第306話 襲撃・2

 単純に攻撃するだけではタイガーウルフを倒すに至れない。

 なら隙を作るにはどうすればいいか?

 やはりシュウザを狙うのが効率的だ。もちろん簡単に狙わせてくれないが、それでもシュウザを攻撃することでメリットも生まれる。

 気配察知を見るに、襲撃しているものの半数が魔物だ。その全てをシュウザが操っているかは分からないが、敵だけを狙っている以上何らかの影響はあるはず。

 と、同時に、シュウザが危険を察知してこちらに魔物を呼び寄せれば呼び寄せるほど、他の場所の戦況が変わり、こちらに有利な状況を作ることが出来るかもしれない。

 だから俺はタイガーウルフと戦いながら、嫌がらせのように魔法を撃ったり、魔法を付与したナイフを投擲する。

 単純にシュウザを狙う場合もあれば、シュウザとタイガーウルフが直線上に並んだ瞬間仕掛けることもある。

 だが相手もそれは分かっているのか、戦いながら戦場を駆け回っている。

 さすがレベルが46あるだけあって、それなりに動ける。が、それでも遅く感じる。

 タイガーウルフの一撃を受け止めた瞬間、範囲魔法を撃った。

 ファイアーストームとストーンシャワーがシュウザの前後から襲い掛かる。

 まずは前方からファイアーストームが発生し、時間差で背後からストーンシャワーが発動する。

 最初のファイアーストームに反応して躱そうとしたところを、背後から岩の礫が強襲。完全に不意をついた一撃を、しかしシュウザは防いだ。自分の使役する魔物を盾にして。

 あの距離を一気に詰めたタイガーウルフの素早さには驚いたが、限界以上に体を動かした反動なのか動きが鈍い。

 俺は一気に詰め寄るとタイガーウルフをソードラッシュを使って仕留めた。

 本当ならシュウザを狙いところだったが、シュウザはこちらが近付くと間合いから逃げて、攻撃を受けたタイガーウルフを前面に押し出してきたからだ。


「ふん、役立たずが」


 倒れ伏して動かなくなったタイガーウルフに向けてシュウザは言い放ち、新たにタイガーウルフを二体こちらに呼び寄せた。

 今度はこちらが防戦一方になるが、ここは焦らず反撃の機会を待つ。

 魔物が強化されているとはいえ、セラたちだって成長している。数々の魔物と戦ってレベルも上がっているし。

 それに自然回復力向上の恩恵で普通よりも早くMPが回復するのを待つ。

 MPが回復すれば回復するほど、やれることの選択肢が増えていくから。

 俺はタイガーウルフと対峙して、一体には斬撃で、もう一体には魔法を放った。

 本命は斬撃で、魔法は近付かせないための牽制だ。

 ただその時、タイガーウルフがこちらの攻撃を受けた時にある違和感を感じた。

 最初それは気のせいかと思ったが、徐々にこちらが押し込まれている。

 二体同時に相手にしたからと思ったが違う。

 そしてそれは、ルリカとクリスが魔物を一体倒した時に確信に変わった。


「ふん、数を減らせば優位に立てるとでも思ったか?」


 シュウザは不敵に笑い、魔物を援護するように遠距離からナイフを投げてくる。

 俺はそれを回避した時に体勢を崩し、タイガーウルフの攻撃を悪い体勢のまま剣で受けることになった。

 その時感じた衝撃は、明らかに今までよりも上がっている。

 これは間違いない。魔物の数が減るほど魔物一体一体の戦闘力が上がっている。

 シュウザが魔物を倒されても余裕な理由はこれか……。

 俺がその結論に達したことにシュウザも気付いたのか、まるで小馬鹿にしたように口角を上げた。

 挑発された! と思ったがすぐに怒りを抑える。

 相手のペースにのっては駄目だ。確かに戦闘力は上がるが、それでも数を減らすのは有効だ。

 実際に魔物単体の強さが上がっても、俺たち以外のところでも互角の戦いをしている。それどころか、別の戦場で魔物の反応が一つまた消えた。

 ジェゼフをはじめとした警護隊はともかく、遺跡の調査に参加していた冒険者はルリカたち曰く共和国でも有名な腕利き冒険者だってことだし、この程度なら問題なく倒せるようだ。

 シュウザもそれに気付いたのか、徐々に劣勢を感じたのか焦り出した。


「こっちもこれで終わりさ」


 そして追い打ちを掛けるようにセラがタイガーウルフを倒すと、すぐにこちらに加勢しにきてくれて、一体を受け持ってくれた。

 俺はこれを好機と見て、タイガーウルフを倒すべくスキルを使う。

 ナイフを三本連続で投擲する。

 これは当てるためではなく、タイガーウルフの周囲で付与した魔法を発動させる。

 連続して小規模のファイアーストームが発動して動きを阻害する。

 そこに接近してソードスラッシュを放つ。タイガーウルフは炎に包まれながらもそれを爪で弾き飛ばそうと腕を伸ばしてきた。

 この時回避行動に出なかったのは、爆風で思うように体を動かせなかったからだろう。

 そして俺の攻撃なら受け止めることが出来ると、今までの攻防の経験から瞬時に判断したと思われる。

 だが今回のその斬撃は、重力魔法をのせて威力を増している。

 そのためスキルと魔法の威力で倍増された一撃は、タイガーウルフの防御を破りその体ごと切り裂いた。

 シュウザはその攻防を見て瞬時に新たな魔物を呼び寄せようとしたが、その余裕がないことに気付いたようだ。

 俺が無茶な攻勢に出られたのはそれが理由だったりするからな。


「てっ、撤退だ!」


 シュウザは叫び声を上げると、不利と見て素早く反転した。

 魔物は継続して戦っているから、魔物を囮にして逃げるつもりだ。

 そして声を出したのは、戦っていた戦闘員へ指示を出すためだったようだ。

 地面に何かを投げ捨てると、それから煙幕が発生して視界を覆う。それはさながら忍者が使う煙玉のようだった。

 

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