第285話 フラーメン

 フィロを経由して、エルド共和国の首都であるフラーメンに到着した。

 国境としてベルカを発ってから、約二週間掛かった。

 やはり入場するのに時間を多くとられた。

 どうも狩から戻ってきた冒険者と時間が重なったのが原因だったようだ。

 結局入場出来たのは夜遅くで、宿は高い所しか空いてないためそこで泊まることになった。

 広々としているから一部屋で全員泊まれるが、普通の人じゃなかなか手が出ない値段だと思う。


「……これに慣れちゃ駄目だよね……」


 とはクリスの声。

 確かに専門の店員がいて、食事も部屋に用意されている。

 どれも一級の食材らしいが、知らない食材が多くて良し悪しが分からない。

 料理も全体的には美味しかったが、一部癖のある感じのものもあった。

 それは翌日の屋台料理巡りをして理由が分かった。

 色々と屋台を回って食べ歩いたが、時々妙に歯応えがあったり、逆に見た目と違って薄味であっさりしていたものなどが時々あった。


「主、微妙……」


 と眉を顰めたヒカリの呟きを聞いた店主が、苦笑いをしながら丁寧に教えてくれた。


「嬢ちゃん、ここの国は色々な好みを持った人が多いからな。それに合わせて作ってる屋台が多いんだよ」


 早い話が、種族で好みが別れるため、それに合わせて味付けや噛み応えを調整しているそうだ。俺たちのような人間には硬い肉も、あごの強い一部の獣人にはこれぐらいないと食べた気がしないなどあるみたいだ。

 確かに屋台の店主も、色々な種族な人がいて、見てると同じ種族の人が買って行っている。

 理由を教えてくれたのは、屋台をしていてヒカリが色々なお店をはしごしているのを見てたからのようだ。


「ここのは私好き」


 そのおっちゃんは人種で、ヒカリがモグモグと食べながら褒めている。


「しかし良く食べるな。ちっこい体なのに」

「美味しい料理は別腹」


 うん、そんな言葉聞いたの初めてだよ。

 おっちゃんは嬉しいのか、「オマケだ!」と追加で肉串をくれたが流石に止めるよ? アイテムボックスに保管です。

 おっちゃんには変な顔をされたが、ヒカリはあとでも温かいままのものが食べられるのを知っているから文句を言うことはなかった。

 その後は道具屋を見て回って、装備品の確認をして予備を買ったりした。

 ただ今使っているものの補修を頼んだから、少しここに滞在する必要が出来た。


「……宿探そうか?」


 ルリカの言葉に俺以外が頷く。

 ヒカリは特に嬉しそうだ。

 まだ回っていない屋台があるからだろうな。

 ついでに冒険者ギルドに寄っていくことになった。

 補修が終わるまでの間に受けられるような依頼があるかの確認と、お手頃価格の宿がないかを聞くためだ。

 討伐依頼はそこそこあったが、今のルリカたちのランクはB。その適正に合わせると受けられる依頼だと少し遠いところになってしまう。

 どうするか悩んでいたら、見知らぬ顔の俺たちの様子を見ていたギルド職員が理由を尋ねてきた。


「何かお困りですか?」


 それは先ほどルリカたちが話していた受付嬢だった。


「討伐依頼を受けようと思ったんだけどね。ただBランクで受けられる依頼が遠いものしか残ってなかったから」


 今残っている依頼はオークとウルフの上位種、テンペストウルフの討伐依頼だ。

 その両方が現場まで片道三日掛かる距離になっている。

 そこから森の中に入って魔物を探すとなると、さらに時間が掛かる。一応目撃された場所の記載があるが、必ずそこにいるとは限らないからな。

 これが村を襲うなどした場合はまた多少は違うのだが。


「……確かに急ぐ旅をしているなら難しいかもしれなせんね。ならこれなんてどうですか?」

「……これって低ランクの子が受けるものじゃない?」


 それはウルフの討伐依頼。一泊はしないと駄目そうだが、少なくともBランクの冒険者が受けるようなものじゃない。


「実は人手が足りてないんです。それにここのウルフを減らせたら、薬草採取を受ける子たちが助かるんです」


 薬草採取は結構ランク関係なく受けることが出来る。

 それは冒険者や騎士たちの生命線ともいえるポーションを作るために必要だからだ。

 もっともランクが上がると受ける人は徐々にいなくなるから、高ランク冒険者が率先して薬草採取を受けることはないが。

 そして今回は、ウルフを狩れない初心者のために、周辺のウルフを狩って欲しいということだ。

 全滅させる必要はなく、ある程度狩って薬草採取が出来る場所に近付かないように牽制するのが目的のようだ。


「それなら受けようかな? あとは私たちが薬草採取しても問題ない?」

「は、はい。今は少し不足しがちなので、余裕があれば採取をお願いしたいです」


 確かに道具屋を見て回ったら、ポーションの値段が上がっていた。

 やはり黒い森侵攻の影響が出ているのだろうか?

 あまりのんびりすることは出来ないかもしれないな。

 ルリカは依頼を受注すると、宿の紹介もしてもらったようで、そこで一泊して翌日ウルフ討伐&薬草採取に出掛けた。

 もちろん薬草採取はルリカたちがウルフを探している間に俺とミアがやっておいた。

 冒険者ギルドの他に、商業ギルドと錬金術ギルドにも卸して、残りは俺が確保した。

 さすがに初心者が採取する場所だから、いつものように全力で採取しないで、程よい感じに抑えておいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る