに行くか悩んでいると答えておいた。
その言葉に驚いた表情を浮かべながらさらに踏み込んで尋ねてきたから、俺が扱っている商品がポーション類のため、防衛都市なら稼げるかもしれないとだけ言っておいた。
これなら俺が防衛都市方面の街道に向かっても不審な点はないだろう。
「それで、何か心当たりがあるんだよね?」
部屋に入るなりルリカがセラに尋ねた。
セラはそれに対してコクリと頷き口を開いた。
「あの門番。ボクが黒い森で戦っていた時の、奴隷主の取り巻きの一人だったさ」
「確か色々あってその貴族、罰を受けたんだよね?」
「そう聞いてる。確か役職から外されたって話さ」
黒い森の防衛部隊に志願して、手柄を上げようとしたが結局それが失敗に終わり、最後奴隷に八つ当たりしたんだったか。それが元でセラに返り討ちにあって、そいつが行ったことが外に知れ渡った。
「その当人がここにいる可能性はあるのか?」
「あの取り巻きがここにいるのを考えると、いる可能性はあるさ。あれは腰巾着の一人だったはずだし」
「……なら明日は私とクリス二人でギルドの方に行って来るよ。セラたちは宿で待機してもらって方がいいかな?」
「ボクは宿にいるさ。変に絡まれると迷惑を掛けることになると思うし、何よりもしいた場合会いたくないから。ただ二人だと心配だから、ソラに一緒に行ってもらった方がいいさ」
「分かった。ミアとヒカリはお留守番でいいか?」
二人はセラと一緒にいてくれるようだ。
新しい町に来たら屋台巡りを楽しむヒカリだが、やはりまだ本調子じゃないようだ。
この状態のヒカリを黒い森に連れて行って大丈夫かと心配になるが、かといって放っておくことも出来ない。
特にルフレ竜王国で奴隷契約解除を言った時のことを思い出すと、今離れ離れになることはしてはいけないような気がする。
何か復調のきっかけになるようなことがあればいいと思うが……ここは時間が解決してくれるのを待つしかないのだろうか?
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