第278話 治療
「どうだった?」
二階から下りてきたら、フレッドが心配そうに聞いてきた。
改めて食堂を見れば、新しくパーティーを組むと言った面々が全員いるようだ。
「とりあえず今は眠っている。話しは起きてから聞くことにしたよ。何でも寝たばかりだってことだからさ」
「そっか……それで、治療薬はどうなったんだ?」
「一応完成したよ。問題は、それが有効かどうかだけど」
「確かにその通りか。使ってみないと分からないだろうしな」
「それで、何故フレッドたちがここに?」
予想は出来るが説明をしてもらった方がいいだろう。
「実はな~」
フレッドはチラリとサイフォンを見ると、説明を始めた。
予定通りプレケスに到着したと思ったら、まさかのダンジョン使用不可。理由は分からないが、プレケスのダンジョン関係者に対する調査が行われているということで、物々しい雰囲気に町全体が包まれているような感じだったそうだ。
いつからダンジョンが開放されるか聞いても見通しがつかないということで、マジョリカに引き返してきたところ、冒険者ギルドで護衛依頼があり、それを受けることになったようだ。
その護衛依頼というのが、レイラたち一行を竜王国まで護衛するということ。
そもそもマジョリカの冒険者は護衛の経験者が少なく、事実フレッドも初めてだと言う。
それでも受けたのはサイフォンたちがいたからというのもあったようだ。
「騎士が護衛するとかなかったのか?」
レイラの父親の領主ならそれぐらい出来そうなものだが、現在自由に動かせる騎士がいないとのことだ。
首都からの要請で、必要最低限の人員以外は徴兵されているらしい。
その意味するところは……?
っと、話が逸れたな。
「それにしてもケーシーの容態で良くここまで来れたな。無茶じゃなかったか?」
「流石に徒歩じゃ無理だから馬車で移動だ。遠回りだが聖王国経由で来た」
確か聖都まで行って、そこから南下する経路だったか?
「いや~、貴族様の馬車は早いな。それとサイフォンに聞いたら、普通の馬車じゃもっと乗心地が悪いようなこと言われたよ」
「あれだけの速度を出すのに揺れないのは、普通の馬車じゃ無理だな」
「あ~、確かに」
普通の馬車の速度じゃ、時間的にこんなに早く到着することは出来ていないはずだ。
ならかなり速度が出る馬車で来たことになるが、安い馬車じゃ振動が酷いからな。
それでもこの世界の技術じゃ、完全に振動をなくすことは無理そうだが。
「一応ボーゼンだったか? 彼が振動を吸収してくれるアイテムを貸してくれてな。それがあったから連れて来たってのもあるな」
やはり俺の報告を受け、またプレケスのこともあってコカトリスの素材の入手の先行きが見えなかったため、神にもすがる思いでこちらに来たそうだ。
「さすがに日に日に元気がなくなるのを見るとくるものがあったな。だからよ、あとは頼んだぞ」
それはケーシーだけでなく、レイラたち一行のことも指しているようだった。
それから俺たちは宿で泊まれる部屋があるかを確認して、それから互いに近況を報告した。
俺はフレッドたちと、ルリカたちはサイフォンと話している。
道中のご飯が美味しくなかったと俺に愚痴られても困るんだが?
「師匠、今いいですか?」
そろそろ夕食の時間かと思っていたら、ヨルが階段を降りて来た。
ついて行けばケーシーが目を覚ましていた。
「久しぶりだな」
「ソラさん、お久しぶりです」
「調子はどうだ? 長旅は辛くなかったか?」
「……大丈夫です。むしろ……」
ケーシーの視線を追えば、ベットに横になっているレイラがいた。
その横顔は申し訳なさそうに歪んでいる。
また少ししか言葉を発していないが、それも辛そうに見えた。
「とりあえず治療薬だ。効くかどうかは分からないが、飲んでもらっていいか?」
小瓶を渡すとそれを受け取ったケーシーは、躊躇することなく一息に飲んだ。
鑑定を使って注意深く視ていたら、状態の表示が突然切り替わった。
それはケーシーの体にもすぐに反映されていく。
「あ、あ……」
そのことに気付いたケーシーが腕の袖をまくると、そこには灰色ではない素肌本来の色になっていた。
「調子はどうだ?」
「は、はい……」
そこまで言って咳き込んでしまった。
失敗したな。水を……と思ったがアイテムボックスからフルポーションを出して渡した。
本当はゆっくり自然回復させていった方がいいかもと思ったが、たぶん色々と弱っていると思って一本だけ渡した。
もっとも病気には効果がないから、ひとまず低下した体力が戻ればいいと思ってのことだったが……うん、多少は効果があったのかな?
ポーションは効果があると劇的に変化するからな。
それこそ傷を負っても、逆再生のように一気に傷口が塞がっていくし。
もちろん高品質のもの、ならだけど。
「ヨル、宿の人に消化の良いものも頼んでおいてくれ。ケーシーと……レイラの分もその方がいいかもしれないな」
それを受けてバタバタと部屋を出て行った。
落ち着こうな。一応ヨルも良いところのお嬢さんなのに、落ち着きが足りないと思う。
それだけ心配だったってのはあるのかもしれないけど。
「ソ、ソラさん。本当にありがとうございました」
ケーシーが深々と頭を下げてお礼を言ってきた。
「ま、まぁ俺は薬を用意しただけだしな。それよりも今までお世話をしてくれた皆に、感謝を伝えるといいよ」
まずはブラッディーローズの面々に任せよう。
照れ臭かったというのもあるが、涙を流して喜ぶ面々の中にいるのは、少し耐えられないなと思ったからだ。
どうもこういう場面は、苦手というか、慣れてないんだよな。
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