第308話 遺跡・6

 遺跡に到着したのはそれから三〇分後ぐらいだった。

 転移を使って飛んでいた時は気付かなかったが、予想以上にシュウザたちは遠くまできていたようだ。

 それはポーションの回復効果がなくなるまで連続服用したわけだ。


「何処までいってきたの? 心配したんだよ。ヒカリちゃんも元気ないし」


 ルリカの視線の先には、確かにミアにべったりひっついたヒカリがいた。心なしか表情が曇っているようにも見える。

 俺が転移で追いかけた話をしたら少し呆れられたが、相手が自爆して自決したことを話すと「そっちもか」と言われた。

 どうもこちらも戦闘が一段落して死体から手掛かりを掴もうと検分を始めた矢先に、死体が勝手に爆発したそうだ。

 それによる負傷者も出たが、ミアをはじめとした神聖魔法の使い手が治療をしたため被害らしい被害にはならなかったようだ。

 その後話し合いが行われて、リザリーからここの遺跡を一時封鎖することを聞かされた。大変申し訳ありませんと頭を下げられたが、こちらとしては既に知りたいことは知ることが出来たから問題なかった。

 もしかしたら、もっと詳しく調べたら新たな発見があるかもしれないけど、その可能性は低いと思っている。

 俺たちに反対がないことを知ったリザリーは心底安心しているようだった。

 その後研究者たちに猛反対をされたことを愚痴って帰っていたが、その時リザリーの表情はちょっと怖かったとだけ付け加えておく。


「封鎖か。少しはナハルの食料問題が改善するのかな」


 クリスは遺跡の封鎖よりもナハルのことが心配なようだ。

 封鎖の内容にもよるが、多少は改善するだろうと思いたい。

 襲撃を受けたことで価値が引き上げられて、多くの人数が来るとなるとそれは難しいのかもしれない。


「それではリザリーさん。お世話になりました」

「い、いえ。こちらこそ変なことに巻き込んでしまい。申し訳ありませんでした」


 お礼を言ったはずなので逆に恐縮されてしまったようだ。

 なんかクリスは重要人物認定されてるみたいだし。エルフであることはバレてないから、やはりクリスが持つペンダントが原因だろう。


「それじゃどのようなルートで先に進むんだ? 一度ナハルに寄るか?」


 いよいよ魔王国に向けて進む予定だが、町によって物資の補給をする必要がある。

 このまま街道を無視してマルガリを目指すことは出来るが、確認のため聞いた。


「マルガリに行きましょう。ナハルには……寄らなくていいです」


 クリスの言葉にルリカとセラも賛成だという。

 理由を聞くと、寄るとまた離れにくくなってしまうからとのことだった。

 それにナハルに寄っても食料の補給は出来ないから、そらならいっそ先を目指した方がいいと言う。

 あとは遺跡からマルガリに向かうルートは、確かに街道が通ってないが草原地帯になっていて、そこには薬草の群生地があるとのことだった。


「冒険者ギルドで調べたんだからね」


 ルリカが得意そうに言うのを、あとの二人が生暖かい目で見ている。

 当人は気付いていないようだから、そっとしておいてやろう。


「ヒカリは大丈夫か?」

「……うん」

「大変だったら早めに言うんだぞ」


 日に日にヒカリも元気にを取り戻してきているが、まだ本調子じゃないようだ。実際いつもの半分の量しかご飯を食べないし、誰かしらと常に一緒にいる。

 もしかしたらシュウザと会ったことで、失われていた記憶が蘇ったのかもしれない。ふと不安そうにする姿を目撃する時があった。

 このことに関しては、ルリカたちにも再度事情を話した。

 ユタカの話を聞いたからなのか、ヒカリの過去と照らし合わせてどのような扱いを受けたのか想像したのか、特にセラが怒っていた。

 ちなみにシュウザたちの素性に関しては、リザリーにだけに打ち明けた。

 ただ確証があるわけではないからと伝え、リザリーからも他言無用でとお願いされた。

 裏付けをするのか、それとも放置するかは、共和国の上の人間が決めればいいことだ。なのでこれ以上俺たちが干渉する必要はないと思っている。

 もしクリスやヒカリの所在が王国に伝わるようなことになっていたら何らかの対処を……出来るかどうかは別として、しないといけなかったかもしれないが。

 ただ実際のところ王国が何故遺跡を襲撃したのか、その謎だけは残った。ユタカは色々なものを残したようなことを言っていたが、それが原因で不都合なことがこの遺跡に隠されたと判断したのか。

 可能性としては、遺跡は珍しい魔道具がダンジョンと同じように発見されることが多いから、それ狙いでというほうが強いかもしれないと思った。

 遺跡を発って八日後。まずは目的地の一つマルガリに到着した。

 町からかなり離れた場所でゴーレムを収納し、町に入場した。

 草原を突っ切った利点として、ゴーレムを常に稼働させられたのは大きかった。

 犬型に跨る者もいたが、安定しないのか乗心地は悪かったそうだ。

 その後マルガリで食糧と補給を行い、一泊して次の町アルコニトを目指した。

 そこでも一泊して町を出れば、いよいよボースハイル帝国領だ。

 共和国と帝国の間には国境都市が存在しない。街道は通っているが、国家間を移動するための関所のようなものは存在しない。

 それなら勝手に出入り自由だと思うが、そこは国境近くにあるアルコニトに、監視するための塔が配置されている。と同時に、警備する兵士も多く在住している。

 もっともそれは帝国の国境に接している町もそうみたいだ。

 そのため二つの国の国境線付近は、何もない荒野が広がる地帯になっているそうだ。

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