第295話 ナハル・7

「クリス、クリス!」


 ルリカの叫び声に、クリスが薄っすらと目を開けた。

 その様子にルリカはホッと一息吐いた。

 目を覚ましたクリスは驚いているみたいで、目を丸くしている。

 その表情を見て思わず笑ってしまったが、安心した。

 今までクリスは苦しそうにしていたからだ。時々言葉を呟き、呼吸が乱れていた。

 それこそルリカやセラの必死の呼び掛けにも、反応がなく一向に目を覚まさないでいた。


「大丈夫さ?」

「どうしたのセラちゃん?」


 心配して尋ねるセラに、クリスは上半身を起こし周囲を見回し、自分が見られていることにやっと気付いた。


「さっきまで苦しそうだったのさ。悪い夢でもみたさ?」

「……夢……遺跡‼」

「遺跡? 遺跡がどうしたの?」

「なんか行かないといけないような気がするの」


 クリスもはっきりした理由が分からないようだが。


「遺跡っていうと、この近くで見つかった遺跡のことか?」

「はい、たぶんそうだと思います」


 俺の問いにクリスがペンダント握りながら壁を見る。

 その視線の向かう先は、確か遺跡があるという方向だったはずだ。


「とりあえず明日は買い物と情報収集をしよう。遺跡に行くにしても施設へ渡すものは買わないとだし、消耗品の補充もしておきたい。あとは遺跡のことも少し調べたいとこかな?」

「そうだね。なら朝までもう少し時間もあるし、出来るだけ休もう。忙しくなりそうだしね」


 ルリカの言葉に、ヒカリがいの一番にベッドに潜ると、それを追うように俺たちもベッドに戻り横になった。



 翌朝。ルリカとセラは冒険者ギルドに向かい、残りは買い出しに回った。

 買い出しの数が多いから、ルリカたちは終わり次第合流することになっている。

 といっても、旅に必要な消耗品を見て回ったが、値段が高いため結局買うのは控えた。

 これなら首都に一度戻って買い物した方が、品質が良くて安いものが手に入る。

 アイテムボックス内を確認しても、補充出来れば余裕が出来て安心だが、なくてもまだ困らないレベルだと思ったのも決め手になった。


「ならシーツ類を買うか」

「ソラ、出来れば糸とかも買って欲しいな」

「また裁縫するのか?」

「うん、私じゃなくて施設の子たち用だけど。シーツも少し多めに買ってもらえたら、それで服を作れるかもしれないから。フィロさんが裁縫出来て、何人かの子に教えてるらしいの」


 一緒に裁縫をやっていたミアの意見だ。間違いはないだろう。

 なら余分にシーツを多めに買っておくか。


「他に必要なものは……」


 と考え、ふと思いついた。


「廃棄されそうな壊れた武器とかって何処で処分されるんだ?」

「鍛冶屋か、あとは武器屋とかで売られていることもあるかな?」


 もちろん武器屋の方は壊れた武器じゃなくて、一応使えるが売れ残り品だったりするようだけど。


「……鉄鉱石とかは鍛冶屋になるのか?」

「ナハルだとそうだと思います」


 なら最初に行くのは武器屋か。武器屋で価格調査をしていると、ルリカたちと合流した。

 鍛冶屋に向かう道すがら話を聞いたが、色よい情報は入手出来なったようだ。

 武器屋に行けば、店の隅に粗悪品が集められて置かれていた。

 聞けば二束三文の値が付けられている。

 何故こんなものがあるか聞けば、武器を新調した者が置いていくらしい。

 手に持って見れば、確かに予備として持っていても仕方がないようなものばかりだ。完全に使えないわけではないが、俺だったらわざわざ買いたいと思わない。

 もちろんお金に余裕があるからというのもある。

 俺はとりあえず何本かの武器を買い、アイテムボックスにしまった。


「そんなの買ってどうするのさ?」


 店を出た時にセラから聞かれたから、錬金術で加工してみるつもりだと答えた。

 欲しいのは鉄の部分。これで農作業用の道具を作ろうと思ったのだ。

 驚かれたが、誰のための道具なのかを察したセラたちは、少し嬉しそうだった。

 その後一応鍛冶屋にも足を運び、格安の鉄鉱石を購入した。

 農具に関してはオリンと相談して決めれば良いか。

 施設に到着すると二手に別れて行動することになった。

 シーツほか、施設で使用する道具はアイテム袋に詰めてミアに渡した。

 俺はセラと一緒にオリンの住む家に向かい、実際に使っている農具を見せてもらったりした。


「本当に良いのかのう?」

「ああ、材料は捨て値で手に入れたものだし問題ないよ」


 それに施設の子供たちに農業を教えてるほど人の良い人だ。

 そんな人の手助けになるならこれぐらいのことなんの手間でもない。

 俺は錬金術で必要な鉄だけ分離して取り出したり、剣だったものの形を変化させてくわやシャベルなどを作っていく。

 完成したら実際に使ってもらい使い心地を確認してもらったが、どうやら問題ないようだ。


「これなら作業がはかどるかもしれんのう!」

「一応小さな子でも使えるようにひとまわり小さなものも作ったが、取り扱いだけ注意してくれな」

「もちろんじゃ。しかしこれだけの数の道具、ありがとう。これでもう少し農場の範囲を広く出来そうじゃ」

「それは大丈夫なのか?」

「どうせ使っておらんからのう。一応町の上役には確認するが問題ないじゃろう」


 ここは町の中心から離れているし、更地があるだけだしな。


「それじゃ俺は予定があって町から離れるけど、農作物の成長は錬金術ギルドの人が様子を見にくると思うから。その時は対応を頼むよ」


 こうしてナハルでの用事を済ませた俺たちは、翌日遺跡を目指してナハルを発った。

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