第291話 土壌薬

 ネーミングセンスがないのは潔く認めよう。

 ゴブリン討伐から戻り、一足先に宿へと帰ってきたら早速作業することにした。

 ルリカとクリスは施設の手伝いに行ったため一人で黙々と作業を続ける。


「主、戻った」


 声に顔を上げれば、ヒカリが飛び付いてきた。

 良い匂いがしたが、注意してみると少し汚れが目立つ。

 かなり森の中を駆け回ってきたんだろう。あとはウルフ組に生活魔法を使える者がいなかったのも原因か。

 そのことは完全に失念していたな。

 続いて入ってきたミアとセラに洗浄魔法を掛けたが、何故か少し恥ずかしそうに頬を赤らめていた。

 何があった?


「ルリカとクリスはどうしたのさ?」

「施設の手伝いに行ってるよ。それでセラたちの方はどうだったんだ?」

「たくさん狩った!」

「さすがに三人だと解体が難しいから、ギルドにお願いしてきたさ。明日には終わるから取りに行くさ」

「本当に大変でした」


 ミアが一番汚れが酷かったな。

 セラが苦笑している。

 ヒカリは分からないと首を傾げている。

 話を聞けばヒカリが頑張り過ぎて、それに遅れないようにミアが奮闘したということみたいだ。セラも手綱をひこうとしたようだが、施設の子供たちにお腹いっぱいご飯を食べてもらいたいというヒカリの想いを止めることは出来なかったとのこと。


「ご飯はしっかり食べないと、駄目」


 施設の子とそれほど親しい訳でもないヒカリが頑張ったのは、食が絡んでいたからか。

 もう少し周りに注意を向ける目が欲しいけど、その理念は立派だから頭を撫でて褒めることにした。

 うん、甘いと言われようとかまわないさ。

 そんな様子をジッとミアが見ていたからそちらを向いたら、サッと目を逸らされてしまった。

 その後セラは施設に、二人は宿に残ることになったが、ミアが出掛けるセラに何事か話していた。


「完成だ……」


 目の前には七つの容器が置かれている。その中に入っているのは土だ。

 そのうち三つの容器の土が、鑑定すれば品質・良と表示される。


「出来たのですか?」


 その呟きを聞いたミアが尋ねてきた。


「一応な。ただ農場全体となると、どれぐらいの量が必要になるかが分からないから確認が必要かな」

「そんな簡単じゃないですよね」

「まあな。一時的に改善されても、継続して大丈夫かの確認も必要だしな」


 俺もそれほど農業に関する知識があるわけじゃないから、そこは専門家と相談する必要がある。

 窓の外を見れば、もうすぐ日が落ちそうだ。

 確認は明日だな。



 翌朝セラとルリカが冒険者ギルドに向かい、俺たちはフィロの管理する施設へと足を向けた。

 そのままヒカリとミアは子供たちの相手をするようで、ヒカリからは人形を貸してと言われた。何やら練習をしてたけど、それを披露するのかな? 一応ミアにはヒカリが変に暴走しないように頼んでおこう。

 俺とクリスは農場主の老夫婦のもとに。お手伝いをしている子供たちと一緒だ。

 まずは俺がオリンに説明して、畑の一角を貸してもらう。

 効果は未知数だから収穫量が減ることに難色を最初示したが、子供たちが俺から大量の食糧をもらったことを話してくれたため貸してもらえることになった。

 とりあえず三種の土壌薬が出来たから三つのブロックに分ける。

 問題はどれぐらいの量を与えればいいかが分からないから、鑑定を使いながら薬品を土に馴染ませる。

 品質・良になったら止めたが、果たしてこれはさらにあげるとどうなるか?

 仮にあげ過ぎた場合、悪い影響が出たらかなり面倒なことになるかもしれない。

 俺は鑑定が使えるから問題ないが、この世界にどれぐらいの量に対してこれだけ必要という、分量を正確に測る術がない。

 あっても鉢植えのように土の分量が決まっていればいいが、目の前の畑はきれいに整っているわけではない。


「どうしたのですか?」

「土の品質を向上させることが出来たんだが……」


 と、クリスに今気付いたことを相談。

 これにはクリスも困ってしまったが、一度どのような感じで作業をしているか見て見たいということで、別の土壌薬を土に馴染ませていく。


「あっ」


 というクリスの声と、俺が鑑定で土の品質が良になったのを見たのが重なった。


「どうしたんだ?」

「土の色が少し変化しました」


 クリスの言葉に土を良く見ると、確かにまだ土壌薬を使っていないところの土と色が違う。

 クリスの声を聞き付けてオリンもやってきて、土壌薬をあげた土をすくうと手の中で土の手触りを確認している。


「うむ、全然違うのう。良い感じじゃ」


 さすが農業の専門家。土の感触だけで判断出来るのか。

 聞けば匂いも違うと言う。違うか?

 色の変化は分かったが、匂いを嗅いでも手で触っても違いが分からない。

 最後のブロックも同じように土壌薬を使ったが、今度は鑑定に頼らず色の変化であげるのをやめた。

 確認のため鑑定すれば、品質は良になっている。


「これなら大丈夫そうですね」


 クリスの言葉に頷き、あとはこれで野菜がしっかり育ってくれるかどうかだと思った。

 早速オリンが種蒔きを始めるということなので、折角なので教えてもらいながら俺も種蒔きを体験したのだった。




 

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