第261話 アルテアダンジョン・3

 翌日は冒険者と共にダンジョンに向かった。

 きっかけはダンジョン内で活動しているところを宿で食事を摂っている冒険者に目撃されていて、昨夜仲良くなったからだ。

 それで外の、他の国の話を色々と質問されて、その話で盛り上がったというのもある。

 元々アルテアで生まれた者が多いというのもあるが、やはり外の世界に興味を持つ者が少なからずいるようだ。実際何人かは、外の世界が見たいとアルテアを旅立つ者もいるという。

 ただ決まりとして、出るのは楽だが、戻るのは大変だそうで。一度この街を去ったら二度と戻れない覚悟をするようにと言われているそうだ。

 だから少し心配になって宿にいた冒険者に、


「今の話を聞いて、アルテアから出たいと思ったか?」


 と聞いたら、否定された。

 変わらない生活だが、今を壊してまで外に出ようとは思わないそうだ。

 実際のところ、生活自体は小さな町や村の人とそう変わらない。

 ただ違う点は、何かあった場合の保障がしっかりされていることらしい。病気に掛かったり、怪我をして活動が出来なくなっても、そのところは手厚く保障されている。

 これが普通の冒険者だったら、怪我をして活動出来ない期間は収入がなくなり、最悪借金奴隷となることだってある。

 そういうことを奴隷だった人たちから聞かされるためか、余程のことがない限りやはり外には出たいとは思えないということだった。


「その気持ち、正直分かるかな」

「うん、そうだね」


 ルリカとクリスはその理由を聞いて同意するように頷いていた。


「私たちだってあんなことがなければ、今も町で静かに暮らしていたと思うから」


 危険の多いこの世界。ルリカたちのように進んで危険な生活を選ぶ人は少ないという。

 もちろん単純に憧れがあって冒険者などを目指す者もいるが、だいたい町や村を出る人には切迫した事情がある場合が多いそうだ。

 だから戦争に巻き込まれて、もしセラやエリスが行方不明になっていないで無事四人で逃げることが出来ていたら、きっと今も町で暮らしていたんじゃないかと言う。  

 それだけ四人の絆は特別だったということか?


「確かに分かるな~。私も聖女になんてなってなかったら、今も村にいて、誰かと一緒になっていたかもだから」


 思わず呟いた言葉だったのだろう。

 ただその言葉に一斉に視線が向けられて、自分の言ったことを思い出したのか顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 時々ちらちらと顔を上げて俺を見てくるのは何故だ?

 分からないといった感じで首を傾けていたら、セラにため息を吐かれた。



「それでドゥティーナは今日も同行してくれるのか?」


 順番待ちをしていたところに、荷物を背負ったドゥティーナがやってきた。


「はい、隊長から命じられました。よろしくお願いします。ですが……その皆さんはそんな軽装で行くのですか?」


 武器とポーチ以外は皆荷物を持っていないからな。傍から見れば野営の準備を何一つしていないように見えるだろう。


「俺が……収納魔法を使えるからな。っていうか、昨日ウルフを回収したところを見ていたと思うんだが?」


 特に質問もなかったから説明をしてなかったが。

 その言葉を聞いてアッと言ってますね。


「その荷物持とうか?」


 結構大きなバックパックを背負ってるからな。

 草原なら邪魔にならないが、森の中を歩くのにはちょっと邪魔になると思う。

 違うな。歩くだけなら問題ないが、戦闘になると邪魔になりそうと言うのが正しいな。

 ドゥティーナは俺の提案に、迷った挙句預けてきた。

 森がどんな感じか分からないが、流石に動きにくいと判断したようだ。


「それじゃ行くか」


 支柱に手を添えると、何階に行きますか? という表示が出てきた。

 選択できる階層は二階から五階まで。ここで選択した階の入り口に飛べるということか。

 五階を選択すれば、僅かな浮遊感を感じた次の瞬間には景色が変わっていた。

 周囲には荷物を確認している冒険者が多数いて、その中には見知った者もいる。

 手を上げて挨拶をしてきたからこちらも手を上げて応えた。ちょっと離れているから、わざわざ挨拶に行くのも大変そうだから、そのまま階段へと向かう。


「ま、待って下さい。一番に行くのは、ちょっとその、危険かもしれません」


 魔物は階段を上って来ることはないが、入口に溜まっていることが時々あるとのことだ。

 誰も先に行かないのはそんな危険があるからか?

 実際気配察知を使っても、ここからだと五階の反応を拾うことが出来ない。

 とはいえここで時間を潰すのもな。結界術を俺とセラに使って、一歩フィールドへと踏み出した。

 すると表示されたMAP上に魔物が表示された。


「数体近くにいるみたいだな。狩ってから進むか?」


 俺の問い掛けに、後から付いて来たルリカたちから賛成の声が上がる。


「ヒカリちゃんは昨日ウルフを一人で倒したから、ここは私たちに任せてね」


 ということで、ルリカを先頭に俺とセラが続き、森の中に入って行く。

 ドゥティーナがそれを見て慌てて追い掛けてきたが、追い付いた頃には戦闘が始まっていた。

 魔物もこちらの存在に気付いていたようで、こちらに寄って来たからだ。

 魔物の数はオークが五体。

 接敵と同時にルリカが素早く一体を仕留めたから、残り四体。

 一人一体を相手にすることになった。

 俺はオークの一撃を受け止めて、感触を確かめる。

 やはり最初に戦った頃と比べて、こちらのレベルが上がっているからか剣による攻撃を受け止めても衝撃を殆ど感じない。

 力任せに剣を弾いたら、魔力も流さないでそのまま斬りつければ、何の抵抗もなく剣は肉を、骨を裂いていった。

 周囲を見回せば、既に他の人の戦闘も終わっている。


「皆さんも強いんですね」


 と、逆にドゥティーナには驚かれたが。

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