第289話 ナハル・3

 やってきたのは施設から比較的近くにあるという農場。一応施設の子供たちは、ここの農場主のもとで働いているそうだ。

 農業経験者の老夫婦が自立できるようにと、色々丁寧に教えてくれているみたいだ。

 実際俺がフィロから話を聞いて少し見学させてくれと言ったら、嫌な顔一つしないで案内してくれた。

 老夫婦のおじいさんがオリン、おばあさんがノーノと言うそうだ。


「確かにここの土は少し農業に適しておらんかもしれん。ただのう、ここ周辺の土地はだいたいこんなもんなのじゃよ」


 それでも川が近くにあり、また他の町から近いということでこの場所に町を作ろうということになったそうだ。


「わしも色々と試したんじゃがのう。じゃがどうしても上手くいかなくてのう」


 オリンが肩を落としながら言った。

 どうやら既に試した後だったようだ。

 見た感じ、他の村で見た野菜に比べて大きさも小さい気がする。

 試しに野菜を鑑定してみれば、品質が中となっている。

 この品質の項目は育成が悪いから品質が中なのか、それとも味が悪いからなのか判断に迷うな。

 かと言ってここで聞けば気分を害するかもしれないし。

 試食させてもらうにしても、ただでさえ食料が少ないわけだからな。

 俺が考え込んでいると、土から野菜を引き抜いて持ってきた。

 食べてみろということなので従ったが、味はそれほど悪くない。


「ソラ、何か分かりました?」

「さすがにお手上げかな」


 さすがに原因が分からないことには対処がしようがないんだよな。

 と、鑑定した状態で地面を見た時、突然鑑定結果が吹き出しのように浮かび上がった。

 見ると土の品質が低になっている。


「少しここの土をもらってもいいか?」


 オリンに変な顔をされたが、少し土を調べたいと伝えたら快くくれた。

 一応これを使って品質が変えられるかを挑戦してみるか。

 本当は良質な土を何処からか持ってくるのが良いのかもしれないが、アイテムボックスがあるとはいえ一人でやるには無理がある。

 なら錬金術か創造で土の栄養剤みたいなものが作れるか試してみる方が、現実的なことのような気がする。



「ただな……」

「どうしたの?」


 宿まで戻ってきて思わず出た呟きに、ミアが反応した。


「錬金術とかで改善出来たとして、やっぱり一時的なものだと思うんだよ。だから誰もが出来るやり方が一番いいと思ってな」


 俺の体は一つだし。


「それなら一般的な錬金術士でも作れるようにしてはどうです? それなら錬金術ギルドでも作れるかもしれませんよ」


 クリスの言う通りだ。

 技術の公開は勿体ないかもだが、それは仕方ない。商業ギルドと違い錬金術ギルドは話せる人が多いから、特許みたいな感じで使用料をもらえるか交渉してみるのもいいかもしれない。

 創造でしか作れないとなればまた別だろうけど。

 食事を終えて思い思いに寝るまでの時間を過ごす。

 ルリカたちはやはり食料問題を気にしているのか、ギルドで討伐依頼を受けようか相談している。

 ヒカリとミアは人形に魔力を籠めて何やらしている。


「何をしてるだ?」


 かなり真剣に取り組んでいるから気になって尋ねたら、


「あの施設の子供たちに見せてやるそうです」

「うん、練習」


 との答えが返ってきた。

 人形劇でもやろうとしてるのだろうか?

 人目についても大丈夫か心配になるが、いずれは誰かの目につくかもしれないからな。

 魔道具とかダンジョンで見つけたとか、何か言い訳を用意しておいた方がいいかな?

 とりあえず俺は俺で作業をするか。

 まずは土を複数の容器に入れて分けた。

 確認のため鑑定したが、品質は低の土だ。

 これに錬金術リストにある肥料関係のものを作って行く。

 火で素材を燃やす系は宿の中でやるにはいけないな……あ、錬金術で燃やしたと同じ効果のあるものが作れるのか。

 木は結構あるけど葉っぱがないんだよな。これなら落ち葉とかも拾っておけば良かった。普通なら火を点けるのに必要になりそうだけど、魔法で直接木を燃やすことが出来るから使わないんだよな。

 なら同じ葉っぱで薬草はどうだ? 品質が悪いやつが少し残ってるからこれを使ってみるか……そもそもポーションを土に掛けるとどうなるのかも試してみるか。

 うん、これは使えそうだ。

 これはこのままじゃ駄目だな。

 これだと効果が低いな。


「はぁ、難しい」


 久しぶりに集中して作業した気がする。


「主、終わった?」

「もう少しで完成しそうなんだけどな」


 やっぱ落ち葉とかも集めて試したいな。あとは魔石か?

 手持ちにまだ魔石はあるけど、比較的高品質のものしかないから、ゴブリンかウルフレベルの魔石が欲しい。


「ルリカ。近くにゴブリンかウルフの生息してる森とかってあるか?」

「森はあるけど魔物がいるかは分からないよ。何で?」

「ちょっと葉っぱ……落ち葉を集めたいのと、魔石が欲しい」

「魔石なら結構持ってなかった?」

「まだ実験段階だから低レベルの魔物の魔石で試したいんだ。それにゴブリンやウルフの魔石で作れるならそっちの方がいいと思って」


 仮にウルフとかの魔石では出来なくて、オークとかの魔石で作れるなんてなったら、薬品が高くなってしまうからな。


「それなら明日ギルドに行くさ。ボクたちも少し狩りをしたいからさ」


 少しでも食料を確保したいってことだろうな。

 急ぎたい理由はあるかもだけど、やはり昔からの知り合いが困っているから助けたいってことなんだろう。

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