第290話 ナハル・4
翌朝ギルドに向かい、討伐依頼の確認をした。
ゴブリンとウルフの依頼があったため、両方受けることになった。
ゴブリン組が俺とルリカとクリス。ウルフ組がセラとヒカリとミアだ。
「二人と出会ったばかりの頃に、ゴブリンを狩に行ったよな」
「そうね。あんなに弱かったソラがこんなに立派になっちゃって」
「ふふ、そうですね。あの頃のソラは緊張してるような感じでした」
初めて三人でいったゴブリン討伐。もう何年も前のことのように感じるが、懐かしく感じるほど昔ではないかな?
今回この組み合わせになったのは、さすがに冒険者登録をしていない者だけのパーティーで魔物を討伐して、それを実績として報告するのもどうかということで、このように別れた。
ゴブリン組みに俺がなったのは、単純に女性が率先して狩るものじゃないというのもあるが、死体は全て燃やさないとだからだ。
そのためこちらにクリスもいる。
逆にウルフは解体をしないといけないので、俺が除外された。
たぶん、ミアの方が俺よりも解体は上手くなっているし、今のミアならウルフにも後れをとらないだけの実力がある。
「そういえば昨夜は三人で何を話してたんだ?」
「施設のことが主だけど、おばあのことを話してたんだ」
「精霊のお守りを作った人だっけ?」
「はい、モリガンお婆ちゃんです」
「確か亡くなったんだっけ?」
「? お婆ちゃんは亡くなっていませんよ。たぶんですが……」
そうだったか? あれ?
「おばあは行方不明なんだ。町がある程度出来てきた頃、何処かに出掛けては戻ってを繰り返してたんだ。今思うと、離れ離れになった村の人たちを探してたんだと思う」
「うん、私たちが冒険者になることも本当は反対してたから」
「……無理言って、困らせてたかな。それでもやっぱ、自分で探さないとって想いが強かったから。実際、エリス姉とセラはその間帰って来なかったから」
ルリカがギュッと拳を握りしめた。
「けど、私たちが冒険者登録出来る年齢になる少し前に、出て行ったきり戻って来なかったの。結局それは私たちがこの町を出るまでの間続いて、昨日フィロさんに聞いたらやっぱり戻ってないって言われたの」
クリスたちの話から、たぶんモリガンが一人かもしくは仲間と一緒に村の人たちを探していたことが分かった。
では戻って来ないのは? 可能性としては何らかのトラブルに巻き込まれたということだろうか?
「おばあのことだから大丈夫だと思いたいけど、さすがに心配になるかな。歳だったからさ」
「ふふ、そんなこと言うと、モリガンお婆ちゃんに怒られるよ?」
少し暗くなった雰囲気を払拭するためなのか、ルリカとクリスが冗談を言って場を和ませようとしている。
和ませようとしたんだよね?
心なしか、ルリカの顔は青ざめてるけど、クリスは可笑しそうに笑っている。
その後ゴブリンの集団を発見して討伐に成功した。
「あの頃の初々しさが懐かしい」
まだ言うか。冗談だってのは分かってるからいいけど。
「それじゃ燃やしますね」
ゴブリンの死体をひとまとめにしてクリスが火魔法で燃やす。
俺が燃やそうかと思ったが、大丈夫だと言われた。
思えばクリスも出会った頃は体力がなかったのに、当時と比べて見違えるほど体力が向上している。
ダンジョンで鍛えられたのもあるが、やっぱりルリカとの二人旅が成長させたんだろう。
「ん~、どうしたのかな? そんなにジッとクリスのことを見て」
「会った時と比べると、クリスも体力ついたなって思って」
揶揄おうとしていたのか、俺の答えに豆鉄砲を食らったようになっている。
そんなルリカを見て、ルリカは何処か掴みどころがなく変わらないなと思った。
「なんか馬鹿にされてる?」
「そんなことはないさ。それよりもう少し周辺を見て回るか?」
勘は良いようだ。話題を変えよう!
MAPと気配察知を使っている魔物はいないと思うが。
「そうね。少し周辺の地形も確認したいし歩こうか」
「なら少し落ち葉を拾いたいけどいいか?」
季節的に少ないかもだから、その時は枝葉を回収したい。
「昨日作業をしていた錬金術で使用するの?」
クリスの言葉に頷く。
そして興味がありそうだったから歩きながら話したら、予想以上に真剣に耳を傾けていた。
それほど施設の状況は深刻なのだろうか? それとも単純に興味があったからなのか? 尋ねてみたら後者だった。
なんでも土壌の改善が可能なら、施設の子たちの将来の選択が増えるかもしれないという考えらしい。
確かに町周辺の土は農業に適しているかというとそうでもない。
だがそれが使えるなら? 町を拡張して農場を作っても良いという考えが出来るかもしれない。
限られた土地しか使えないなら、町を出て行くか、冒険者になるかしかない。もちろん才能があれば錬金術ギルドや薬師ギルド、読み書き計算が出来れば商業ギルドでもいいかもしれないが、難しいのだろう。
相変わらず優しい人だと思いながら、楽しそうなクリスの横顔を眺めていた。
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