第279話 身分証・1
「ソラ、ありがとう。本当に……ケーシーちゃんを救ってくれて……」
翌朝。顔を合わせるなりレイラから礼を言われた。
昨夜は大事をとってブラッディーローズの面々は部屋で食事をすませたから、ケーシーの治療が終わってから会うのはこれが初めてだ。
治療といっても、薬一本で終了だからあまり実感がなかった。
これはケーシーが辛かった時をあまり見ていないからなのかもしれない。
「ケーシーもそうだけど、レイラも少しゆっくりするといい。久しぶりに会った時見違えたぞ」
「……分かりましたわ」
「ならいいけどな」
ちょっと間が持たないな。
「そ、そう言えば、ソラはこれからどうするのですか?」
レイラも同じようだ。
話題を変えるためなのか、これからの予定を聞いてきた。
そのことについては昨夜少し話していた。
元々がマジョリカまで治療薬を届ける予定だったのがなくなったからだ。
「とりあえずエルド共和国に行く予定だ」
そこからさらに黒い森に行く予定だが、そっちは話す必要はないだろう。
「エルド共和国にですの?」
「ああ、エリスさんはまだ見つかってないけど、一度セラを連れて里帰りしたいってなってな。治療薬を届けにマジョリカに行ってたらまた違ったけど、ここからなら近いからさ」
「そう、ですの……」
「ただもう少しここに滞在する予定だよ。ケーシーの容態も気になるしな」
大丈夫だと思うが、何かあった時に対処出来るように一週間ぐらい様子を見る予定だ。
一週間何をするか悩むところ。一番の問題はそこだけど。
ルリカたちは何か依頼を受けるかな、と言ってたけど、俺は長いこと離れるわけにはいかないしな。スキルの熟練度上げに勤しむか。
あとは旅の支度。色々と魚を購入したり、あとは気になる屋台の料理の買いだめかな?
「レイラたちはどうするんだ?」
「ケーシーちゃんの状態が回復したらマジョリカに戻りますわ。あ、ソラたちと会えたら渡したいものがあったのですわ」
手渡されたのは三枚のカード?
「これは?」
「身分証ですわ」
良く見たら確かにギルドカードと似ている。
けど身分証?
「ソラとミアとヒカリちゃんの分ですわ。ソラのはいらないと思ったのですが、お父様がせっかくだからと作ったようですわ」
「欲しいとは思ったけどいいのか?」
確かにウィルにそんな話をした覚えがあるが、今までだって色々ともらっていると思うのにさらに身分証まで?
「私たちにとって、ケーシーちゃんは大切な家族みたいなものですから」
ケーシーの治療のための報酬と考えればいいのか。
「分かった。ありがとな」
実際欲しいと思っていたのは事実だ。
これから先、全ての問題が解決したら、俺にも何か身分証みたいのが必要になってくるかもしれないしな。
そこでふと思う。
俺にとっての問題とは何か?
エリスを探す。これは決定事項だ。
ならその後は?
魔王と敵対する予定はないが、では魔王がこのままこの世に存在した場合、この世界はどうなるのだろうか?
学園の図書館で少し歴史書だか物語だか分からない書物を読んだりしたが、そこは常に勇者によって魔王が討伐されたという感じで締め括られていた。
なら今回もそうなのか?
圧倒的な力のイグニスのことを考えると、とてもじゃないが想像出来ない。
ただ俺でさえここまで強くなったんだ。なら他の召喚者たちはどれぐらい強くなっている?
また個で強くても、集団で攻めたらまた違うのかもしれない。
スキルや魔法は数の優位を簡単に埋めてしまうが、それだけ消費も激しい。
では魔王が討伐されなかったら?
この世界はどうなる?
この辺りも、相談する必要があるかもしれない。
イグニスに会えたらそのことを聞きたいけど、ちょっと会うのも怖いんだよな。
部屋に戻ると、ヒカリとミア以外の姿がなかった。
俺が使用しているベッドに腰を下ろせば、ヒカリがトコトコと横にやってきてちょこんと隣に腰を下ろした。
「セラたちはどうしたんだ?」
「ギルドに行くと言ってました。何か依頼がないか探すみたいですよ」
出発まで一週間あるしな。
ただ盗賊の件もあるし、出来れば遠出するような依頼は受けて欲しくないというのが本音だが、ずっと一緒に行動するわけにもいかない。
それに経験という点でいえば、あの三人の方が俺よりも経験豊富だしな。
「さっきレイラと会ってさ。だいぶ元気になった感じだな」
「一日でそんなに?」
「やっぱケーシーの容態が影響してたんだろうな。それでこんなものをもらったんだ」
三枚のカードを見せたが、首を傾げるだけだ。
見ただけじゃわからないしな。
「マジョリカの住人である証明書……身分証だな」
あれ? 反応が悪い。
ヒカリなんて興味ないのか、足をぶらぶらさせている。
「あの、ソラは私たちのことを思って用意してくれてると思いますが、私はこのままでも大丈夫ですよ?」
「けど変な目で見られるじゃないか……奴隷にした俺が言うのなんだが……」
「……それでも、です。それにこれがないと……」
ミアは首輪を撫でると俯いてしまった。
結局その日は宿でスキルを色々使ったり、料理の話をしてルリカたち三人が戻るまで過ごした。
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