第268話 アルテアダンジョン・7
一度戻って翌日に七階に行くことになったが、その場にドゥティーナの姿はなかった。
流石に危険と分かっている場所に同行してもらうのも悪いと思ったのもあるが、七階に関してはそれほど詳しくないというのもその理由だ。
だから予め七階に関する情報を教えてもらい、七階には俺たちパーティーメンバーの六人だけで行くことになった。
他人の目がなければ、ある程度無茶な戦い方が出来るかもと思ったのもある。
特にクリスが精霊魔法を使えると戦力がかなり上がるような気がする。
一応アステアに来てから仮面を外している俺とは違い、クリスは今も精霊魔法を常時使っていて変装している。
本当は俺も警戒した方がいいと思うが、仮面を付けて城内を歩くのもどうかと言われたからだ。あとは外からの人間が俺たち以外にいないからというのもあった。
「それじゃ俺が先に確認して来るから待っててくれ」
魔力を多めに使って結界術を自分に掛けた。
これで不意打ち対策も完璧だ。襲撃されたら即撤退すればいい。あとは並列思考を使っておけばいいだろう。
俺は階段の最後の段の上で一度足を止め、大きく息を吸い込んで一歩踏み込んだ。
途端に景色が変わり、草地が広がる。
見通しの良いそこには魔物が一体もおらず、気配察知で確認したが近場には何もいない。
少し距離の離れた森の中にはいるようだ。ミノタウロスは森の奥、月桂樹の木の近くだというから違うだろう。
そうなると今分かっているのは、タイガーウルフとブラッドベアーを確認したと言う話だったから、そのどちらかの可能性が高い。もちろん隅々まで調べた訳ではないようなので、別の何かがいるかもしれない。
俺はアイテムボックスからアイテムを取り出して、それを入口に放り投げた。
しばらくするとセラたちも七階に下りて来て合流した。
「魔物はいなかったのね」
「ああ、調べた限り近くにもいないようだ。ただあの森の中にはいるみたいだ」
ルリカも周囲を確認して、視界に魔物の影がないことを確認する。
「それじゃ月桂樹の木がある方に行くか」
真っ直ぐいくと八階へと続く門があるらしく、月桂樹の木は右側にあると教えてもらった。
森に近付けば、入口近辺は結構木が密集していて、体の大きな魔物だと自由に動けそうにない。
「もしかして木が密集していて外で出られないとか?」
「ん~、魔物によるけどその可能性はあるかもね。ただブラッドベアーあたりは木を破壊して出てくるなんて手段をとってもおかしくないからね」
パワーのある魔物だったか。ただ動きが比較的遅いから対処するのは簡単だ。
ただしっかりした武器がないと、その硬い毛で防がれるため倒すのが困難という実にちぐはぐした魔物だったりする。
魔法に弱いから、魔法使いがいると倒すのが楽という特徴もある。
森の中に生息しているから、火の魔法以外を求められるのが難点だったりするが。
「警戒しながら進もう。月桂樹の木に近付けば他の魔物を気にする必要がなくなると思うし」
魔物も縄張り意識は強い。よほど考えなしな魔物じゃない限りだ。
だから上位者であるミノタウロスのいる領域に近付けば、滅多に他の魔物は寄り付かないだろう。という話だ。
稀に手負いだったり空腹だったりと、追い詰められているとその限りではないが。
進む道は、やはり木の間隔が狭くて歩きにくい。
体の小さな人間なら通ることは出来るが、足元に張り巡らされた根っこが進行を妨げる。
避けて歩こうとしても足を引っ掛けそうになり、根っこを踏んで歩こうとしてもツルツルしていて滑りそうになる。木で体を支えながら、注意しないと正直危ない。
「こんなところで魔物に襲われたら……」
苦労して進むミアは、まだそれほど時間が経ってないのに汗を掻いている。
空を覆う葉っぱで日の光が射し込まないため少し肌寒いぐらいなのに暑いのかな?
他の面々を見れば、やはり額に汗を浮かべている。
「大丈夫さ。近くにはいないようだから」
セラの言葉に安心したのか、ミアがホッと息を吐く。
気配察知が出来ないと、大丈夫だと言っても不安なんだろう。特にここは陰になるところが多くて視界が悪く、周囲は木に囲まれているから余計に圧迫感のようなものを感じるのかもしれない。
「何処か休憩出来る場所があればいいんだけどな」
料理はアイテムボックスから出来合いのものを出して食べるしかないか。
といっても出来立ての状態のまま保存されているから、それでも問題ないだろう。
俺はMAPを確認して改めて魔物の位置を見る。
普通に見たら魔物の反応が現れないから、少し魔力を籠めてMAPを拡大する。
すると二つの反応があった。
こちらがミノタウロスの集団だとすると、こっちは何の魔物だ?
このまま進めば遭遇する。迂回すれば避けられると思うが、結構落ち着きなくMAP上で動いているのが見える。
「どうしたの?」
「このまま進むと魔物に会いそうなんだ。ただうろうろと動いているような感じなんだよ」
俺の様子が気になったのか、ルリカが聞いてきた。
「数はいくつ?」
「……近い方は二体だな。ミノタウロスの方は……大きな塊しかまだ見えてないな」
「まったく羨ましい
確かにルリカの言う通りだ。
ミノタウロスと戦う前に無駄な体力をわざわざ消耗する必要はない。未知の敵だから、万全の状態で挑みたい。
そう思うが、世の中はそんなに甘くないものだ。
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