第262話 アルテアダンジョン・4

 真っ直ぐ進めば階段への最短距離を進むことが出来るが、森の中を迷うことなく進むことは難しい。本来なら。

 俺はMAP機能を使い、その常識をぶち壊す。

 なんて格好良く言ってみたが、時間が惜しいからというのが本音だ。

 なので今回先頭を歩くのは俺とヒカリの二人。森といっても、そんなに木が密集されていないというのもある。特に人が良く行き来するのか、結構枝葉の先端が折られているのも目に付く。もちろん時間が経てば木も成長していくから、所々邪魔なやつは取り除いている。


「あまり魔物が多くないな」

「うん、近くにいない」


 俺の言葉を受けてヒカリも頷く。

 あくまで進行方向にはいないといった意味だ。

 道を外れれば遭遇しそうだが、わざわざこちらから近付く必要もないだろう。

 あとは鑑定を使えばそこかしこにキノコや木の実などの反応があるから、むしろそちらの方が気になる。

 ヒカリも時々視線がそちらに向かっているような気がする。キノコは毒がなければ、焼いて食べて良し、出汁として使って良しの万能食材だからな。そう、毒がなければ。

 体感的には二時間ほど歩いて、一度休憩を入れた。この間魔物とは階に踏み入れた時の戦闘以外では戦っていない。


「魔物と会わないなんて運が良いですね」


 とはドゥティーナの言葉だ。


「ここではキノコとかの食材を採取したりもしてるのか?」


 そんなドゥティーナに尋ねたら、採る人もいると言う。


「ただ余裕がある人だけですね。いつ魔物が出てもおかしくない環境ですから、そちらの方に神経を傾けているみたいですから」


 余裕がある人=気配察知系のスキルを持った者といった感じだろうか?

 確かに魔物に警戒しながら歩くと、他に気を遣う余裕はなくなるか。

 それに進む場所次第では、木の根や枝が邪魔になるだろうしな。もっとも視界が悪い場所を歩くとは考えられないけど。


「ここで魔物を狩ってる人たちは、どんな狩り方をしてるんだ?」

「色々ですね。純粋に魔物を探すために森を歩く人もいれば、罠を仕掛けて狩る人もいます。場所によってすみ分けているみたいですね」


 色々話したからだろうか、会った時と比べてだいぶくだけた感じでドゥティーナとは話すことが出来るようになった。


「確かに何も知らない人が罠を設置してる場所に足を踏み入れたら危険だしな。っていうか、今進んでいるところは大丈夫なのか?」

「はい、基本罠は砦周辺に仕掛ける場合が多いですから。あとはある程度魔物にも縄張りがあるみたいで、例えばオークとブラッドスネイクに同時に遭遇することはあまりなかったりします」

「あまりってことは、絶対ないってことじゃないんだよね?」


 ルリカが果実水を一口飲みながら尋ねた。


「はい、極まれに迷い込むものがいるようです。ただここで狩ってる人たちは、狩場を交代で回っているので、それぞれの魔物と戦った経験を持っているので対応出来るようになっているので大丈夫なんですよ」

「それはドゥティーナたちもなのかい?」

「もちろん私たちも魔物と戦う訓練はしてます。冒険者の皆さんとも連携を取れるようにと合同練習をする時があるんですよ」


 セラの質問に、合同練習は色々と大変だと愚痴を言い始めた。

 やっぱそこは冒険者と兵士の差だな、と話の内容を聞きながら思った。


「それじゃ出発するか。そろそろ魔物と遭遇するかもだし、準備だけは忘れずにな」


 俺の言葉に、ドゥティーナ以外の面々が頷く。ルリカとヒカリ辺りは、既に気付いていたようだけど。

 それからしばらく進むと、ブラッドスネイクを発見した。

 ヒカリがそれを見てかなり目を輝かせている。うん、落ち着こうな。


「二体いるね。どうする?」


 まだ少し離れているからか、相手はこちらに気付いていないようだ。

 ルリカの問いは連携して戦うか単独で戦うかを問うているのだろう。


「ブラッドスネイクですか……」


 ドゥティーナはそれを見て顔を顰めている。苦手なのかな?


「とりあえず魔法で牽制して、囮をたてて背後から奇襲するのが安全かな?」


 たぶん、セラとヒカリなら単騎で行っても問題なく倒せるだろうけど。


「それが一番安全かもさ」

「なら俺とセラで引き付けるから、足の速いヒカリとルリカで攻撃するか?」

「あ、あの。その囮ですが、私がやってもいいですか?」


 作戦の相談をしていたら、突然クリスが囮役をやると言い出した。


「そ、その。性能を試して見たくて……」


 クリスが腕輪に触れながら言ってきた。

 確かに模擬戦で少し試したことはあるが、実戦で使ったことはない。


「……なら俺と一緒に囮で行くのはクリスで。シールドを張れる範囲は狭いから、出来るだけ俺から離れないように。それで俺の前にシールドを張ってくれたらいいかな?」


 最悪ブラッドスネイクの体当たりを受けても俺なら耐えられると思うし、クリスを身を持って守ることは出来るはずだ。


「そうね。ならそれで行きましょう」


 珍しくルリカが賛成に回ったと思ったら、


「ただ……クリスを傷物にしたら許さないからね」


 と、すれ違い様俺の耳元で囁いてヒカリと共に森の中に消えて行った。


「それじゃミア、合図をしたらホーリーアローを一発撃ってもらっていいか?」


 俺の言葉にミアが頷き、やがてヒカリとルリカが配置に付いたのをMAPで確認してから攻撃してもらった。

 もちろん放たれたホーリーアローはそのうちの一体に当ったが、威力を抑えていたからか衝撃で少し吹き飛ばす程度だった。


「行くぞ」


 俺はそれと同時に木の陰から飛び出て、ブラッドスネイクの前にその身を晒した。

 ブラッドスネイクはすぐに俺たちに気付き、攻撃されたことに怒っているのか声を上げながら物凄い速度で向かって来る。

 一瞬シールドを張ってその勢いを殺せるか不安に思ったが、効果としては空間魔法の結界術と同じはずだから大丈夫なはずだと思うことにした。

 もちろん何かあっても良いように直ぐに動ける準備だけはしておく。

 そして攻撃の間合いに入ったのか、ブラッドスネイクは口を大きく開いて俺を噛み殺そうと襲い掛かり、その直前で壁にぶつかったように動きを止めた。

 さらに遅れてやってきたもう一体のブラッドスネイクが死角から襲い掛かって来たが、そいつも同じように動きを止めたかと思ったら、そちらは反動なのか後方に身を反らした。

 もしこの時にブラッドスネイクの意識を読むことが出来たら、何故? と思っていたに違いない。実際その二体の顔は、驚いているように見えた。

 ただ次の瞬間には、その表情は見えなくなっていた。

 気配を殺し、後方から近付いて来ていたヒカリとルリカの手によって、一刀のもと首を刈られたからだ。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る