第259話 アルテアダンジョン・1
話し合いの結果。とりあえずダンジョンに行くことになった。
基本的なダンジョンのルールとして、やはり魔物は階を跨いでの移動が出来ないということと、カード登録により一度行った階へ飛ぶことが出来ると分かったため、一度どんな感じか確認の意味を込めて足を運ぶことにした。
またマジョリカダンジョンと違い、各階を繋ぐ踊り場に設置されている柱に階層登録をすることで、自由に階を跨いで移動することが出来るそうだ。
ただし帰還石みたいな緊急脱出用のアイテムはないため、戻る時は必ずこの踊り場を利用することになるそうだ。
ちなみにダンジョンは地下へと伸びているため、本来なら地下何階と言うのが正しいそうだ。
「まさかまたダンジョンに行くことになるとは思ってもなかったさ」
「確かにそうね。ただ管理されたダンジョンって感じよね。話を聞く限り」
「それって出る魔物を意図的に選んでいるとかってことか?」
ルリカの言葉に、確かに出る魔物が人間側に都合が良い奴しか出ていない感じがする。
六階までは、それこそ上位種も出ないという話だし。
ただそれだと、七階に今回出たミノタウロスはイレギュラーな存在ということになるのでろうか?
「あら、サーク? どうしたのですか?」
部屋から出て階段を下りて行くと、サークが立っていた。
ユイニの言葉にビクッと体を震わせ、その挙動不審な態度にサハナがため息を吐いている。
そしてサハナが口を開くよりも前に、何かを察したサークが言葉を放った。
「し、心配で……だ、大丈夫なのか?」
その視線の先にいるのは間違いなくヒカリだろう。
「き、気を付けて行って来いよな」
それだけ言って何処かに駆けて行ってしまった。
「まったく素直ではありませんわ。少し心配なので様子を見てきますわ」
サハナは一礼してサークの後を追うように歩いて行ってしまった。
何だかんだと言っても、やっぱり心配しているようだ。
ヒカリはそんな二人の消えて行った方向を見ていたが、ユイニが歩き出すと視線を切った。
「ヒカリも心配か?」
「特には……」
素直じゃないのか、それとも本当に何とも思っていないのか。
その無表情からはヒカリの感情を読み解くことが出来なかった。
やがて一階まで戻って来て、エントランスの奥にあった大きな扉の前に到着した。
扉を開いて中に入れば、そこには大きな玉座があった。
その椅子には今は誰も座っていない。
部屋の隅を進み、玉座の裏側に回り込めばそこにも扉があった。
「この先がダンジョンになっています」
扉を開けば、マジョリカのダンジョンで見たような柱があり、その先には頑丈そうな扉がある。
そこにいた兵士のような人たちからカードを受け取り登録を済ませた。
「私はこの先には行けませんが、誰かお供を付けた方が良いですね。どなたか手が空いているものはいますか?」
「……ドゥティーナいけるな?」
「は、はい」
ユイニの言葉を受けてアルフリーデが周囲を見回し、その中の一人を指名した。
指名されたドゥティーナは緊張した感じで返事をすると、硬い表情のまま挨拶をしてきた。
「ドゥティーナと言います。よろしくお願いします」
なんか緊張感が半端ないが、王女のユイニがいるからだろうか?
「それでは頼みましたよ」
ユイニの言葉に天にも昇るような表情を浮かべているし。
二人が去り、残された俺たちに向き合うドゥティーナは、まだ緊張が抜けてないのか硬い表情のままだ。
「そ、それでは行きます」
重い音を響かせて開かれた門の向こう側は、自然が溢れた世界が広がっていた。
ダンジョンで既に体験していたからそれほど驚きはなかったが、それでもダンジョンの中にいくつもの建物が立っていると不思議な感覚に襲われる。
「ここに住んでいる奴もいるのか?」
「い、いえ。あ、その、います。全員ではありませんが、私たちも交代で宿泊したりしています」
「ドゥティーナさんは……兵士なのか?」
「ドゥティーナとお呼びください。私はお城勤めの兵士になります。まだ日が浅いですが、ダンジョンについては頻繁に行き来しているので何でも聞いてください」
後で知ったことだが、お城に勤めるものは竜の血をひく末裔の者が主で、ドゥティーナもその一人だと言う。
そして竜の血をひくものは総じて長寿の者が多いため、この場合の日の浅いも、長寿種族ゆえに時間的感覚が少しおかしくなっているみたいで、実際は人で言うと十分ベテランの域に達しているそうだ。
確かに外からの客とはいえ、一応は王族の客人だ。そんな客人の案内に新人をあてがう訳もないか。
一階二階は、先の説明通り農作業をする人や畜産で動物をお世話をしている人の姿が多い。
皆一様に俺たちを見ると驚くが、それでも笑顔で挨拶をしてくる。
その時にヒカリとミアに視線を送る者が多いが、二人の様子を見てすぐにそれもなくなった。
三階に来ると人の数が一気に減った。こちらは男の人が数えるほどしかいなかった。
「ここはあまり生活に関係のないところですから、人員が少ないんです。それでも貴重な鉱物が採れる時があるので、定期的に調査をしてるんです」
ドゥティーナの説明よると、基本的に鉱物は外から入手しているそうだが、稀にミスリルなどが採れるため調査を続けているそうだ。
あとはここのダンジョンの特性として、人が長時間訪れないと変遷が起こり内部の地形が変わるため、それを防ぐために一定時間滞在して作業をする必要があるらしい。
「ということは、このダンジョンは人がいたら変遷が起こらないということか?」
「そ、そうです。特にここは万が一魔物が暴走した時の防衛拠点になるので、変遷で内部の構造が変化しないようにするという意味もあります」
それで二階から三階に下りて来た時に、砦のようなものが作られていたのか。
聞けばあくまで地下一階と二階の作業者が逃げるための時間稼ぎ用にあるらしいが。
「次の階からは魔物が出ますので、大丈夫だと思いますが注意して下さい」
四階へと続く階段の前に到着したところで、ドゥティーナは一度立ち止まり、俺たちを見回してそう言ってきた。
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