第266話 アルテア・9
朝起きたら、親衛隊が訓練するという広場に案内された。
既に武装した面々が揃っていて、俺たちが中に入って行くと一斉に視線を向けられた。
その中には煌びやかな衣装を着た数名の者もいる。アルフリーデと何事か話しているが、見学者かな?
訓練は準備運動から始まり、色々な武器を使っての訓練を行っている。
一応メイン武器はあるようだが、魔物によって武器を使い分けているらしい。
器用貧乏にならないかと思うが、親衛隊は竜の血を受け継いでいる者しかならないため、長命のためそのようなことが出来るとのことだ。
確かに人よりも何倍も生きられるなら、そのような訓練をしても良いのかもしれない。
剣、槍はもちろん、弓の扱い方までするのか。
ちなみに弓をはじめて扱ったが、人並以上に的に当てることが出来た。投擲・射撃スキルによる恩恵だろう。
あとは仲間内ではヒカリとクリスがそれなりに使えて、セラが一番駄目だったのがちょっと意外だった。
一通りの基礎的な訓練を行い、休憩したら幾つかのグループに分かれて模擬戦をはじめることになった。
「ヒカリ、勝負だ!」
声に振り返ればそこにはサークがいた。
あれから大した時間が経ってないのに懲りずにヒカリに挑戦するようだ。
無謀とも思えるが、諦めないで挑むその姿には好感が持てる。
剣を持ち始めた頃に、何度もルリカに挑んで返り討ちになった自分の姿と重なったのはある意味仕方がないと思う。
ヒカリは一瞬迷惑そうな顔をしたが、すぐにいつもの無表情に戻り短めの木刀を構えた。
それを受けてサークも剣を構える。
そこにアルフリーデが審判を名乗り出て、模擬戦が開始された。
サークが戦っているからか、それともアルフリーデが審判を買って出たからなのか、他で戦おうとしていた者たちも動きを止めて注目している。
サークは俺と戦った時と違い、剣先がぶれることなく綺麗な太刀筋でヒカリに斬り掛かっている。あれは何だったんだろう?
「驚いてる? ソラと戦った時は、ぶれっぶれだったからね」
「そうさね。あの時は力が入ってる感じだったさ」
ルリカの言葉を受けてセラがサークの動きに対して説明してきた。
「きっとあの時は、ソラに嫉妬してたんだと思う」
とはミアの言葉。少し肩で息をしているが、さすがにミアにはこの訓練は辛いものだったようだ。クリスも額に玉のような汗を浮かべているし。
そんな中二人は良い勝負をしている。
ギルドでの戦いを聞いた限りだとヒカリの圧勝だったようだが、サークはここぞという時に防御を固めて致命的な攻撃を受け流している。
「ここ数日、お兄様は親衛隊の方たちから色々とアドバイスをもらったり、訓練に参加したりと真剣に過ごしてたんですよ。あとは隠れてダンジョンに行って、魔物を狩ったりもしてましたわ」
いつの間にかサハナが隣に立っていた。
ちょっと驚いた。チラリと横を見ると、サークの戦いを真剣な面持ちで見ている。
普段からその感じでサークと接してやればと思うが、素直になれない何かが兄妹の間にはあるのかもしれない。俺は一人っ子だからその辺りの事情が分からないな。
やがて模擬戦にしては長い一戦は、最終的に一瞬の隙を突いたヒカリの勝利で終わった。
「経験の差か、集中力が切れたところをヒカリちゃんが上手く立ち回った感じだね」
ルリカの言葉に確かにと思った。
激しい動きで呼吸を整えるために大きく息を吸った瞬間、さらに攻撃のギアを上げたヒカリの動きに付いて行けなかった感じか。
ただ今回はかけ引きというよりも体力の差が勝負を決めたのかもしれない。
そもそも模擬戦で、体感的に二〇分間も同じ人と戦うこと自体がないしな。それを考えると、俺からしたらサークはかなり善戦したと思う。
俺なんて最初の頃は……うん、悲しくなるからこれ以上考えるのは止めよう。
「やっぱり数日では大した成長は出来ませんでしたね」
「そんなことないさ。良く頑張ったと思うぞ。それに見てみなよあの表情、本人としては満足したようだぞ」
ため息を吐くサハナに、大の字で倒れていた立ち上がったサークを良く見るように促す。
その表情からは悔しさもあるが、何か手応えを感じたような満足感のようなものが見て取れる。
審判をしていたアルフリーデも褒めているのか、その言葉を受けて満面の笑みを浮かべている。
正直会ってからはムッとした顔しか見てなかったから、ある意味新鮮に感じた。
サハナもその様子を見て、口元に笑みを浮かべたがすぐにそれも消えた。
「まぁ、お兄様も今回は頑張ったと思いますよ。出来ればご褒美にヒカリさんとのデートを認めてもらえると妹としては嬉しいかもですね」
「その点はヒカリ次第かな? ただな……」
サハナの言うデートがどんな感じか分からないが、ここアルテアでは難しいような気がする。
せめて屋台とかあれば違っただろうがな……って、ヒカリと二人で出掛けると飲食店率が高いから思考がそっち方向に引っ張られるな。
「せめて料理が出来れば違うんだろうけどな」
俺の言葉に、サハナが呆気にとられたようにこちらを見てきた。
それは本当に、初めてサハナの素の表情を見たような感じで、少し笑いそうになってしまった。
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