第263話 アルテアダンジョン・5
「大丈夫だったか?」
振り返り尋ねると、クリスはコクリと頷いた。
「うん、衝撃も何も感じませんでしたよ」
「そうか。魔力の方はどうだった?」
「腕輪に予め溜めておいた魔力を全部消費してます。あと、今もまだシールドが発動しているようです」
クリスの言葉に魔力察知で魔力を探れば、確かにまだ見えないシールドが展開されている。
手を伸ばせば、確かに魔力の層の様なものがあるのが分かる。
俺の手は一番強いところ、たぶんシールドとなっている境界線も普通に通過するが、これは何をもって防ぐべきものかどうかを判断しているかは今もって謎だ。
付与する時は一応発動条件とかを考えているけど、やはりそれもどのようにして判断されているかは謎といえば謎か……深く考えても仕方ないか。
「主、収納して」
考え事をしていて動きが止まっていたようだ。
ヒカリに促されてブラッドスネイク二体をアイテムボックスに仕舞う。
「いつ血抜きする?」
ブラッドスネイクを食べたいということかな? 確かに近頃在庫がなくなっていたから食べてなかったけど。
「……寝る前に血抜きするか?」
「……うん」
間があったのはすぐに食べたいからかもしれないが、流石に今から血抜きはじめると移動出来なくなるからな。
それが分かっているからヒカリも我慢してるのだろう。
移動を再開して昼食を挟み。その後オークと二度ほど遭遇した。
やはり全体的にメンバーのレベルが上がっているからか、大して苦戦せずに倒すことが出来ている。実際鑑定をすれば、セラとヒカリを除いた三人のレベルは、マジョリカでダンジョンに入る前と比べて二倍近くに上がっている。
ふと今イグニスと対峙した場合、俺はどう感じるかと思ったが、強さを得た今でも敵いそうにないとすぐに思い直した。
それほどあの時イグニスから感じた強さは圧倒的で、たぶん心の奥底にまであの時感じたものが刻まれているような気がする。
「強さだけでなく、料理も出来るなんて……」
お昼はお弁当だったが、流石に夜の分はないから料理の準備をした。
ドゥティーナに言われて荷物を渡したら保存食を取り出していたから、料理を作るからとそれは仕舞ってもらった。
そして料理を準備し始めると驚かれ、さらにそれを食べて驚いている。
「せっかく食べるなら美味しい方がいいからな」
「それはそうですが……拠点がある場所ならまだ分かりますが、こんな何もない場所で料理とか信じられません」
手間なのは否定しない。しっかりした料理をするとなると材料も機材も荷物になるからそれは仕方ない。
実際俺もアイテムボックスがなければ、まず減らすのはその辺りだったかもしれない。いや、俺の場合は荷物が多くても疲れないから、結局は今と変わらないか。
その後ヒカリとドゥティーナはお代わりをして、食事が終わったら野営の準備をすることにした。
気候的に今の時期はそれほど寒くならないということなので、今回はシーツを敷いてローブを羽織って寝ることにした。
家は……ドゥティーナがいたから今回は自重した。
結界魔法である程度防げるが、それを突破されると破壊されるからな。もっとも一番の理由は、時空魔法の熟練度上げのためにMPをそちらに使いたいというのがあった。
燃費は悪いが、盗賊討伐の時にも活躍したし、性能が破格なのは間違いないからだ。
見張りは交代でするということで、三組に別れた。
俺は今回はミアとドゥティーナと組んで最後の組になった。
これは朝食の準備をよろしくということですよね?
一応寝る前に魔法でもう一度臭いを上空に吹き飛ばし、セラにアイテム袋を渡した。血抜きが終わっていたら回収したのだが、まだ終わってないようなので後は頼んでおいた。
夜は普通に休み、一度も起こされることなく見張りの時間がやってきた。
その際ヒカリからアイテム袋を受け取り、血抜きの終わったブラッドスネイクをアイテムボックスに移したが、何キロか解体されたブロックがあった。
ヒカリを見るとばつが悪いのか視線を逸らされた。
まぁ、見張りの時間に解体してたわけだからな。
「まったく仕方ないな」
と、頭をわしゃわしゃと撫でると、ヒカリは「ごめんなさい」と謝ってきた。
その後三人で見張りを行ったが、MAP上の離れた位置に反応はあるが、魔物も休んでいるのか動きはない。
「さっきヒカリちゃんが謝っていたようだけど、何かあったの?」
「ああ、見張り中に解体してたみたいでな」
それだけでミアには通じたようだ。
ドゥティーナは首を傾げているが。
「我慢出来なかったんだ。それだけヒカリちゃんは楽しみにしてたんですね」
「ブラッドスネイクの肉は何だかんだと美味しいからな。少し朝の料理で使うことにするよ」
「それは楽しみです」
ミアがドゥティーナに経緯を説明したが、あまりピンときてないようだ。
多分ドゥティーナからしたら、それ程珍しい食材じゃないからなんだろうな。
やがて徐々に明るくなってきたとこで朝食の準備を始めると、休んでいた四人が匂いに釣られたのか目を覚まして起きてきた。
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