第305話 襲撃・1
簡易宿のあった広場まで来たら、被害の大きさは良く分かった。
遺跡に入る前に止められた門は破壊され、残骸は炎に包まれている。
負傷した人も多く、中には死んでいる人もいるようだ。
襲撃されてからどれぐらいの時間が経っているかは分からないが、スレインが非常事態の連絡を受けてからそれほど経ってないような気がする。
それなのにこれほど被害が広がっているということは、相手の戦力が高いのか、本当に虚を突かれたかのどちらかだ。
「ソラ、あれを」
ミアが指さす方を見ればジェゼフがいた。負傷したのか倒れたまま動かない。
近付けばその体は大きく切り裂かれて血を流している。
けど良く見れば微かだが息をしている。胸が上下にほんの少し動いている。
ミアは屈みこむとヒールを唱えた。それと同時にポーションを傷口に振り掛ける。
すると傷は瞬く間に塞がったが、失われた血が多いのか意識は戻ったが動けないようだ。
「これを飲むといい。ポーションだ」
本当は増血剤だけど説明をするのも面倒なのでポーションと言って飲ませた。
「た、助かった」
「それより何があった?」
「分からん。とにかく突然襲われた。最初魔物が襲ってきたと思ったら次に人間がやってきた」
ジェゼフの説明によると、魔物が現れたため撃退しようとしたら、反対方向から現れた人間の集団に背後を突かれたそうだ。
門が破られ、侵入した賊を捕まえようとしたが、あえなく反撃にあい負傷したという。
「とりあえずこれを渡しておく。負傷者をみたら使うといい」
「おい、こんなにいいのか? それより君たちはどうする?」
「とりあえず侵入者の撃退か?」
気配察知を使えば、弱い反応をいくつか捉えた。まずはその人たちを助けるのが先か?
動き出そうとした足を止めて、その場から飛び退いた。
地面で魔法が爆発して土煙が上がった。
顔を上げれば、そこには魔物に挟まれた男が一人立っていた。
俺はそれを見て、動きを止めた。
その者は仮面をしていた。そして俺と同じような黒色の髪の毛だった。
「へー、今のを避けるんだ。なかなかやるね。それに……くだらない命令だと思ってたのに、思わぬ出会いがあるなんて!」
男は口を大きく開けて、歓喜の咆哮を上げた。
「エルフ! こんなところで会えるなんて! しかも他にも……何より、君は死んだんじゃなかったのかな? 13号!」
一瞬唖然としたが、怒気を孕んだ声に我に返った。
今、こいつは何と言った? エルフ? チラリとクリスを見たが変身は解かれていない。ということは鑑定持ち? しかも鑑定阻害の付与していた装備をしているのに、鑑定された。
さらに最後に発した言葉。13号。ヒカリを見て確かに言った。
それを知っているということは、こいつは王国の人間……しかもヒカリと同じように裏で汚れ仕事をこなしている奴に違いない。
けど疑問も残る。何故王国の人間が、こんなところにいるかということに。
「ま、とりあえず無力化させてもらうか。やれ!」
その通りだ。話は相手を無力化してから聞けばいい。
しかし誰に命令しているんだ? と思った瞬間、男の傍らに控えていた二体の魔物、タイガーウルフが襲い掛かってきた。
俺は二人の前に立ち、立ち塞がる。セラも武器を構えてその横に立つ。
ルリカは素早く武器を抜いて側面から援護する動きを見せたが、ヒカリの動きが遅れた。違う、動けていない。
それに突進してくるタイガーウルフの動きもおかしかった。
繰り出してきた一撃を受け止めて反撃をしようとしたら、その勢いを殺せず後ろに押しやられた。吹き飛ばされることはなかったが、予想以上の威力に対応が遅れた。
それはセラも同じようで、カウンターを狙った反撃の一撃を躱されていた。
「ソラ、こいつら普通のタイガーウルフよりも強いさ」
魔物にも個体差はあるし、成長して進化しかけていると強い場合がある。ただその時は見た目も少し変わったりするが、目の前の個体たちはそれが見られない。
では何故か?
それは男を鑑定して分かった。
【名前「シュウザ」職業「間者(魔物使い)」種族「人間」Lv46状態「——」】
【魔物使い】魔物と契約して使役することが出来る。魔物を強化することが出来る。
魔物使いによる補正で強化されてるのか。なら先にシュウザを無効化すればと思ったが、それを許してくれるほど相手も甘くなかった。
こちらがタイガーウルフの攻撃を防いだを見たシュウザが、さらに別の魔物を呼び寄せてきた。
今度はオーク。それも二体。
手数が足りない。ヒカリが動ければ時間を稼いで対処することが出来るのに、今はそれも出来ない。
「オークは私とルリカちゃんで相手します。なのでソラは先にタイガーウルフをお願いします」
振り返るとクリスは変装を解除して、精霊を攻撃の方に使うみたいだ。
ミアは動かないヒカリを庇うように動いている。
なら心許ないが、俺はまずゴーレムを二体作成して三人の護衛につかせた。
魔物の動きからして倒すことは無理だが、それでも盾になることは出来るだろう。
俺は剣を振り抜き、タイガーウルフに集中する。一応、並列思考を使って戦いながら対処していた自分を褒めてやりたい。
そして今度はこちらから反撃だ。EXマナポーションを飲み、攻撃を仕掛けた。
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