エルド共和国編

第284話 国境都市ベルカ

 誰かが体調を崩すことなく下山することが出来たのもあって、山岳都市ラクテウスを発って三日ほどで国境都市ベルカに到着した。

 予想外だったのは、ベルカに入る時に時間が掛かったことか。

 ルリカとクリスは問題なかったが、他国の人間ということで厳重にチェックされた。

 セラは? と思ったが、生まれはエルド共和国だが戦争の時に連れ去られたこともあって、それを証明するものがなかったため、俺たちと同じような扱いだ。

 これは戦争によって攻められたことが未だトラウマとなって残っているからのようだ。

 ルリカとクリスと一緒じゃなかったら、もっと厳しかったかもしれない。門番に対して、二人が何やら口添えしてくれていたみたいだし。


「これは町から町の移動が大変になるかもな。それと町の中も自由に歩けなかったりするのかな?」

「それはないと思います。ただ、その分入るのが厳しくなっているんです。むしろ、ここでは町に入る人が少なかったから時間があまりとられませんでしたが、他の町だと待ち時間が長くなるかもしれません」

「あ~、ルフレ側から来る人が少ないからか」


 その言葉にルリカとクリスが頷いた。

 確かに誰も待っていなかったからな。

 というか誰もいなかったから厳しかったんじゃないのか?

 そう聞いたらチェックの厳しさは何処も同じだそうだ。


「けどベルカから次はフィロだろ? ベルカでチェックを受けるからフィロでは少しは緩和されるもんじゃないのか?」

「ソラ、それは違うよ。必ずしも順番に町をまわって行くとは限らないんだから」


 ルリカにそう言われて、王国から脱出した時は、森の中を突っ切って聖王国に入ったことを思い出した。


「問題は今旅をする人がどれぐらいいるかかもね。そこを拠点にしている人たちならそれほど出入りに時間は掛からないと思うし」


 魔王討伐の風潮が高まれば、人の出入りが激しくなるものか?


「とにかく問題を起こさないように注意しましょう」


 ルリカの言葉に皆頷く。

 俺とヒカリのことを心配するように見てくるのは何故だ?

 結局その日は宿で一泊した。

 すぐに旅立ちたいところだが、もう一泊するそうだ。

 主に情報集をするためで、それは冒険者組が担当してくれるようだ。


「それでソラ、私たちはどうするんですか?」

「……露店を回りながら、一度商業ギルドに寄ろうかと思う」


 その前に一度道具屋に寄ってポーション類の価格調査をしておくか。

 けど商業ギルドか……そこまで考えて行く必要がないかもと思ったが、何か情報があるかもしれない。

 まず最初に道具屋に向かいポーションを見たが、あまり質の良いものが並んでいない。買い占められたのかと思ったが、元々利用する人が少ないこともあって、ここでは高品質なものはあまり使われないらしい。

 その後商業ギルドに行ったが、あまり活気がなかった。

 寂れてさえいると思う。

 話を聞けば、竜王国に行く旅人も少ないため、新規で来る商人も滅多に来ないため規模が小さいらしい。

 同じ国境都市でも、聖王国と隣接しているサルジュの方は、活気があると愚痴を言われた。

 何でもサルジュからこちらに回されたらしい……左遷?

 思ったけど言葉にはしなかったが、確かに対応はあまり宜しくなかった。

 説明の合間に不満をぶつぶつと言うのはどうかと思う。

 その後屋台を回ったが、どうやらヒカリの眼鏡にかなうものはなかったようで、二、三品試しに買って終了した。


「何か分かったか?」


 合流して尋ねたら、どうもエルド共和国としては魔王討伐に乗り気ではないそうだ。

 一番はやはり戦争の傷跡。あれから七年経ったが、人質解放も碌にやらない帝国の態度に、怒りを感じているらしい。


「それじゃ後々大変にならないか?」

「その辺りはどう考えているか分からないんだよね。ただ元々共和国には兵士自体が少ないから。冒険者にお金を支払って行ってもらう感じなのかな?」


 冒険者ギルドにそのような張り紙を見つけたらしい。

 かなりの高額依頼だが、予定数の半分も集まっていないとか。

 ギルドとしても、周辺の魔物の討伐が滞ると町へ被害が出るかもしれないから、そこまで率先して募集してないようだ。


「集まらなかったら、帝国の所為で人がいないと言えばいい。なんて話してる人もいたさ」

「セラ的にはどう思うんだ? 黒い森はやっぱ危険なところか?」

「ん~、難しいとこさ。ボクが黒い森で戦っていた時は、結局捨て駒みたいに使われていたからさ。しっかりした戦力を集めたら討伐は可能なのかもしれないさ」


 セラは一度そこで言葉をきり、難しい顔をして続けた。


「ただ、ボクもあまり深いところで戦ったことがないからさ。噂で深部に向かって戻ってきた者は誰もいないなんて聞いたことがあったさ」


 感じとしては、黒い森の深部が、ダンジョンの下層領域のようなものか?


「俺たちも準備はしっかりしてから行かないとな。譲ってくれた魔道具で道に迷うことはないと思うが、どんな魔物が出るか分からないからな」


 万が一のことを考えて、一人一人食料や消耗品を持っておけるようにしないとな。

 新しいアイテム袋を作成する必要がありそうだ。

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