第294話 夢?(クリス視点)

 六つの国を渡り歩いて故郷に戻ってきました。

 セラちゃんを見つけて、本当だったらエリスお姉ちゃんも見つけて戻ってきたかった。

 ううん、セラちゃんだけでも見つかったことをもっと喜ばないといけいないかも。

 第二の故郷となった町ナハルは、すっかり変わっていました。

 建物の数も、人の数も増えています。

 ただ人の数は、町が発展したからではありませんでした。

 近くに遺跡が見つかり、その調査のために人が押し寄せてきているとのことです。

 そしてそれは、ある問題を浮かび上がらせていました。

 食料問題。昔から農業に適した土地でないことは分かっていましたが、この国はそのようなところが結構多いです。ナハルだけでなく、エルド共和国の土地の多くがそのような環境になっているのを、色々な町を回ったから知っています。

 その所為か、セラちゃんのことを報告しに施設に寄りましたが、子供たちの多くが痩せ細っていました。

 遊びの相手をすれば、中にはお腹を鳴らす子もいますし、お腹が空いて力が出ないみたいで、あまり動こうとしない子もいます。

 ソラがウルフの肉やお野菜を分けてくれましたが、一時しのぎでしかありません。

 その後ソラが錬金術で土壌改善のお薬を作成してくれたり、ヒカリちゃんたちがウルフを狩ってきてくれて食料を確保してくれましたが、それでも全然足りていません。

 それにフィロさんの施設ばかり優遇すると、他のところから不満が出るかもしれません。特に怖いのが略奪。そんなことをする人はいないと思いますが、絶対ではありません。

 戦争当時、そのようなことが多く起こったことを私たちはその目で見ていましたから。

 それでもやれることはやれたと思います。

 まだ心配事は残っていますが、私たちにもしなくてはいけないことがあります。

 本当ならソラの作ってくれた土壌薬の成果の確認をしたいところですが、あまりここでのんびりすることも出来ません。

 魔王討伐。ギルドに寄るとその依頼を見掛けるようになりました。

 いつそれが決行されるかは分かりませんが、準備は着々と進んでいるみたいです。

 それよりも先か、もしくはタイミングを合わせて私たちも黒い森に入る予定ではいます。

 そんなことを思っていた時に、フィロさんからペンダントを渡されました。

 幼い頃に、それを良く見掛けた記憶があります。

 モリガンお婆ちゃんがしていました。

 綺麗で、誰にもらったのか聞いたことがあったと思いますが、その時は寂しそうな顔で、もう会うことの出来ない人からとしか教えてもらえませんでした。



「お婆ちゃん……」


 思わず呟いた時、私は自分が何処にいるのか把握出来ていませんでした。

 確か明日の予定を皆で話し合い、ベッドに寝たはずなのに、今私は見知らぬ場所に立っています。

 周囲を見渡せば靄のようなものが掛かっていて良く見えません。

 けど不思議と不安にはなりません。

 ただ、何となくですけど、呼ばれている? ような気がします。

 誰に?

 ふと温かいような何かを感じて視線を胸元に落とすと、ペンダントの先端に取り付けられたアクセサリーが光っています。

 私がそれに気付くと、光が線を作って伸びて行きます。

 視線でそれを追いますが、何処に向かっているかは分かりませんし、靄のため途中で見えなくなります。


「……遺跡?」


 なのに、何故かそれが何を指しているのか感じました。

 これはナハルの近くで発見された遺跡のことだと瞬時に悟りました。


「そこに行けということ?」


 私の呟きに答える者は誰もいません。

 でもそれが正解であることはなんとなく伝わってきます。

 遺跡……でもどうするか悩みます。

 冒険者ギルドで聞いた話では、国の偉い方が調査に乗り出しているということで、部外者が入ることは出来ません。

 依頼を受けた冒険者はいるようですが、高ランクの人たちが指名依頼を受けて同行しているようなことを話していた気がします。

 行くだけ無駄……時間を浪費してしまうと思うのに、行かないといけないという感情が次から次へと湧いてきます。駄目だという後ろ向きな私の考えを否定するかのように。

 明日……目を覚ましたら、皆に相談するしかないかな?

 そこまで考えて、視界が徐々に霞んでいきました。

 意識が沈んでいくような感覚に襲われます。

 これは夢? それとも現実?

 やがて私は、誰かの呼ぶ声で目を覚ましました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る