第274話 謁見・1
「えっ、ミノタウロスを討伐したのですか?」
戻って来てユイニに報告したら驚かれた。
証拠として月桂樹の実を渡したら「本当なんですね」と言ったきり黙ってしまったが、すぐに姿勢を正して頭を下げてきた。
「ミノタウロスの討伐ありがとうございました。アルテアの民を代表して、お礼をさせてください」
「こっちも必要だったしさ。ただそうだな……いくつか月桂樹の実を欲しいんだが、売ってくれないか?」
「? ミアさんにはお話しましたが、それはソラさんたちの物ですよ?」
目の前には五九個の月桂樹の実がある。
これを全部?
けど供給が止まっていて困っているとも言っていた。
確かにミノタウロスがいなくなれば親衛隊が採りに行けるかもしれないが……。
「なら私たちの分は買い取ってもらえませんか? すぐに回収出来ないかもしれませんし、私たちだと使い道がありませんから」
クリスの言葉に、ルリカとセラが頷いている。
ヒカリとミアの分は、奴隷の主である俺の分だということだろう。
「なら一〇個は何かで使うかもだからとっておいて、残りを買い取ってもらえるか?」
「……それは助かります」
相場よりも高い金額で買い取ってくれたようで、お金を受け取ったルリカたちは固まっていた。
「どうしたんだ?」
「金貨がこんなに……なんか金銭感覚が狂っちゃうよ」
ルリカがおっかなびっくりお金の詰まった袋を持っている。ダンジョンでもかなり稼いだと思うのだが?
大袈裟だ、と思ったが、確かに普通なら大金だよな。俺だって冒険者になった頃は、宿代を稼ぐためにコツコツと配達の依頼をたくさん受けていた。
……金銭感覚がおかしくなってきたのはポーションを売り始めた頃かな……。ま、あるに越したことはないか。
これで夢のマイホームを! と思ったが、一応マジョリカにあるにはあるな……。
「ユイニ……身分を買うことって出来るのか?」
「どうなんでしょう? 私も詳しくありませんし、今度文官に聞いておきましょうか?」
「いや、分からないならいいんだ」
それに時間を掛けるわけにはいかないしな。
「それでマルテに行く船なんだが、次はいつ出港するか分かるか?」
「お父様に聞いてみますね。ソラたちの事情はある程度聞いていますし。ただ、前回船を動かしてからまだ日が経っていませんから、少し待たせてしまうかもしれません」
ユイニは申し訳なさそうに言ってきたが、船を動かすにも準備は必要だしな。
船が動かない時は乗組員たちも別の仕事をしていると、宿の食堂に訪れていた船員から話を聞いた覚えがある。
「ではせっかくですので、どうやってミノタウロスを討伐したのか、お食事の時にでも話してくださいね」
ちなみにミノタウロスを討伐した時の話は、クリスの活躍を割愛して話した。
サークが物凄く食い気味に聞いていたのが強く印象に残った。
船が出航するのは三日後だという話を聞いた翌日。
謁見の間に通された。
最上階にあるその部屋は広大で、今目の前にはドラゴンが鎮座している。
ミアはそれを一目見ると袖をギュッと掴んできた。
俺も正直驚いた。
扉を開けたら黒い山があると思ったら、まさかのドラゴンだった。
「お父様。おふざけが過ぎますよ」
ユイニのその言葉で、ドラゴンは縮んでいきやがて人の姿になった。
「ふぉふぉふぉ。噂のパーティー一行の反応を見たくてのう」
その姿に見覚えがあった。
あれは親衛隊との訓練の時に見掛けたなかの一人だ。
「さて、ゆるりと話したいが……お主たちは席を外してくれんかのう」
その言葉に周囲にいる人たちが困った表情を浮かべる。
たぶん俺たちと少人数で話したいのだと思うが、それはどうなんだろう?
確かにミノタウロスの討伐に貢献し、ユイニたち王族ともある程度の交流はある。
それでも周囲の者たちからすれば、俺たちのことは得体の知れない者という認識に違いない。そんな者たちと少人数で会談するのは、心配されて当然かと思う。
「お主たちはわしがこの者たちに後れを取るとでも?」
王様の言葉に、家臣たちはさらに困っている。
「お父様。あまり困らせないでください。アルフリーデ、貴女が残ってください」
ユイニの言葉に、不承不承家臣の人たちはその部屋から出て行く。
中には疲れ果てたような感じの人もいたな。
きっと日々迷惑を掛けられているに違いない。それともミノタウロスが原因で心労が溜まっていたのだろうか?
「この度は、よくぞミノタウロスを討伐してくれた。改めて礼を言おう、ご苦労じゃった。余が竜王国国王、アルザハークじゃ。さて、お主たちはこれからどうするのじゃ?」
一瞬質問の意味が分からなかった。が、すぐに今やるべきことを答える。
「知り合いに治療薬を届けようと思っています。この国に来たのも、それが目的で来ましたので」
「なるほどのう。ではそれが終わったら行方不明のエルフを探すのかのう?」
その言葉に驚いた三人が息を呑んだ。
俺も正直驚いたが、耳に入っていてもおかしくないとも思った。
どちらかというと、何故そのようなことを聞いてくるのか。そちらの方が気になり、警戒した。
「なにのう、娘たちに色々旅の話をしてくれたようでのう。随分と楽しませてもらったようじゃ。サハナなんて楽しそうに話してきてのう。それで話を聞いていて、ふと思ったのじゃよ。お主たちがまだ訪れていない場所があったのう、と」
「そ、それは何処ですか!」
驚いたことに、その言葉に一番早く反応したのはルリカだった。
その横顔からは、焦りに似たものを強く感じた。
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