第277話 別れと再会
「ヒカリ、今度会う時には必ず俺の方が強くなってるからな。また来いよ!」
「ん、返り討ちにする。けど来るかは分からない」
確かにまた来るかは未定だよな。
現実を突き付けられて、サークは重い一撃を受けたようなショックを受けている。
ヒカリは良くも悪くも正直だからな。
「ソラさんも良かったら来てくださいね。歓迎します。お姉様もソラさんの作る料理を大変喜んでいましたから」
「サハナちゃん、それだと私が食いしん坊みたいに聞こえますよ?」
あ、珍しくユイニが怒っているみたいだ。
頭をグリグリしている。
サハナも頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。
「は~、もう少し成長してもらいたいものです。それでは皆さん、どうかお気をつけて。エリスさんが無事見つかったら、お手紙の一つも送ってくださいね」
「は、はい。その時は報告させてもらいます」
クリスが手をギュッと握りしめて頷いている。
ここで手掛かりが途切れ、進む道に迷っていたところにまた希望の兆しが見えた。
黒い森……魔物の生息地域だ。
危険だと思うが、彼女たちは止まらないだろう。
王国に行くかどうかも迷っていたが、そちらに行くと決めたようだ。
ミアは青い顔をしていた。
俺が行くと言えばついて来るだろうが、魔人に対して抱いている恐怖はまだ残っているんだろう。
それとセラたちと何だかんだと一緒に行動し、その想いも分かっているから板挟みになっているのかもしれない。
別れを告げて乗船した。
港で手を振る一行に手を振り返し、船は静かに走り出し、やがてマルテに到着した。
と、降りる前に仮面を装着しておいた方がいいな。
俺たちは作業の邪魔にならないように船を降りると、そのまま町を出るため北門に足を向けた。
もう昼過ぎだが、このまま行けば今日中に山の麓まで行ける。
そこで一泊して、明日の朝一で山に登り始めるのが良いだろうと事前に話し合っていた。
するとその途中、思わぬ人に呼び止められた。
「ソ、ソラ君。ちょっと待ってくれ!」
必死の形相で走ってきたのは、マルテの錬金術ギルドのギルドマスターであるヤンだった。
「大丈夫か? というか俺たちは急ぐんだが?」
「あ、ああ。事情は前聞いた。って、違う、ボーゼンから連絡があったんだ。とりあえず君たちが前泊まった宿に急いでくれ!」
迷ったが、その必死な様子に押されて素直に従うことにした。
宿に近付くとヒカリがギュッと袖を握ってきた。
そして中に入ると、そこにはいるはずのない者たちがいた。
マジョリカで別れた冒険者のフレッドと、ゴブリンの嘆きの面々一行だった。
「お、ソラか! 良かった、連絡が行ってたようだな!」
俺に気付いたフレッドが大声を出すものだから、他の客も驚いている。
俺はむしろこんなに多く宿に人がいたことに驚いたけど。
「連絡ってのは何だ? それよりもプレケスに行ったんじゃなかったのか?」
「そうなんだがな。って、連絡が伝わってないのか? 詳しい話はあとで、とりあえず二階にレイラ様たちがいるんだ。ついて来てくれ」
レイラたちがいる?
訳が分からないが、とりあえずついて行くことにした。
連絡とか……何かトラブルがあったのか?
フレッドがノックをすれば、ドアが開いてルイルイが顔を出した。
ルイルイは一目俺を見ると、珍しく俺の手を取り部屋の中に引っ張っていく。
そして中に入った部屋には、ベッドの傍らで心配そうな顔を浮かべて、ベッドの中に眠るケーシーを眺めているレイラがいた。
「お姉様! ソラさんが来ました」
その言葉にレイラが顔を上げてこちらを見た。
レイラの目元には隈ができ、頬も少しこけているように見える。
その瞳にも会った当初にあった力強さが失われているように見えた。
「ソ、ソラ。ケーシーちゃんが……」
レイラの言葉にケーシーを鑑定した。
状態は前視た時と変わらないが、その外見は全体的にほっそりとしたからか小さく見える。顔も健康的とは言えないほどゲッソリとしている。
「日に日に弱っていって、もうどうしたらいいのかわからなくて……必要なもの手に入らないって聞きまして、それで……」
逐一状況をボーゼンに報告していたが、それがレイラの耳にも入ったんだろう。
「分かった。ケーシーは今寝たところか?」
「はいですの。少し前ですが……」
「分かった。とりあえず今は安定してるようだし無理に起こさない方がいいだろう。それとレイラも休んでおけ。そんな状態で看病されると、ケーシーだってゆっくり休めないと思うぞ」
少し冷たいが、このままじゃケーシーの前にレイラが駄目になりそうだ。
ヨルたちじゃ無理やりにってのは難しいか。
するとヒカリがレイラの手を引いて隣のベッドに誘導していった。
そのままベッドに横になれば、すぐに寝息をたてて眠ってしまった。
「お姉様もろくに寝てなくて……助かりました」
「ルイルイたちも交代で休んでおいた方がいいぞ。レイラほどじゃないけど、結構疲れが溜まってるだろう?」
その言葉にルイルイたち四人が顔を見合わせて静かに頷いた。
「とりあえずミアとセラで様子を見てやってくれ。それでケーシーが目を覚ましたら呼んでもらっていいか?」
さすがに俺が部屋にいたら落ち着いて休めないだろうからな。
いつものメンバーならもう慣れたみたいだけど、さすがにね。
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