第260話 アルテアダンジョン・2
階段を繋ぐ踊り場のようなところで階層の登録を行い、そして四階へと足を踏み入れた。
四階と五階のフィールドは四階は草原に近い環境で、五階は森になっているようだ。
魔物の数は五階の方が多くて、オークなどはこの階にしか出ないそうだ。
四階は慣れない冒険者が魔物と戦うための訓練用のフィールドの意味合いが強いらしい。
「不思議なところですね」
話しを聞いていたクリスが思わず呟いた。
その言葉にセラとルリカも頷いている。
「なんでそう思うんだ?」
俺からしたらダンジョン自体が不思議な場所だから、それは当然と思う訳なのだが。
「いえ、ダンジョンの環境が、ここの人たちに都合が良いようになっているようなので……」
そう言われて改めて考えると、確かに人に易しい環境になっているような気がする。
農業の出来る環境に食料に適した魔物が出るフィールド。考えれば考えるほどここの人たちに必要な要素が盛り込まれている。
そんなことを考えながら歩いていると、ウルフが数体現れた。
あちらもこちらのことに気付いているようで、接近してくる。
「ウルフです。下がって……」
ドゥティーナが一歩前に出て武器を構えたが、その傍らを一陣の風となって駆けていったのはヒカリ。
ヒカリは瞬く間にウルフに接近すると、一撃のもとに倒してしまった。
その姿に俺たちはヒカリの実力なら当然といった感じだったが、ドゥティーナが大層驚いていた。
「つ、強いのですね」
ウルフの死体を前にして、そう言うのが精一杯だったようだ。
俺はウルフの死体をとりあえず回収し、先を促した。
ここのダンジョンは迷宮型と違って、階段の位置が固定されているみたいだから、道に迷うことはないようだ。
一応万が一迷子になった場合に備えて、要所要所に目印となる柱が設置されている。
その柱には看板が取り付けられていて、何々の階段はあちらみたいな文言が刻まれている。
またMAPを使って周囲の確認をすれば、数人で固まって移動する複数のパーティーが確認出来る。
「あ、食事はどうしますか? 五階から一気に空間が広がるので、次の階段に行くまでに結構な時間が掛かりますが」
「一応弁当を持ってきてるからここで食べても構わないが、ドゥティーナは持ってないよな?」
五階へと続く踊り場に到着した時に、ドゥティーナから進言があった。
確かに下に行くほど徐々に広くなっているようだ。
なら一度戻って食事をした方がいいか? 何だかんだと歩き続けているし、そろそろ休憩をした方がいい。
むしろ物珍しさのあまり、休憩するのを忘れて歩き続けてしまった。
クリスたちに大丈夫かと尋ねたら、大丈夫だと言う返事を聞いてホッとした。
そんなやりとりをしていると、ドゥティーナからも謝られてしまった。
食事は一度地上に戻り、そこでドゥティーナたちが利用している食堂のようなところで一緒に食事を摂った。
時間が既に過ぎていたからか、食堂を利用する人が少なく落ち着いて食事を摂ることが出来た。どうも物珍しいからか、変に注目されているようだし。
「ドゥティーナ。五階は四階と違って広いって話だけど、今からいって夜までに六階に行くことは出来るのか?」
「少し難しいかもしれません。五階からは本当に広いので……真っすぐ進んでも森の中を通るので歩きにくいですし、魔物と遭遇すればもっと時間が掛かると思います」
「そんなところで狩りしてる人たちって、階段近くで魔物を狩ってるの? それとも泊まりで狩りしてるの?」
話を聞いていたルリカが質問を始めた。
確かにドゥティーナの話を聞く限り、日帰りで戻ることは難しいような気がする。
「泊まりの人が多いですね。拠点がいくつかあって、交代で狩りしている感じです。……私たちも訓練で時々参加してますから」
いくつかの拠点が作られていて、そこで寝泊まりしているということか。
結構危険なような気がするが、魔物除けのアイテムを使ったり簡易砦を立てているということだからそうでもないのか?
「そういえばさっき狩ったウルフだけど、どうすればいい?」
「冒険者ギルドの方で普通に売ってくれて大丈夫ですよ」
「そうなのか? それで問題ないなら普通に売るよ」
部外者の俺たちが狩ったものだから、渡せと言われるかと思ったけどそうでもないようだ。
「けど泊まりになるのか。そうすると今日は宿に戻った方がいいかな?」
荷物はアイテムボックスに入っているから、そのまま行って野営をしろと言われても大丈夫だがどうしたものか。
「その方が良いと思います。ウルフを狩るところから強いことは分かりましたが、準備は必要ですから」
それを知らないドゥティーナなら普通に止めるよな。
皆の視線が俺に集まるのが分かった。決定権は俺にあるのか。
確かに月桂樹の実を一番欲しているのは俺だしな。
「準備して明日行こう。それと、出来れば六階と七階に関する話を前もって聞いておきたい。いいか?」
その言葉に、ドゥティーナがまかせて下さいとでも言いたげに胸を張って応えた。
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