第307話 襲撃・3

 視界は遮られたが、MAPと気配察知と魔力察知を使えば撤退した相手が何処に向かっているかは分かる。

 すぐに追いかけようと足を踏み出した時、魔物が悲鳴のような咆哮を上げた。

 それは今まで聞いたことのない苦しそうな咆哮で、つい目を向ければそこには血を撒き散らしながら人を襲う魔物の姿があった。

 その目は正気を失い、口はだらしなく開き涎を垂らしている。

 攻撃のため腕を振るえば、その体からは血が噴き出した。

 その凄惨な様子は、相手が魔物であることを一瞬忘れて同情しそうになるほどだった。


「さっきとは比にならない強ささ」


 セラが両手で握った斧を交差させてその一撃を防いだが、完全に力負けした。

 これは先に魔物を退治しないと被害が拡大すると思い、切り替えて攻撃を仕掛ける。

 生半可な攻撃は無駄に戦闘を長引かせるだけ。ミスリルの剣に流す魔力量を一気に増やし、斬りかかる。

 しかしタイガーウルフは後方に飛んで躱すと、着地と同時に弾丸のように飛び掛かってきた。

 俺は咄嗟に結界魔法のシールド発動させた。

 タイガーウルフの勢いはそれで止まった。

 そこに再び俺が斬りかかったが、先ほどと同じように後方に飛んで躱された。

 同じことの繰り返しに思われたが、タイガーウルフが退避した先には、セラが待ち構えている。

 完全な死角からの攻撃に、空中で動きが制限されていたこともあって、タイガーウルフは為す術もなく上半身と下半身を真っ二つにされた。

 ただ驚くことに、そのタイガーウルフは上半身だけになっても戦意は衰えず、また体を引きずって襲い掛かろうとして……そこで活動を停止した。

 タイガーウルフを倒したら、今度はルリカたちの援護に向かう。

 オークも狂ったように暴れているが、ルリカは冷静に戦っている。相手の力を理解しているから、無理に攻撃を剣で受けることをしないで回避を優先している。特に二体同時に相手どっているから無理に深追いをしていない。

 クリスも倒すことよりも、守り優先の精霊魔法を使っている。主にオークの行動を阻害する風の精霊魔法を。もちろん隙があれば攻撃を仕掛けているが、致命傷には至らない。

 それでも小さな傷を蓄積していき、最終的に血を流し過ぎたのか、動きの悪くなったところにルリカの攻撃が入りオークを撃退した。


「やるじゃないかルリカ」

「ソラかセラの援護を待ってたんだけどね。最後は理性がなくなったような感じで、単調な攻撃になったから回避は難しくなかったよ」


 ルリカはそう言うが、その周囲の地面はオークの攻撃による破壊の跡が見える。

 その威力から一撃受けたら致命傷になりかねないことが想像出来る。その緊張感の中、冷静に戦えるのは凄いことだと思った。


「そうだ。ヒカリちゃんたちは」


 思い出したようにルリカはヒカリたちの方を見るが、二人は無事だ。ゴーレムの方も破壊されずに残っている。

 たぶん普通に戦ったらゴーレムは瞬殺されてただろうが、魔物がヒカリたちの元に行くことはなかった。

 シュウザはヒカリのことを知っていた。俺たちを倒したあとに、捕縛するつもりだったのかもしれない。それとクリスのこともそうだ。エルフと分かった瞬間。目の色が変わったのを確かに見た。

 以前ドレットの手紙で、王国にエルフが送られたようなことが書かれていたが、秘密裏にやはり集めているのかもしれない。


「セラとルリカ、しばらくの間三人のことを頼む」

「どうしたのソラ?」

「俺は逃げた奴らを追う。あいつらはクリスの正体を知った。それを持ち帰らせるわけにはいかない」


 MAPを見ればかなり離れたところまで移動している。

 とてもじゃないが人の足で移動出来る速度を越えている。スキルの可能性もあるが、どちらにしろ逃がすわけにはいかない。

 俺はEXマナポーションを用意してシュウザたちが逃げた方向に目を向ける。

 もちろん見えないが必要なのは目視確認をすることだ。

 転移を発動して飛ぶ、位置確認、飛ぶ、位置確認を連続して行う。途中で手の中のポーションを煽りMPの残量にも気を付ける。

 途中転移のスキルレベルが上がって移動距離が増えたところで、ついに視界に捉えた。

 見れば魔物の上に三人が乗っている。

 俺は彼らの進行方向にファイアーウォールを設置すると、突然の出来事に魔物が慄き、乗っていた三人は魔物から落下した。

 シュウザはそれでも受け身をとって事なきを得た様だったが、他の二人は体を地面に強かに打ちつけていた。


「な、なにが……」


 シュウザが体勢を整える前に他を始末する。

 まずは厄介になる可能性の高い魔物を仕留め、次に魔法で二人を殺した。

 あの一件以来、人を殺すのに躊躇しなくなっている。

 善良な普通の人ならそんなことはないだろうが、相手がこちらを襲ってきた以上、手心を加えようとは思わない。


「き、貴様……」


 何か言うよりも先に剣先を首筋に添えた。

 すぐにでも殺せるように準備した。


「簡潔に答えろ。お前が王国の人間だということは分かってる。何が目的でここに来た?」


 俺の問いにシュウザはだんまりだ。

 隷属の仮面をしてないところを見ると、する必要がないと判断された存在なのだろう。


「……き、貴様こそ何者だ?」


 逆に問い掛けられた。


「いや、その髪色。そして13号……お前、あの時の異世界人か?」


 だけどすぐに何かを察したのだろう。シュウザがそう呟いた次の瞬間、突然シュウザの体が爆発した。

 俺は何もしてないから、シュウザ本人の意志で自爆したのだろうか?

 もしかしたら俺がヒカリと一緒にいることから、何らかのスキルで従わせていると勘違いしたのかもしれない。

 それでシュウザも従わされて内情を聞き出される前に、自ら命を絶ったのではないかと推測した。もしくは不利益を被る場合、その時にこのように自爆するように王国側が手を加えている可能性もあるが……。

 もし彼らがそのように教育されていたとしたら、ヒカリはかなり運が良かったのかもしれない。

 俺は周囲を見て、特に何も手掛かりになるようなものがないことを確認した後、一人遺跡に戻るため歩き出した。

 マナポーションの連続使用でMPの回復が出来ないため、自然に回復するまで歩くしかなかったのだ。



 

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