第271話 アルテアダンジョン・10
「主、本当にやるの?」
袖を引かれて、上目遣いに見てくるヒカリに心は痛んだが、決行した。
ミノタウロスは強い。それを倒すのに、犠牲なくしては進めない。
……結果。現在九体のうち三体を討伐出来た。
ここまでは順調だったが、仲間が減っているのを理解しているのか、近頃警戒心が上がっているようだ。
別の手を考える必要があるか?
「今日はステーキにしてみた」
もちろん材料はミノタウロスだ。
剣で斬りつけた時は外皮が硬かったのに、中身は柔らかくて美味しい。
それを頬張るヒカリからは不機嫌さがなくなり、満面の笑みを浮かべている。
一応ご機嫌取りのために料理をしたわけだが……良かった。
「次はどうするさ?」
「……セラは今までの戦った感じ、何体なら一緒に戦えそうだ?」
「防御に徹して二体かな。ソラはどうさ?」
「スキルを駆使して戦えば二体なら同時に狩ることが出来るかな?」
戦った感じ、確かに強いがゴンザほどじゃなかった。
あの一戦がなかったら、ここまでミノタウロスと戦えなかったかもしれない。
その言葉にセラは驚いた様子だったが、俺の持つ色々なスキルのことを思い出したのだろう、特に何か言ってくることはなかった。
それを踏まえてどうするか。
数は予定通り減らせた。
ブラドベアーの肉を餌に誘導することで。
魔物とはいえ食事は必要だ。ダンジョンの魔物も? と思ったが、観察していたら食べているのを確認した。
そこで色々と妨害工作をして兵糧攻めっぽいことをしたのだ。
ブラッドベアーの肉を楽しみにしていたヒカリは、凄く悲しんだがここは我慢してもらった。
その結果ここまでは順調に減らすことが出来たが、相手も徐々にその対策をしていたみたいで通用しなくなった。
気長に攻めればいずれは殲滅出来るだろうが、これ以上時間を掛けたくない。
月桂樹の実を手に入れても、目的が果たせなくなる可能性があるからだ。
あとはミノタウロスが増加するかもしれないという懸念。ダンジョンである以上、何が起こるか分からない。
それは他の面々も分かっているから、悩んでいる。
俺とセラで四体受け持っても、あと二体残っている。残りの四人で二体を受け持つとなると、突破される危険がある。
「ソラ、マナポーションはどれぐらい残っているの?」
「前の時に薬草をたくさん採取したから在庫は豊富だよ」
「……なら、少し試したいことがあるの。もう、あまり時間をかけられないよね?」
クリスの言葉に頷く。戻る時間を考えるとそれほど余裕がない。
それに石化治療薬を作る時間も必要だ。
「それは大丈夫なのか?」
クリスの提案に驚いた。
ルリカが不安そうにしている。
「昔試したことがあるから大丈夫、です。ただ魔力の消費が酷いから、マナポーションが必要なの」
精霊の同時召喚。それによって精霊魔法を二種類同時に行使出来る。
その分負担は大きいのだろう。
もしかしたらルリカはその時に一緒にいたのかもしれない。
そんなルリカにクリスは笑顔で話している。安心させようとしてるのかな?
とりあえず餌や囮でおびき寄せることが出来るか試したが、学習したのかそれに乗ってくることはなかった。
ならクリスの作戦で行くしかないか。
俺たちは隊列を組んでその身を晒した。
それでもミノタウロスは動かない。
三体を倒す前までは、面白いようにこちらの作戦通りに動いてくれたのに、今は月桂樹の木から離れようとしない。
まずはその位置から少しでも動かす必要がある。
クリスの魔法の威力が強いと、月桂樹の木も巻き込む可能性があるからだ。
とりあえず俺とヒカリが先行して攻撃を仕掛ける。
セラとルリカは万が一攻勢に出て来た時のための二人の護衛だ。ただこちらの動きを見て、少しずつ移動を開始している。
「ヒカリ援護を頼むな」
ヒカリが距離をとってナイフを投擲する。
まずは何の細工もしていないただのナイフだ。
ミノタウロスの皮膚を貫くことは出来ないから、注意を惹くようだ。
俺はその隙に間合いを詰めて斬りかかる。
一人に攻撃すればすぐに囲もうと移動を開始してきたから、囲まれないように離脱する。その際ヒカリからの援護が入って距離をとる。
すると少しだけミノタウロスの位置が変わる。
時々こん棒によって殴打される時があるが、ミアが継続的に唱えてくれるプロテクションに守られてダメージが殆ど入らない。痛覚軽減があるから、痛みを感じずそれが原因で動きが鈍ることもない。
ただミアからは気を付けるように心配されている。
痛みを感じないからといって、決してダメージが入ってないわけじゃないから。
事実俺はステータスパネルを表示させて、時々HPの確認をしている。
そうして少しずつ誘い込むことに成功し、ミノタウロスたちの背後にルリカたちが回り込んだ。
そこでクリスが精霊を呼べば、濃密な魔力が流れるのを肌に感じた。
ミノタウロスもそれを感じ取ったのか、一斉に振り返った。
本能が、危険を察知したのかもしれない。
そのうちの何体かが駆けようとしたが、そこに背後から奇襲を掛けた。
俺が魔力を流したミスリルの剣で斬りつければ、悲鳴を上げて地面に倒れ伏した。
悲鳴に驚き一体が振り返ったため、そのミノタウロスに向けてヒカリがナイフを投擲した。
そのナイフに対して、ミノタウロスは何の警戒もしないで振り払う。
しかしそのナイフには魔力が流されていて、今までのとは違う。さらに追加で爆発の魔法が付与されているから、刺さったと同時に轟音を上げて破裂した。
今度こそ全てのミノタウロスが振り返った。
そこに次はクリスの精霊魔法が発動しミノタウロスに向けて放たれた。
青と緑に染まった二つの魔力が、それぞれミノタウロスに直撃した。
魔法の直撃したミノタウロスの一体の上半身が吹き飛び、もう一体は体にポッカリと穴を開け絶命した。
これで半分になった。
それを見てセラが駆けだしこちらにやってくる。
俺も動揺の見えるミノタウロスに接近して攻撃を仕掛ける。
まずは最初の一体を時空魔法のタイムシフトを使って素早く倒す。
これでさらに数が減った。
あとは俺が一体を受け持ち、セラとヒカリが連携してもう一体を倒すと、あとは危なげなく最後の一体を討伐した。
それと同時に、ルリカの悲鳴が聞こえた。
見ればクリスが地面に倒れ、ミアがそれを抱きかかえていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます