第292話 ナハル・5
すぐには結果が出ないため、経過観察はオリンたちに頼むとした。
結果が出るまで滞在するか分からないため、錬金術ギルドに相談することになった。
「土の品質を上げる薬ですか?」
突然言われて困惑してるようだ。
この世界の農業事情に疎いから良く分からないが、改善出来るアイテムがあるなら試そうとするはず。もちろん値段が高くて手が出ない場合もあるが、ここは国が支援して作られた町だ。
なら普通に考えればそんなアイテムがあれば使用するはずだ。
予想は的中し、やはり土壌の品質を上げる薬は存在しないそうだ。
「そもそも農業は農業に適した土地でやっていますし、村ごとで伝統的な合った手法があるみたいですから」
日本じゃ家庭菜園だなんだと、肥料が売られているが、この世界には専門で肥料だけ作る業者なんてないしな。
それに作っても、それを現地まで届けるという労力が必要になってくる。
村によっては、町から離れた場所にあるところも多いし、基本村で完結出来る生活をしているところが殆どだ。
必要に応じて行商のように売りにくることもあるが。
現金はどうしても必要になる時があるからな。主に魔物の討伐依頼を出す時とかに。
「それじゃわざわざ買う人もいないか……」
「そんなことはありませんよ。逆に領地を拡大したいと思っている人だっていますし。活用出来る可能性はあると思います!」
その勢いに驚きだ。最初は反応が薄かったのに。
「ならこの作り方は売れたりするのか?」
「実際に試さないとわかりませんが……あと本当に錬金術で作成出来るかの確認も必要です」
それもそうだな。本当に効果あるのか。錬金術で作ることが出来るのか。
現物はあるが、これはあくまで俺が作ったと言って持ってきたものだしな。
「とりあえず製作者としてソラさんの登録をします。経過観察をすると同時に、実際に他の者でも作れるかを確認したいと思います。もし効果がある場合ですが……」
一応新しい薬品の製作者として報奨金が入り、実際に販売するとなると売った分だけの報酬も出るらしい。
色々と説明を聞いていてふと思った。
フルポーションの時はここまで細かい説明を受けてなかったが……。
好条件をボーゼンがすらすらと言っていたのは聞いていたけど。
「すまないが、このカードの残高を確認出来るか?」
確認してもらうと、俺が把握していた以上の資金が入っていた。
「……フルポーションが完成したのか?」
思わず出た呟き声に、ギルド員が反応した。
「フルポーション! ソラ? もしかしてフルポーション開発者のソラさんですか!」
凄く興奮している。
「たぶん俺だと思うが……」
「そ、そうなのですね! お待ち下さい。すぐギルドマスターを呼んできます」
その後ギルドマスターと話すことになり、土壌薬を作成した理由から順に話すことになった。
「施設の子のためか……」
と感心されたが、どちらかというとクリスたちのためというのが強いから、あまり高評価をされても困る。
「確かにこの町の食糧問題は少し深刻になりつつある。将来のことを見据えて、手が空いている者がいた場合試してもらうとしよう」
さすがギルドマスターだけあって、頭の回転が速い。
正確には錬金術ギルドのギルドマスターだけあってというのが正しいか。
「出来ればどんな感じになるか見てみたいのだが……」
錬金術の工程と、どのように土が変化するかを見たいということだろう。
「実験出来るような場所はあるか?」
その問いに、ギルドの敷地に薬草を栽培している敷地があるそうだ。
ただここで使っている土は森から採取している土を混ぜて使っているそうで、品質をみると普となっていた。
町の農地の土よりもいいが、伸びしろはある感じか。
話を聞けば、やはり採取される薬草の出来は、森などで採取される薬草と比べると元気がないそうだ。
ただ町周辺の草原で採取出来る薬草に比べると、格段に上がるそうだ。
どうせ錬金術の方法は教えたから、手が空いている錬金術師を集めて土壌薬の作り方の説明をする。
気のせいか、皆目の下に隈が出来ているし。酷い者だと頬がこけて見えるのだが……。
「労働条件が酷いのか?」
と思わず聞いたら、フルポーション作りに夢中になる者が続出して、通常の業務が終わるとそれに没頭していると説明を受けた。
研究者気質の者が多いため、未知への探求心が刺激されて寝る間も惜しんで作業しているそうだ。
ここの薬草も、ある意味フルポーション作りの練習のために、急遽作り始めたのだと言う。
「いや、普通に休みは必要だからな」
俺は土壌薬の説明をするという条件に、しっかりと睡眠をとるという約束を取り付けたのだった。
休息は大事だからな。
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