第301話 遺跡・4

 朝食を済ませたら早速遺跡の中に入って行った。

 今日の目的地は地下三階で、足を踏み入れた瞬間人の気配を感じた。

 一階と二階は無人だったが、三階には今調査隊がいるって話だから、その人たちだろう。結構の大所帯で、MAPで確認すると三〇人近くいる。

 彼らは今この階の中央付近にいるようだ。

 そこは最後に行けばいいから、今日も一部屋一部屋進んで行く。

 部屋の数はワンフロアに五〇近くもあるから、結構面倒だ。

 もっとも地図も貸してもらってるし、ダンジョンみたいに迷路になっているわけじゃないから迷うことはない。

 ただ地道な作業に耐えられる忍耐力が必要になってくるだけだ。

 ルリカ、セラ、ヒカリあたりはちょっと辛そうだ。何もない部屋は本当に何もないから仕方ないと思う。

 これでもしお宝があったら違っただろうが、既に調べたあとだからな……。一応何か残ってないか見るが……うん、きれいさっぱり何もない。

 唯一残された壁画の絵画も特に芸術性があるわけでもなく、抽象的な良く分からないものが多いから、見ていて感動もしない。感性が鈍いのかとも思うが、皆も同じような感じだから壁画の絵自体に問題があると思うんだ。

 それに全ての部屋に壁画があるわけでもないから、一歩踏み入れて何もないと、なんかやる気が凄くなくなっている。倉庫にあたると、空になった棚だけがぽつんと残っているだけだ。

 不謹慎だが魔物とか出ればまた緊張感を継続することが出来たんだろうけどとは思う。一応最低限の警戒はしているみたいだけど。


「これで二二個目ですね」


 一階と二階は各階で八文字を発見した。三階も同じなら今六文字を確認したから、残るはあと二文字になる。

 ここまでくるとさすがに内容は想像がつくが、折角だから最後まで確認する。

 というか、そもそもこの文字を集めても、何処で使うのかも不明だよな。

 可能性としてはクリスのしているペンダントが何か反応するかだが……特に変わった様子がないんだよな。

 期待と不安がごちゃ混ぜになりながらも壁画の確認は進み、残る部屋はあと二つだ。

 まず一歩部屋に入れば、そこは一際大きなホールのような空間だった。

 その中には三〇人もの先客がいた。

 俺たちを見て周囲を警戒していたものが反応したが、手に持った地図を見て少しだけその警戒が緩んだ。

 もちろん俺たちも武器に手を掛けるなんてことはしない。


「見掛けない顔だが、君たちは調査にきたのかい?」


 ルリカが少し緊張した面持ちで頷いている。

 あとで聞いたら共和国では高ランク冒険者として結構な有名人らしい。

 年齢的にもベテランのようで、名前はスレイン。冒険者に多い粗野な感じが一切なく、紳士的な柔らかい物腰で話し掛けてきた。


「私たちもそろそろ戻る予定なんだけどね。同行者の熱がまだ冷めないみたいで」


 視線の先には、五人の研究者らしき者が壁画に張り付いている。

 このままでは俺たちが確認出来ないと思っていたら、スレインが彼らに話をつけて場所を譲ってくれるように頼んでくれた。


「気にしなくていいよ。彼らにも少し休憩は必要だからね」


 終始笑顔だった。

 その様子に噂通りね、とルリカとクリスは笑って話しているけど、スレインの取り巻きなのか、女性冒険者から凄く睨まれている。

 もっともそれはいつものことなのか、男性陣はその様子に苦笑を浮かべている。

 その後、壁画を調べると⑳の数字と「ひ」の文字が見つかった。

 これで全ての言葉を繋げると、


【ゆうこうのあかしをしめせさすればみちはひらかれる】


 となる。

 変換すると友好の証を示せ。さすれば道は開かれる。になるのか? 違ってるかもしれないけど。

 なんかゲームの偉い人が言いそうな言葉だ。

 試しに呟いてみたが何も起こらない。

 うん、ちょっと見ないで欲しい。恥ずかしいから。

 残る部屋はあと一つか。そこで何か起こるのか? それとも何も起こらないのか。

 何も起こらなかったら、ただ単に遊びのつもりでこんなことをしたってことになるのかな? ただ結構手の込んだことだし、何よりわざわざ向こうの世界の数字を使っているから、何か意味があると思いたい。


「どうする? 次で最後の部屋だけど少し休憩するか?」


 その言葉に一早く反応したのはヒカリだった。うん、お腹空いたんだな。

 さっきまで元気がなかったけど、いつも通りの感じで少し安心したよ。

 スレインたちと離れた位置でご飯を用意して、早速頂くことにした。

 火を起こすわけにもいかないから、今日は出来あいのものをアイテムボックスから出してそのまま食べた。出来立てと同じ状態の熱々のものを食べられるのは、本当にアイテムボックス(空間魔法LvMAX)のお陰だな。

 そして食事を済ませたら、最後の部屋に入った。

 何か起こるかもと思って入ったそこは、他の部屋と同じようなつくりで、特にこれといった特徴はないように見えた。

 しかし最後にクリスが部屋に入ってくると、その様相が一変した。

 何が起こったのか理解が追い付かない。見ていた光景が変わり、それこそ、まるでどこか別のところにワープしたかと思ったほどだ。

 突然の出来事に、ルリカとセラが素早く武器を構え警戒した。

 ただMAPで確認する限り、別の部屋に移動したとか、そういう感じではないことが分かる。が、隣にいるはずの人の反応が消えている。

 ということは、ここは別空間とかだったり? もう何が何だか分からない。怒涛の展開に考えが追い付いていけない。

 何事か警戒していると、目の前に人が現れた。違う、これはあれだ。ホログラムだ。

 そのホログラムに映し出された人は、黒い瞳に黒い髪の男性で、年は二〇代ぐらいに見えた。何よりその顔の特徴は日本人を連想させるのに十分だった。

 そしてホログラムの中の人は口を開き話し出した。


「条件をクリアした君は異世界人かな? それとも現地人かな? 今から話すことは真実であり、僕が歩んだ軌跡でもあり……懺悔でもある」


 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る