第282話 回復と別れ

「ソラさん、本当にありがとうございました。お姉様も、皆も、ご迷惑をお掛けしました」

「水臭いですわケーシーちゃん。私たちの仲じゃないですの。それに今の私たちがいるのは、ケーシーちゃんのお陰ですわ」

「そうだよケーシー。私たちは当たり前のことをしただけ」


 深々と頭を下げるケーシーに、レイラが、タリアが声を掛ける。

 容態が安定したということで部屋を訪れるなり、礼を言われたが、報酬をしっかりもらっている身としてはこそばゆく感じる。

 むしろもらい過ぎだと思ってます、はい。親バカのなせるわざか?


「顔色は良くなってるけどまだ無理はしないようにな。それに体も慣らしていかないと駄目だろうし」

「はい」


 上半身を起こして、手を閉じたり開いたりしている。

 俺は体調に関して素人だから、その辺りは専門家に任せるのが一番。


「ソラたちは、また旅を続けますの?」

「ああ、セラたちが戻って来て、数日休憩を挟んだら出立する予定だ。ケーシーの容態が特に問題なかったらだけどな」

「そう、ですの……」

「レイラたちはマジョリカに戻るのか?」

「……一度聖王国のメッサに寄って、それから戻る予定ですわ」

「メッサと言うと聖都か」


 その言葉にビクリとミアの体が震えたが仕方ないか。色々あったからな。


「実は戦争……討伐で戦える者が招集されるようなのです。私たちはまだ学生ですが、もしかしたら招集されるかもなのですわ」

「私も父から手紙がありました。魔法を習っているからでしょう。討伐隊に招集されるようなら戻ってくるようにと、心配しているようでした」


 ヨルの父親、ダンならそんな手紙を書きそうだ。


「それでケーシーちゃんのこともあって、避難する意味でこちらに来たのですわ。貴族としての義務を放棄しているようで心苦しいのですが……」


 詳しく聞くと、レイラの母親が王宮勤めで、近々黒い森の討伐隊が結成するかもしれないという情報を入手したようだ。

 なんでもエレージア王国の呼び掛けに、国によって意見が割れて紛糾してるそうだ。


「魔王討伐のため、人類が手を取り合う必要がある! というのかエレージア王国からの言葉らしいですわ」


 その言葉に呆れた表情を浮かべるのは、人間至上主義を謳う王国が、ラス獣王国やエルド共和国にも同じように呼び掛けているからのようだ。

 普段はそんなことがないのに、都合の良い時だけ助けてくれと言う。

 ただ問題は、人類の脅威とされている魔王に対してのため、表立って反対出来ないということのようだ。

 実際遥か昔には、その申し出を拒否した国が、魔王討伐のあとに賠償責任を負わされたとの記録もあるそうだ。


「確かに黒い森と隣接してなければ直接の被害はなさそうだからな。ただ魔人の襲撃を受けた国は動くんじゃないのか?」

「聖王国はどちらかというと神官が多く参加すると思います。回復できる人は貴重ですから」

「あとは回復薬を納めたりですかね? 実際少し価格が上がってきていたと思います」


 俺の言葉に、ヨルとルイルイが答えた。

 回復薬の高騰か……自給自足出来るのはこういう時に助かるな。

 その後皆で部屋を出て、食堂に移動して昼食を摂った。

 ケーシーは一人で歩けないからレイラたちに肩を借りながらの移動で時間が掛かったが、それでも少しずつ動けるように頑張っているようだ。

 無理は禁物だが、今は大変でも徐々に慣らしていく必要がある。

 いつかは通らないといけない道だしな。頑張ってもらいたい。



「それじゃレイラ、またな」

「ええ、マジョリカで待ってますわ。何処に行くかは聞きませんが、ヒカリちゃん、ソラのことをよろしく頼みますわ」

「うん、任された」


 一緒に採取依頼を受けて仲良くなったようで、冒険者組もフレッドやサイフォンたちと別れの挨拶をしている。

 確か戻って来て開口一番ルリカが言った言葉は、


「料理を教えるのは難しいよね」


 と、


「ヒカリちゃんがたくさん……」


 だった。

 気のせいか、フレッドをはじめとした男性陣が少し瘦せているように見えた。


「ソラ、ポーションありがとうな」


 挨拶が済んだのかフレッドがやってきた。

 依頼分の薬草を納品し、残ったものを手渡された。

 これでポーションを作って欲しいということで、空いた時間で作成した。

 一応料金を頂いているからタダ働きじゃない。必要ないといったが、これも仕事だからということで無理やり渡された。


「フレッドもレイラたちを頼むぞ。帰りも護衛するんだろ?」

「もちろんだ。それに今度は聖都に一時滞在するって話だからな。ちょっと楽しみでもある」


 フレッドの言葉に、ガウンとエデルも頷いている。

 マジョリカの外に出たことのないダンジョン組には、外に出ての冒険は新鮮に映っているようだ。


「ただ危険もあるからな。経験豊富なサイフォンたちの言うことを良く聞くんだぞ」


 そうして俺たちはエルド共和国に向かうため、山岳都市ラクテウス目指して歩き出した。

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