第311話 ドロース

 第一印象として思ったのは、不快な町だというところか?

 町に入場するのに各々カードを差し出したが、その時門番一人のセラとヒカリに対する態度は最悪だった。特にセラには小馬鹿にしたような笑みを浮かべていて、それを隠そうともしなかった。

 その隣で同僚の門番がため息を吐いていたから、あくまでその個人の問題だと思うが良い気はしない。

 町の中は町の中で、陰鬱というか、暗い印象を受ける町だった。

 あまり活気がなくて、まるで息を潜めて暮らしているのかといった印象を受けた。

 国境を監視するために建った監視塔が、まるで国境ではなくて町中を監視しているのではないかと思うほど重苦しい空気だった。


「旅人とは珍しいね。何処に行くんだい?」

「共和国の方から来たの。二泊の予約をお願い」


 ルリカが手慣れた手付きで受付を済ませる。

 女将さんはチラリとセラのことを見たが、特に何も言わなかった。

 宿からしたらお金を落としてくるなら、どんな人でも構わないというスタンスなのかもしれない。

 ただしきりに旅の話……予定を聞いてくるのは気になったが。

 その理由は部屋に入ってからルリカが教えてくれた。


「たぶん他所から来たから聞いてきたんでしょうね。怪しい素振りを見せたら警備兵に通報しないといけないから」


 それは義務ではないが、例えば宿屋なら宿泊客が問題を起こした場合、その宿屋の従業員も責任を取らされる可能性がある。

 だから宿屋としては何事もなく過ごして、旅立ってくれることを願っているそうだ。


「だから予定を聞いてきたのか」

「ええ、もしかしたら報告されるかもだけど。嘘を言っている訳じゃないから問題ないわ。むしろ次の町で聞かれた場合をどうするかだけどね」


 確かにルリカの言う通りだ。

 進言通りと違う道、街道のない道を通って黒い森に向かえば、変な行動をとったとみなして拘束される可能性が出て来るのか?


「その辺り黒い森を目指しているって正直に言って、遠回りになるけどある程度町から離れるまで街道を利用するしかないかな」


 アストゥースの町から西に向かえば帝都ハイルに。北西に向かえば防衛都市ノーブに到着する。

 最初はノーブ方面に向かう街道を進み、ある程度進んだら黒い森方面に舵をとればいいか。

 その日は普通に一泊し、翌日は町の中を散策した。

 改めて町中を歩ていると、余所者が珍しいのかチラチラと視線を送ってくる。

 途中で二手に別れて、ルリカとクリスが冒険者ギルドに、セラは俺たち三人と買い物向かった。

 この時セラがこちら側に同行したのは、血の気の多い冒険者ギルドに行くと、セラが絡まれることを心配したからだった。

 町中でも不快に思った者が絡んでくると思ったが、町を歩く限り人通りはそこまで多くないし、何より不用意に問題を起こせばその当人にも厳しい罰が与えられるから、出来るだけ接触を避けているような節がある。

 そう思ったら、今までチラチラと向けられていた視線も、監視というよりもこちらの動きを警戒しているためのもののような気がしてきた。

 町の人からすれば、平穏無事に過ごせればいいと思っているのだろう。

 なら冒険者ギルドでも同じじゃないかと思うが、冒険者は気性の荒い者も多いし、後先考えない奴もそれなりにいる。

 俺も今まで絡まれることが多かった。

 けど不思議と、イメージ最悪な王国の冒険者が、ある意味一番親切でまともだった気がする。


「ソラどうしたの、突然笑って」

「主、気味悪い」


 ミアとヒカリから指摘されて、慌てて理由を言った。

 特にヒカリは聖王国で変な冒険者に絡まれたことを知っていたから、その理由に納得してくれていた。


「ソラは運が良かっただけだと思うさ」


 同じ人間至上主義を掲げているからか、セラは少し懐疑的だったけど。

 結局この日は食料を買い、あとは道具屋に寄って魔力薬草を買った。

 道具屋で買うのはもったいないというのが今までのスタンスだったが、今はとにかくマナポーションを大量に作る必要がある。

 理由は簡単。俺のスキルのレベルを上げるためだ。

 あの遺跡でこの世界の闇に触れ、今までも時間とMPがあればスキルの熟練度を上げるために魔法を使ってきたが、それでも足りないと思い積極的にマナポーションを利用してスキルを使う回数を増やしている。

 遺跡から街道を外れてマルガリに進む道を選んだのも、ルリカが薬草の群生地のある草原があるからというのを聞いたからでもあった。


「ソラ、無理しないでね」


 とはミアに言われた言葉だが、今重点的に上げている時空魔法や複製は、レベルが上がるほど効果が強化されているから、出来るだけ高レベルにしたい。

 高レベルになって上げづらくなっても、スキルポイントが余っているから、最悪最後はそれを消費してもいいとも思っている。

 ただそれには、最低でもレベル9までは上げたいところだ。


「後で後悔するなら、今のうちにやれることはやっておきたいから。それにポーションも飲み過ぎると一定時間効果が出なくなるから、そんな無理はしてないよ」


 その縛りがなければ無理をしたかもしれないけど。

 そうして翌日。予定通りドロースを出発した。


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