第280話 身分証・2
「そんなことがねえ」
お風呂上り、ルリカとクリスが部屋で寛いでいたから昼間にあったことを話した。
「……私は少しだけ、ミアの気持ちが分かるような気がします」
クリスを見ると、少し困ったような表情を浮かべていた。
「……ただ、それが本当にミアの抱いているものかはわかりません。たぶんなのですけど、不安なんだと思います」
「不安?」
「はい、エルザとアルトのことは仕方ないと思いましたが、それに近いものを抱いていると思うんです。ソラはミアのことを思って色々考えてくれていますが、ミアは、ソラともっと一緒にいたいと思っていると思います」
それは単純に命の恩人に対して、恩を返したいと思ってくれてると思ったのだが。それは多少は好意を抱かれていることは感じているけど。
「とにかく、言葉にしないと伝わらないことってあるものよ。だからミアと良く話し合った方がいいよ」
「分かったよ。話し合ってみる」
「うん、それがいいと思います」
「……それで、ルリカたちは何か依頼を受けるのか?」
話題を変える意味もかねて尋ねてみた。
「それがね。泊まりでちょっと採取依頼に行くことになったのよ」
ルリカの説明によると、冒険者ギルドに行くとサイフォンたちもいて、合同で一緒に依頼を受けないかということになったらしい。
といっても魔物の討伐依頼がないため、薬草の採取依頼に決定したようだ。
「皆で行くのか?」
その言葉にコクリと頷かれた。
確かフレッドたちのグループは、一五人いたよな? ルリカたちと合わせると一八人になるけどそんな大人数で?
「フレッドさんたちダンジョン組は採取依頼とか受けたことがないみたいで、それで教えながら行ってみようって話になったの。報酬目的というよりも、練習の意味合いの方が強いかもしれないわね」
それなら納得なのか?
あとは森での歩き方とか色々と体験するようだ。
「そんな離れたところまでは行かないから大丈夫よ。あとは、簡単な料理を教えてと言われたかな」
「ソラほど美味しく作れないとは言ったんですけどね。それでもいいと言われました」
移動中の料理に思うところがあったようだ。
馬車で移動したため調理器具なども携帯してたみたいだけど、殆ど保存食で済ませたようだ。
温かいスープが飲みたい(ある程度美味しい)という心の叫びを聞いて、つい頷いてしまったようだ。
……ユーノは料理を殆どしてなかったような気がする。
一度だけ一緒した護衛依頼の時のことを思い出したが、やはり料理をしている姿は記憶に残っていなかった。
「ミア、やっぱり奴隷商館に行って契約を解除しよう」
その一言で、ミアの表情が曇った。
「ただ、契約を解除したいのはさ。やっぱミアたちのことを、あんな目で見て欲しくないと思ったからなんだ。ミアは我慢できるって言うかもだけど、俺が我慢出来ないんだよ」
「けど……」
「別にさ。契約を解除したからってそこで別れるわけじゃないよ? 少なくともミアが望むなら、これから先も一緒に旅をしたいと思ってる。もちろんさ、これから行くのは黒い森だ。どんなところかは詳しく知らないけど、話しに聞く限り危険な場所だってことは分かっている」
ミアを見れば、ジッとこちらを見ている。
逆にそんな真剣に見られて、俺の方が緊張してくるな。ちょっと口の中が乾いてきたような気がする。
一つ咳払いして言葉を続ける。
「それでもミアがそう望むなら、一緒に行こう。ミアの人生を壊してしまった責任は、間違いなく俺にあるから」
あの後、すぐにミアの無事をダンに話していたら、違った未来があったと思う。
それこそ魔人に対する警戒も上がってただろうし、ダンジョンで危険な目に会うこともなかった思う。
死なせたくない、助けたい。その想いは今も変わらないし、あの時はそれが正しいと思った。何よりあの理不尽な奴らから、ミアを守りたいと強く思った。
「そんなことない。あの時、私の命を救ってくれたのは間違いなくソラだった。枢機卿も手助けしてくれたけど……だから、これは私の我が儘」
ミアは一度言葉を区切ると、大きくを息を吸い込んで言った。
「だから私はソラ、貴方と離れ離れになりたくない。それは……たぶん……ソラのことが好きだから」
カッと顔が赤くなるのが分かった。
目の前には、同じように顔を真っ赤にしたミアがいた。
「……そう言ってくれるのは正直言って嬉しい。ただ今は……」
「うん、ソラにとって何が今大事かは分かっているつもり。答えは……それが終わってからでいいよ。そ、それに……ここはソラのいた世界と違って、たくさんの人と付き合っても問題ないんだからね!」
う~と言って、バタリとミアが倒れてしまった。文字通り力尽きたといった感じか?
「主、話は終わった?」
ヒカリのその言葉に、ミアが瞬時に蘇った。
「ヒ、ヒカリちゃんいつからそこに!」
「? 最初からいた」
うん、ヒカリは最初からいましたよ。
「とりあえず……奴隷商館に行くか?」
その言葉にコクンとミアが頷いたため、俺たちも出掛けることにした。
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