第264話 アルテア・7

 何度か魔物と遭遇して戦闘を繰り返したが、出発してから二日後の夜に無事六階へ降りることが出来た。


「この時間ですと、街への門が閉じていますね」


 ドゥティーナはそう言うが、流石にこのまま進むのもどうかと思い悩む。


「良かったら兵士が泊まる宿舎に行きますか?」

「余所者である俺たちが行っても大丈夫なのか?」

「理由を話せば多分大丈夫だと思いますが……」


 そこで言い切れないのは自信がないからなんだろうな。

 無理ならダンジョンに戻って野営すればいいか。それに聞くだけはタダだしな。

 ドゥティーナの先導のもと宿舎に向かうと、その途中でばったりユイニと会った。

 城内とはいえ、こんな時間に一人で出歩いて大丈夫なのだろうか?


「皆さん今お帰りですか?」

「は、はい。姫様。それでこの時間だと門はもう閉じているので、彼らを宿舎に泊めてもらえないか聞きに行くところです」


 ドゥティーナの声から緊張していることが分かる。王女と話すんだから、これが普通なんだろうな。


「確かにこの時間ですと外には出られないかもしれませんね……なら私の方で部屋を用意しますので、そちらに泊ってもらいましょう」

「い、いいのですか?」

「はい、食事はどうしましたか? ……ならそちらの準備も致しますね」

「それこそいいのか? 余所者を簡単に泊めて」


 警戒してないのか、それとも世間知らずなだけなのか。ユイニの提案に面食らう。


「大丈夫です。父上、王の許可は得ていますから。それでは案内するのでついて来てください」


 ドゥティーナは流石に遠慮したため、ここで別れた。

 ユイニは軽い足取りで階段を上り、やがて客間のある部屋へと案内した。


「本来なら食堂で食べてもらうのが良いのですが、今日は部屋の方で食事になりますが良いですか?」

「ああ、それは全然構わないよ」


 途中でメイドさんに何事か話していたから、既に手配は済ませてあるのだろう。


「食事が出来るまで時間があります。良かったらその間、ダンジョンのこととかお話してもらっても良いですか? あ、だけどサーク君やサハナちゃんも呼んでますから、お話は二人が来てからでも良いですか?」


 ユイニの声は心なしか弾んでいるように聞こえる。

 やがて少し緊張した面持ちのサークと、それを面白そうに見ているサハナが部屋に入って来た。


「今日は皆さんこちらに泊まるのですか?」

「ああ、どうやらそうなったらしい」

「なら色々お話を聞きたいですわ」


 ユイニ以上に、サハナのテンションが高い。サークも遠慮がちに頷いている。

 三人は生まれてこの方、アステアから外に出たことがないということで、出来れば外のことを話して欲しいと頼まれた。

 なので食事の準備が出来るまで、今までのことを話して聞かせた。

 まずはルリカが旅をして回って見たことを面白可笑しく話している。少し脚色があるようで、時々クリスが呆れた様子でその横顔を眺めている。

 それでも三人は耳を傾け、その話に聞き入っている。セラも、ちょっと興味深そうにその話を聞いているな。

 やがてルリカの話が一段落したところで、タイミング良く食事の準備が出来たらしく、料理が運ばれてきた。

 ユイニたちの前にも用意されているところを見ると、彼女たちも今から食事をするようだ。


「俺たちと食事を摂って大丈夫なのか?」


 暗に王様と食べなくて良いのか聞いたら、ユイニには分かったようで大丈夫という返事が返ってきた。


「それではいただきます」


 ユイニのその発した言葉に一瞬驚いたが、直ぐに表情を戻して食べはじめた。

 食材は普段食べ慣れているオーク肉などが使われているようで、口にするといつもの味……とはいかないか。


「これなら主の料理の方が美味しい」


 思わずといった感じでヒカリが呟いた。


「そうなのですか?」

「うん」


 驚くユイニの言葉に、ヒカリは何気ない感じで頷く。

 その様にサークが信じられないものを見たといった感じで驚き、俺の方を見てくる。

 俺は苦笑し、説明することにした。


「単純に味付けの問題だと思う。俺たちは体を良く動かしたあとは、塩分を摂るために少し濃いめの味にすることが多いんだ。それでちょっと薄く感じるんだと思う」


 食べていて物足りなさを感じた理由はたぶんそこだろう。

 あとは料理スキル分の補正もかかっているかもしれない。

 他に考えられる理由があるとしたら、元の世界の料理に対する知識だろう。うろ覚えで作っていたが、珍しい料理であることに変わりない。実際ヒカリ以外にも好評だったし。


「そうなのですね。それは一度是非ご馳走してもらいたいですね」


 ユイニの言葉にサハナは頷いているが、サークは少し複雑そうな表情を浮かべている。

 俺のことを話すヒカリを見て、何か思うところがあるのかもしれない。


「けどこういう優しい味は私は好きですよ」


 ミアがスープを飲みながら言った。

 確かに健康的にはこっちの方が本当は良いのかもしれない。特に王族となれば、健康管理にも気を遣わないといけないだろうし、料理人は試行錯誤しながらメニューを考えているんだろうな。

 俺の場合は美味しさ優先で、好き勝手作っているだけだから。その差も出ているような気がする。


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