第309話 閑話・13

「準備は出来たな? なら出発だ!」

「ま、待って下さい獣王様! 本当に行くんすか?」

「馬鹿野郎! ここでは獣王と呼ぶな!」

「痛いっす。じゃ、何て呼べばいいんすか?」

「……リッチエンドと呼べ!」

「いやいや、今適当に考えたっすよね! 何も考えてなかったすよね⁉」

「そんなことはない! と・に・か・く・だ。俺の命令は絶対だ。ついてこい」

「けど獣王様がここを離れたら」

「馬鹿野郎! リッチエンドと言っただろ‼」

「リッチエンド様が離れたら国が大変なことになるっす。黒い森からの侵攻だってあるのかもしれないんすよ」

「それは大丈夫だ。フィーゲルに任せてあるし、森の近くの集落の者たちの避難は完了させている」

「えっ、マジっすか? 誰に言われたんすか? リッチエンド様らしからぬその方針!」

「貴様は俺を何だと思っているんだ……」

「もちろん脳き……じゃなかった獣王様っすよ!」

「……これが終わったら少し鍛え直す必要がありそうだが、今はまあいい。とにかく行くぞ!」

「けどこんなに連れて行く必要なんてあるんすか? 騎士団と冒険者合わせて五〇〇人なんて」

「……今から始まる戦いはそういうものだ! 本来ならもっと欲しいぐらいだが、万が一の備えは必要だからな」

「……確かにそうっすけど、絶対に問題になるっすよ?」

「理由は散々説明したはずだが?」

「た、確かに聞きましたけど……」

「不安なら、嫌なら残ればいい」

「……いえ、行かせてもらいますっす。本当なら放っておけないっす」

「なら俺を信じてついてくればいい! よし、野郎ども行くぞ!」

「…………」



「ふむ、久しぶりの旅も悪くないな」

「いやいやいや、結構国内を飛び回ってますよね?」

「……国内と国外じゃ違うものさ。それにしても、この国の魔物はうちのと比べても少し強いな。数も多いようだし」

「聞いた話だとここ最近らしいっすよ。魔物の数が増えたのと凶暴化してるのは」

「……ふむ。魔王の力が強まってるということかな?」

「そうかもしれないっす。王国の野郎どもが声高に叫ぶのも頷けるっす」

「王国と帝国は広範囲で隣接してるからな。今出てる魔物も黒い森から流れてきてるのかもしれんな」

「それはあり得るっすね。全てをカバーするのは難しいっすから。けどうちだって、多少は黒い森と隣接してるっすけど、大丈夫なんすか?」

「それは問題ない。そのための準備を何年も前からしてたからな」

「フィーゲルさんが本気かとぼやいていた奴っすよね。今となってはリッチエンド様が正しいことが証明されたわけですが」

「だから言ったんだよ。それを当時はぐちぐちとぐちぐちと」

「それは仕方ないっす。日頃の行いが悪いっす」

「ええい、黙らんか! とにかく王都に急ぐぞ!」

「分かったっすよ。けど前々から思ったんすけど、何で王都っすか? そりゃ、王都近くには城塞都市があるって話っすが、あそこはもう戦力が整っているんじゃないっすかね?」

「…………」

「はっ、まさかと思うっすけど観光目的じゃないっすよね? って、何で目を逸らすっすか! まさか本当に観光じゃないっすよね」

「……そんなことはない!」

「なら目を見て言って欲しいっす。あ、また目を逸らしたっす!」



「す、凄いっす」

「ふむ、なかなかの造りだ。ま、うちの王城ほどじゃないけどな」

「いやいや、明らかに違うっす。うちもこんな風にしっかり造るべきっすよ」

「えー、堅苦しいだろ?」

「安全が第一っすよ。リッチエンド様の命を狙う者だって……いないっすね」

「当然だ」

「その自信が何処からくるか教えて欲しいっすよ。それで、今からどうするんすか?」

「当初の予定通り冒険者はギルドに向かわせて情報集だ。騎士団の者たちは分散して待機するように部隊長に指示しろ」

「分かったっす」

「それが終了したら部隊長及び、冒険者の代表者に集まるようにも伝えるのを忘れるな?」

「了解っす」

「…………」

「……リッチエンド様、皆集まりました」

「……長旅ご苦労。まずは疲れを取ることを優先してくれ。そして今回の作戦に関しては既に理解していると思う。最悪命を落とすような危険な任務だ。だからこそ確認したい。本当にいいのか? 俺について来てくれるか?」

「…………」

「……分かった感謝する。では時が来るまで体をゆっくり休めてくれ。では各自準備だけは怠らないように! では解散!」

「……本当にこれで良かったんすか?」

「ああ、お前も良かったのか?」

「もちろんっす。この命は既にリッチエンド様のものっす。だからあとは一言、命令をしてくれればいいっすよ」

「分かった。ならその時まで……楽しむとしようか!」

「って、観光っすか? 観光に行くんすか!」

「折角来たんだからな! さあ行くぞ!」

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