第267話 アルテアダンジョン・6
あの後アルフリーデに手合わせをお願いしてみたが、やんわり断られて普通に他の隊員と戦って何事もなく終わった。終わってしまったとも言う。
「隊長に勝負を挑むなんて、ソラさん命知らずですね」
ダンジョンの案内をしてくれるドゥティーナが、再会して開口一番言ったのがその言葉だった。
軽く戦ってミノタウロスと戦えるかの確認をしたかったのが本音だが、無理ならとりあえずミノタウロスのレベルを確認してから考えればいいかと思い直した。
そう言えば昨日の訓練場に、一人だけ鑑定が出来ない者がいたが、次に気付いた時には既にいなくなっていたんだよな。
「六階は草原エリアと湖エリアに別れていて、湖にはリザードマンがいます。ただ私がいるから襲われることはないと思いますが!」
ドゥティーナの話だと、ここのリザードマンは竜の血を持つ者が近くにいると襲って来ないと言う。
なら何故そんな魔物がいるかと言うと、七階への侵入を防ぐために配置しているとのことだ。
それって人間を信用していないから? とは口が裂けても聞けなかった。
「それじゃ行きましょう!」
何か今日はドゥティーナのテンションが高いような気がする。
六階は話通り二つの領域で構成されているが、その殆どが水場になっているようだ。
MAPを確認すれば、魔物の反応がMAP上に表示されている。その中のいくつかの反応が結構近くにあるが、見回してもその姿を見ることが出来ない。
……水中にいるのか?
注意深く水面を見ると、わずかに波紋のような広がりが時々見える。
ドゥティーナを先頭に固まって歩いているが、何となく気分はハイキングといった感じか?
ルリカたちも一応は周囲を窺いながら歩いているが、リザードマンたちはドゥティーナの言葉通り一定の距離をとってついて来るが、その決められた範囲に踏み込んでくることはなかった。
それこそこちらが立ち止まれば相手も動きを止めて、まるで観察でもされているような感じを受ける。
そして相手もこちらが気付いていることは分かっているようで、ついには水面から時々顔を出し、視線が合ったりしたがそれを隠そうともしない。
まるで手は出せないが、見ているぞとでも主張しているような行動だ。
それは夜も変わらないようで、この階でも寝る時は交代で見張りをたてることにした。相手が魔物である以上、先入観を捨てて警戒していた方が良いと思ったからだ。
「確かに今までなかったのに、今回は襲われるなんてことがあるかもですしね」
そんな俺たちを見て、ドゥティーナは特に反対することなく一緒に見張りもしてくれた。
「それにこんなに美味しいものを食べさせてもらってるんですから、その分はしっかり働かせてもらいますよ!」
やはり俺の作る料理は珍しいようで、近頃では食事の時間が近付くとそわそわし始める。
特に食事のことでヒカリとは仲良くなったようで、休憩中にヒカリに色々と質問している。
作り方を聞いているというよりも、今までどんな料理を食べてきたかを質問しているようで、一度なんてドゥティーナから料理のリクエストをもらった。
ヒカリの話を聞いて、どうしても食べたくなったと懇願された。
それを食べたドゥティーナは、何か物凄く感動しているようだったのが、印象的で良く覚えている。
「ここを越えたら六階は終わりになります」
目の前には小さな島があり、その先に階段があるそうだ。
確かに遠目に洞穴のようなものが見える。
島には板の橋を渡って行けるようだが、周囲には無数のリザードマンの反応がある。もちろん水の中に沈んでいるから、その姿は見えない。
ここで一斉に襲われたらひとたまりもないなと心配する俺を他所に、ドゥティーナはずんずん進んで行く。
慌てて追い掛けて橋を踏み締めれば、頑丈なのかビクともしない。
周囲の湖を覗き込めば、澄んでいるから底まで見通せる。見た感じ、深さはそれほどでもないようで、橋の周囲は膝下ぐらいの浅さだ。
もっとも足がつくといっても、行動が阻害されることは間違いないから落ちるわけにはいかない。
だから一応何があってもいいように、皆に結界を付与するのも忘れない。
そんな俺の心配を他所に、何事もなく橋を渡り終えて無事に六階を踏破することが出来た。
「いよいよ七階か……」
この先に月桂樹の実があると思うと、このまま突き進みたくなる。
だが一度心を落ち着ける。焦りは禁物だ。
ただ七階がどうなっているか確認はしておきたい。可能ならミノタウロスを鑑定したいところだ。
「七階はいきなり入ったところで魔物に襲われるようなところか?」
「私が来た時はそんなことはなかったですが、先輩の話によると稀にあるそうです」
迷うところだが……今回は止めておくか。
階を跨ぐ際のリスクはどうしても避けられないが、今回大丈夫だとしても次回来る時も同じように大丈夫だとは限らないのだから。
それなら冒す危険は一度で十分だ。
「それじゃ一度戻るか」
俺の言葉に、他の面々も頷きダンジョンを後にした。
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