魔王国編

第310話 国境

 アルコニトを発って三日経った。

 見渡す限り荒野だが、MAPで見るとちょうどこの辺りがエルド共和国とボースハイル帝国の国境線辺りになる。

 そしてその野営中、ふと大事なことを思い出した。


「なあ、ミア。黒い森に行くが大丈夫なのか?」

「どうしたの突然。まさか残れって言うの? な、仲間外れは嫌だからね」


 俺の問い掛けに不満そうな答えが返ってきたが、俺の心配は別のところにある。


「いや、黒い森に行くと……アドニスだったか? あの枢機卿に変装してた。そいつに会うことになるかもだと思ったんだが」


 黒い森は魔人の勢力圏だ。魔王城? に住んでいるなら近寄らなければ大丈夫だと思うが、何かの拍子に遭遇する可能性はゼロではない。

 もちろん襲い掛かってくるようならミアのこと全力で守るし、必要なら退治することも厭わないつもりでいる。

 そんな俺の心配を他所に「あっ」とまるで今思い出したような反応をミアがした。

 忘れていた俺が言うことじゃないが、当事者としてどうなのかと思う。


「そ、それは怖いけど。けど少しだけ感謝をしてるんだよ。だってあれがなかったら、今の私はいなかったのだから。それにソラがきっと守ってくれると信じてますから!」


 頬を赤らめてそう力強く言われるとこちらが照れる。それとルリカとセラがこちらをニヤニヤしながら見ているのも気になるところだ。揶揄われると精神的に疲れるからやめて欲しいな。

 見張りは今日も交代制で行う。俺とヒカリ、セラとミア、ルリカとクリスが組んでいる。これはゴーレムに魔力を供給するために魔力量の多いものが別れるカタチになった。

 ただ現在のゴーレムは二体とも小型化している。防衛というよりも、魔物もしくは不審者が近付いてきたら知らせてくれるという使い方をしている。

 なら必要なくない? と思うが、スキルの熟練度と学習のために使用しているといった感じだ。

 大きくすると万が一監視塔にいる見張りに気付かれると厄介だからというのも小型で運用している理由だ。

 魔物使いは前回の襲撃で見たが、まだゴーレム使いというのを見たことがない。

 だから変に目立って騒ぎを起こさないためだ。

 共和国側なら何かあっても大丈夫なような気がするが、帝国領に入ってからは特に注意が必要だと思っている。

 あのボースハイル帝国出身の冒険者、光剣のイメージが強いが、セラや実際に帝国内を旅したルリカたちの話によれば、傲慢な人間は多いと言うことだった。特に力を持っているもの……貴族などの身分が高い者にその傾向が強いとの話だった。

 そんな奴らの目に留まり、トラブルに巻き込まれて、無理やり黒い森の討伐に参加させられるなんてことになったら大変だ。

 その点を特にルリカから念入りに注意された。

 それにアルザハークに教えてもらった目的地点に行くには、ドロースとアストゥースの二つの町を通らないといけない。

 いっそその二つの町から離れた場所を移動すればいいのではと思うが、街道を離れて移動すると不審者と思われる可能性が高く、見つかると拘束される。

 帝国内は警邏けいら隊が街道を巡回しているかららしい。

 そしてこの警邏隊、旅人や商人の安全を守るためではなくて、不審者を捕まえる目的で結成されたとのことだ。

 帝国は人間至上主義を掲げて人間には住みやすい国のように聞こえるが、その内情は一部の権力者や、力の強い者には住みやすいが、弱者はただ搾取されるだけの住みにくい国だったりする。

 だからどうしようもなくなると夜逃げをする者もそれなりにいるようだ。

 その不満を抑えるため人間至上主義を掲げ、多種族を下に見ることで不満を抑えている側面もあるそうだ。帝都のコロシアムで開催される奴隷同士や魔物の闘いも、その狙いが僅かだがあるのではないかと言う。


「そうなると町には入らずに移動した方が良かったりするか?」


 セラのことを見て尋ねた。

 間違いなく帝国でのセラ……獣人の扱いは悪いだろう。もしかしたら特殊奴隷ということでヒカリの風当たりも強くなるかもしれない。

 食料に関してはマルガリとアルコニトでしっかり補充してきたから、無理に寄る必要はないと思う。


「……セラには悪いけど。町には寄った方がいいかな。帝国がどんな国かを肌で感じた方が良いと思うし。それに国境に接しているドロースは、そこまで酷くないから。ちょっと矛盾しているけどね」


 それでも帝国の多種族に対する態度を知るには十分だとルリカは言う。

 一応以前会った光剣の話をしたら、そういう輩も多いと言われた。


「それに冒険者ギルドで周辺の情報は確認した方がいいと思います。帝国は魔物だけでなく、盗賊も多い国ですから」


 ちなみにルリカたちが帝国内を移動している時は、基本乗合馬車で、時々護衛依頼を受けての移動だったらしい。


「なら俺たちも乗合馬車とかの方がいいか?」


 と尋ねたら口を噤んでしまった。

 これは俺のスキルがあるためというよりも、セラが原因みたいだ。

 お金を支払えば乗ることは出来るが、セラにとって環境は良くないとのことだ。

 そうして俺たちは三日後。予定通りドロースの町へと到着した。 







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