第287話 ナハル・1
「そこで止まれ!」
まだ門まで一〇メートル以上あるのに、何故か大声で呼び止められた。
なんか門兵が槍を構えて警戒している。
「何かあったのかな?」
「どうだろう? ん~、私たちがいた頃はこんなことなかったわよね」
クリスとルリカが門兵の反応に戸惑っている。
俺も驚いているけど。今まで色々な町を回ったが、ここまであからさまな態度は初めてだ。
もちろん警戒して対応されたことは一度や二度じゃないけど、ここまでは酷くない。
「何用でナハルにやってきた?」
それはルリカたちの知り合いがこの町に住んでいるからだけど。あ、ルリカたちもこの町に一時的に住んでいたのか。
「私たちはこの町に以前住んでいた冒険者よ。久しぶりに戻って来たの」
「……全員がそうか?」
「私とこの子がそう。他は旅先で出会った人たちよ。なんならこれで確認して」
ルリカが一人で近付いて行き、ギルドカードを渡した。
門兵の一人が恐る恐る近付き受け取ったが、その間もう一人は槍を構えたままルリカの一挙手一投足を観察しているようだった。
そしてギルドカードの確認をして戻って来たその男は、慌てた様子で戻って来て突然頭を下げた。
「か、確認しました。非礼をお詫びします。どうぞ……他の方々も確認させて下さい。おい、その槍を下げろ。この方たちは大丈夫だ」
突然のその様子に、槍を構えていた門兵は困惑顔だ。
もちろん俺たちも困惑している。
その後身元確認が無事終わったら、町の中に入場出来た。
そう言えば、普通なら門が開いているのに閉まっていたな。
それに門兵用の詰所だろうか? そこに多くの人の姿があった。
その後冒険者ギルドに寄って、門兵のあの態度の理由が分かった。
「ルリカ! それにクリスも! えっ、セラなの⁉」
冒険者ギルドは混んでいて、ルリカたちが受付にいった時の受付嬢の反応がこれだった。
物凄く驚いた反応で、後で聞いたらこの受付嬢はルリカたちの幼い頃からの知り合いだったらしい。
「詳しいことは後で教えてね。それで当ギルドに何の御用でしょうか?」
注目されていることに気付いた受付嬢は、営業の顔に戻り普通の対応になった。
その後情報収集と宿の場所を確認して戻って来たルリカたちと合流してギルドの外に出た。
「とりあえず宿に行きましょう」
「ルリカたちは家に戻らなくてもいいのか?」
「ん~、家っていっても私たちは施設みたいなとこだったからね。後で顔は出すけど先に宿をとりましょう。外から人が来てるみたいだから、いくつか回る必要があるかもしれないし」
道すがら、ギルドで聞いた話を教えてくれた。
それで門兵が警戒していた理由も分かった。
何でもこの町の近くで遺跡が見つかったそうで、首都から調査隊が派遣されたり冒険者が押し寄せてきたりで、小さな町だったのに人数が急激に増えて混乱したようだ。
それに伴い住民たちとの衝突があったりと、治安も一時的に悪化したそうだ。
今は比較的落ち着いてきたが、新たに来る人が時々問題を起こす時があるみたいで、治安を守る警備兵たちは忙しいとのことだ。
「遺跡とか。見つかることが多いのか?」
「たまにありますよ。今回は土砂崩れで山が削れて見つかったそうです。一部の人たちは、遺跡の近くに拠点を作っているみたいですよ」
「……黒い森の討伐協力よりも遺跡調査をするんだな」
元々戦争の恨みつらみがあるとはいえ、いいのだろうか?
「遺跡はダンジョンと同じように、魔道具が眠っていることがあるみたいですから。それ目当てかもしれません」
クリスの説明になるほどと頷いたが、あくまで可能性の問題だし、将来を見据えての調査なのだろうか?
その後六軒目の宿でやっと泊まることが出来て、ホッと息を吐けた。
「予想以上に人が多く来てるさ」
セラも疲れたようだ。
「人が多いというよりも、大きな宿が少ないのが原因かもね。私たちがいた頃よりも町は大きくなったみたいだけど」
ルリカたちがいた頃は、まだ町つくりが始まった頃だったようでもっと混沌としていたそうだ。
「それを考えると、時間の流れを感じるかな」
「うん、そうだね」
窓の外を眺めながら、ルリカとクリスがしみじみと言っている。
「遺跡に関して詳しいことはローザ、さっきのギルドの受付をしてくれた娘に聞くとして、まずは施設に顔を出してみる?」
「セラちゃんのことも報告したいですし、私も少し皆が元気か見てみたいです」
「ソラたちはどうする?」
俺たちが行っても邪魔になりそうだからな。それに積もる話もあると思うし。
「ソラたちも来ればいいさ。お世話になったんだし」
悩んでいたらセラからそんなことを言われた。
なんかあるのかと思ってセラを見ると、何となく緊張しているように見えた。
……不安なのかな?
……不安なのかもしれないな。
「そうだな。折角だしついて行こうかな。ついでに町の中を歩いて回るのも悪くないし」
それにルリカたちにはお世話になったわけだし、そのことを伝えるのも悪くないと思った。
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