第299話 遺跡・2
「何事ですかジョゼフ。今日は特に予定は入っていなかったはずですが?」
俺たちを迎え入れたのは、目の前の女性だった。
彼女は遺跡調査隊を統括していて、司令官と呼ばれているそうだ。
何故司令官? と俺に聞かれても知らないよ。
椅子に座り、今も書類と格闘していた。
「申し訳ございません。こちらの方なのですが……」
ジョゼフがクリスを紹介すると、その女性は顔を上げ息を呑んだ。
ガタンと音を発てて立ち上がると、ツカツカと足音を響かせてクリスの前に立った。
その瞳は驚きの表情を浮かべ、クリスのペンダントに手を伸ばしたが途中で止めて、大きく息を吐いた。
「なるほど。連れて来た理由は分かりました。初めまして……皆さん。私は今回の遺跡調査隊の責任者であるリザリーです。それよりも……そのペンダントですが、どのようにして貴女は手に入れたのですか?」
「こ、これはナハルで孤児院の施設を運営しているフィロさんから譲り受けました。私も詳しいことは分かっていませんが、モリガンお婆ちゃんからそう言われたって言われました」
明らかに場の空気が変わった。
それはリザリーだけでなく、ジョゼフも、そしてこの場にいる他の職員もそうだった。モリガンの名に反応を示した。
「そう……ですか。モリガン様
「は、はい。子供の頃育ててもらっていました」
「そうでしたか。分かりました。それで今回はどのような用件でここに?」
「その……はっきりしたことが分からないのですが、このペンダントをしてから、この遺跡に行かないといけないような気になって……すいません。上手く説明できなくて」
クリスも感覚的なことのため、何と説明して良いか分からないみたいだ。
「分かりました。それでは遺跡の調査を目的で来たと思えばよいのですね?」
クリスがコクンと頷くと、リザリーは書類をしたためそれをジョゼフに渡した。
「これで彼女たちに遺跡調査の許可証を出してあげてください。それと宿泊施設の手配と、遺跡についての説明もしておいてください」
「あ、ありがとうございます」
「いえ、ただ遺跡の調査ですがほぼ終わっています。もう調べるところはないかもしれません」
リザリーの話だと、遺跡の規模はそれほど大きくないため、既に行ける場所の殆どが調査済みになっているらしい。
また遺跡から色々なものが発見されたが、万が一新しいものを発見した場合は報告して提出して欲しいとのことだった。
その後ジョゼフに案内されて宿泊施設や今いる作業員や冒険者の紹介をされた。
特に驚かれたのは調査許可証を発行しているところか?
既に殆ど調査が終わっているこの時期に、新たな許可証の発行だったため戸惑っているように見えた。ただそれがリザリー自らの申請のためか、変な質問もなく黙々と職務を全うしていた。
「宿泊ですがこちらになります。ただ、ここしか空いてないのですが大丈夫ですか?」
ジョゼフがチラリと俺を見て言った。
女性陣が問題ないと頷くのを見て、ちょっと羨ましそうな表情を浮かべたのを俺は見逃さなかった。
けどね、違うんだよ。既に野営も何度も繰り返しているから、残念ながら異性としてあまり見られていない可能性の方が高いんだ。慣れとは、恐ろしいものなのですよ。
俺? 俺も慣れてきましたよ? そもそも寝る時は離れて寝るからね!
やっぱ一緒にいる時間が長くなってきたからなのかな。それとも初期にあったヒカリとの触れ合いにより耐性がついたのか?
近頃は一緒に寝ることはなくなったけど……寂しくなんてないよ?
「とりあえず今日は遅いし、探索するなら明日だな」
「そうですね。遺跡の中で寝泊まりする冒険者もいるそうですが、無理に今行く必要もないですね」
俺の言葉がクリスが同意する。
ちょっと色々あって疲れているようだ。
特にクリスに対する接し方が、物凄く丁寧なため当人は戸惑い、気疲れを覚えたようだ。
「とりあえず遺跡について教えてもらったことを復習しておこうか?」
ルリカの言葉に、夕食を食べながら今後について相談することになった。
ちなみに夕食は自分たちで持ち込んだものを食べている。
急な参加だったし、リザリーたちにしても食料の余裕があまりないからと予想したからだ。これはナハルの状況から何となくだが察していたから、こちらも予め用意していた。というか、俺のアイテムボックスにはまだある程度の魔物が収納されている。
栄養を考えれば野菜も欲しいけど、ランクの高い魔物肉なら全てを賄えるから問題ない。問題があるとしたら、それは飽きるかどうか。
ヒカリなら嬉々として肉だけでも問題ないと言いそうだけど。味付けさえしっかりしていればだけど!
「今分かっているのは、遺跡は地上にある建物の他に、地下三階の構造になってるみたいね。今は隠し部屋がないか再度確認しているみたい」
「小部屋も結構あるって話だったし。魔道具も発見されたって言ってたさ」
「そうね。今は特に地下三階にある壁画を歴史学者に調べてもらってるって話だったよね」
ルリカとセラが互いに確認のために話す。
俺たちも時々は意見を言うが、基本二人が話している。
ヒカリは何も言わないが、お肉を頬張りながら話はしっかり聞いているみたいだ。
「とりあえず私たちは各部屋を確認しながら全て回るつもりで行きましょう。一応魔物は今は出ないって話だったけど、警戒だけはして行きましょう」
最後にルリカがそう締め括り、明日の方針は決定した。
ただジョゼフの説明の中に気になる点もいくつかあった。
魔物に関して今のところ確認されていないと言っていた。
ただ幾つかの部屋に足を踏み入れた時に、部屋にあった石像のようなものが動き出し襲われたみたいだ。
だいたいそのような所には魔道具などが保管されていたそうだ。
そして一番気になったのが、回収された道具の中に、クリスがしているペンダントと同じようなものが発見されたと言っていたことか?
確かにクリスのペンダントは、この世界のものにしてはデザインが変わっている。
果たして何か関係があるのか。そんなことを考えながら、その日は眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます