第276話 閑話・12

「お父様どうしてですか? このまま月桂樹の実が採れなくなりますと、混乱が起きると思うのですが……」

「それは分かっておる。ただのう、ミノタウロスは厄介な魔物じゃ」

「……親衛隊でも無理なのでしょうか?」

「……被害は出るかもしれんのう」

「ならお父様ならどうなのですか? そもそもダンジョンの……」

「……少し待つが良い……」

「お父様……あの方からどんな話を聞いたのですか? お父様がおかしくなったのは、あの方と会ってからですよね? 急に討伐の中止を言ったのだって!」

「討伐を中止したのは親衛隊の力量を鑑みてじゃ。それと月桂樹に関しては、少し様子を見たいのじゃよ。少し近頃頼り過ぎておるし、実の品質にも影響が出ておるような気がするのでのう」

「……分かりました。お父様にしか分からないものがあると思うのでこれ以上は言いません。ただ、一人で何もかも抱え込まないでください。……お母様みたいに頼りにはなりませんが、私だってお父様の娘なのですから」

「うむ、その時は頼むとしよう。少し騒がしくなることがあるかもしれぬ。サークとサハナのことを気にしておいてくれ」

「忙しいと思いますが、それはお父様がすべきことですよ? あの二人も寂しがっていますから……」

「分かった分かった。本当にお主は……否、なんでもない。では今から二人と会って来るとするかのう」



「本気なのですか? あの方たちにミノタウロスの討伐を頼むというのは」

「うむ、何でも月桂樹の実を欲しているのじゃろう? なら己の力で採取させるべきじゃ」

「それなら親衛隊の誰かを……せめてアルフリーデの同行の許可をお願いします」

「それは駄目じゃ。あ奴にはここの守りを固めてもらいたいからのう。世界の情勢も不安定じゃ、何があってもいいように待機させておくべきじゃ」

「それはこの国に混乱が起こるということでしょうか?」

「ここは大丈夫じゃが、近隣の町は分からぬからのう。それにかつては他国の間者スパイがここに侵入しようとした過去もあるからのう」

「……分かりました。ですが一度お父様の目で見て、大丈夫かの確認をしてもらってもよいですか?」

「お主がそこまで気にするとは珍しいのう」

「……サーク君やサハナちゃんも気に入っているようですし。特にサーク君なんて気になる子がいるようですよ?」

「それは興味深い話じゃのう……分かった。一度様子を見て判断をくだそう。見て力がまったく足りない様なら止めるとしよう」

「まったくということはある程度力があればそのまま行かせるということですか?」

「それは仕方なかろう。何かを得るためには、何かを失う危険はつきものじゃ。そして本来なら、危険じゃからというてワシらが止めて良いことではないかもしれないからのう」

「…………」



「お父様良かったのですか? その……」

「うむ、また生えてくるしのう」

「いえ、そういうことではなくて……」

「冗談じゃよ。それに彼らには必要になるかもしれないからのう。それに下手な使い方をすまい」

「……お父様は何処まで解っているのですか?」

「何も解っておらんよ。所詮竜神なんて呼ばれていようとも、ワシもちっぽけな存在じゃ。ワシごときには、何も……」

「……そこまで自分を責めないでください。あれはお父様の責任では……」

「いや、ワシの責任じゃよ。お前たちから母親を奪ったのは、ワシの業じゃ」

「……そんなことはありません。お母様だってきっと……」

「そうじゃのう。あの者ならきっとそう言うじゃろうのう。じゃからワシはあの時から、傍観することに決めたのじゃよ。これ以上、この国の者から犠牲者が出ないようにのう」

「ですが……」

「うむ、今回は少し手を加えたのは否定せんよ。友人の頼みというのもあったが、あの子たちの手助けになればと思うてのう」

「……詳しくは説明してあげないのですか?」

「それを言うても仕方ないからのう。それにこれ以上の干渉は、あれに知られる危険があるからのう……それにしても、お主には珍しく色々と意見を言うが、気になる者でもおるのか?」

「…………」

「まぁ、良かろう。何にせよ、最早運命は変えられないのじゃから」

「それはどういう意味ですか?」

「八階への扉が開いたのじゃよ。聞いていなかったのか?」

「……はい」

「話には聞いていたのじゃがのう」

「それで牙をわざわざ渡したのですか?」

「そう言うことじゃ……彼らに幸あらんことを祈ろうじゃないか」



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