第304話 遺跡・5

 ユタカの語った内容は衝撃的なことばかりだった。

 ただこのことを他の人に話しても意味がないことも分かった。到底信じられないだろう。異世界召喚に関することも、知っているのは当事者だけだし現実味がない。

 魔王の誕生する条件に関しては気付いている者はいるかもしれない。

 もっともそれは何度か経験したことのある長命種族限定だけど。

 

「とりあえず外に出るか?」


 映像が終わると、いつの間にか俺たちは元の場所? に戻っていた。

 部屋の中を確認したが、特にこれといったものは他の部屋と同様に見つからなかった。

 ふとクリスのペンダントが気になり目を向けた。別に胸を見てるわけじゃないですよ?

 あのペンダントも、もしかして異世界人の彼が渡したものの一つなのかもしれないと思った。

 俺は外に出ようと振り返り、そこで足を止めた。

 出入り口の傍らに、模様があった。違う、書き殴ったような文字がそう見せているだけだった。

 それを見て、俺の思考は停止した。


『今回は三度魔王が召喚者たちを退けた。四度目のその戦いに女神が降臨した?』


 それは書いた当人も混乱しているようだった。

 魔王を討伐するために女神がこの世界に現れたということなのか?

 それも気になるが、ユタカはこれを何処で知ったのかがむしろ気になった。ユタカのスキルか? けど使えなくなったようなことを言っていた気がするし……。

 そもそもこれがユタカの字なのかも分からないが、少なくともそれは日本語が使われていた。


「ソラ、何かあったのですか?」

「……いや、何でもないよ」

「そうなの? 顔色が悪いよ?」

「……少し衝撃的な内容だったからさ」


 俺は心配するクリスとミアに大丈夫だと答えたが、本当は全然大丈夫じゃなかった。

 ただ、これをどう言えばいいのか。俺には分からなかった。

 だから余計な心配を掛けないためにもいつも通りの態度で過ごしながら、何かあってもこれまで以上にスキルの熟練度を上げようと強く思った。

 ふと、竜王から譲り受けた竜王の牙のことを思い出した。神を殺せるアイテム。

 竜王はそのことを知っていてあの牙を俺に渡したのか? なら竜王は女神を殺したい? 聞くにもすぐに確認しようがないことに気付き、こんな時に不便を感じた。



 部屋を出ると広場は緊張に包まれていた。

 俺たちに気付いたスレインが近付いてきて緊急事態だと告げた。


「理由は分からないが、非常事態を告げる通信が入った」


 それはスレインたちが持たされた魔道具で、何かあった時に連絡用として渡されていたらしい。

 それでスレインたちは今すぐ戻ろうと準備していたが、それに研究者たちがごねているらしい。

 上でそのようなことが起こっているなら、むしろここで待機した方が安全だと主張しているが、本当の目的は明らかだ。


「私たちはどうします?」


 ミアもスレインの緊迫した様子を受けて、緊張したようだ。


「とりあえず上を目指して移動した方がいいかもしれない。何が起こってるかは気になるが、最悪生き埋めになるなんてこともありえる」


 もし何者かから襲撃を受けていた場合、地上の家が破壊されて出入口が塞がれる可能性もなくはない。

 生き埋めになっても魔法を使えば何とかなると思うが、やはり状況確認を最優先にした方がいいと思った。

 俺のその言葉が聞こえたかどうかは分からないが、スレインたちも説得出来たようで移動を開始した。

 結局スレインたちの集団の最後に研究者が続き、そのまた後に俺たちが続くことになった。

 地上に近付くにつれて音が聞こえるようになった。と同時に、振動も発生している。

 その状態に研究員は動揺しているようだった。

 俺も思った以上に激しい襲撃が来ているかもしれないと、警戒心を強める。

 そして一度スレインは立ち止まると、背後に振り返り仲間たちに合図を送っている。

 盾を装備した冒険者が前に並び、まず最初に飛び出していった。

 それにスレインたち近接武器を持った者が続き、最後に魔法使いたちも外に出て行く。

 研究者たちも恐る恐るそれに続き、足を止めた。

 俺たちはその背後から外を見て、思わず言葉を失った。

 遺跡の地上部に損害はなかったが、朝まで無事だった簡易的な建物は崩壊し、リザリーと会った施設も燃え広がっている。

 轟音が鳴り響いて地面を揺らしたと思えば、武器を討ち合う音や、魔物の叫び声が聞こえてきた。

 これには研究者たちは頭を抱え蹲ってしまった。そこにスレインたちチームの何人かが立たせ誘導していく。

 俺たちはそこで別行動を開始した。

 まずはMAPで状況を確認。気配察知と魔力察知を使えば、魔物の反応を多数捉えた。ただ新たな人間の反応もある。

 援軍がこんなに早く駆け付けるとは思えないが……そうなると襲撃者か? しかも人の襲撃と同時に魔物も襲撃してきた?

 俺は状況を説明し、警戒をしながら戦闘が繰り広げられていると思われる一角へと急いだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る