第258話 アルテア・6

「あら、どうしたのでしょうか?」


 色々な情報をいっぺんに入手したからだろうか、俺の思考は一時停止した。

 お城への通行証が手に入るところから、ある程度の身分はあると思っていたが、まさかの王族?

 サハナをチラリと見るとちょうど目が合い、悪戯が成功したことを喜んでいるように満足げな笑みを浮かべている。


「きっとお姉様の美しさに皆さん見惚れているのですよ」

「そ、そんなことは……」


 戸惑うユイニに、サハナはそんな言葉を掛けている。

 その言葉にユイニが頬を染めて、それを見たサハナが楽しそうに笑っている。

 サークも大概だったが、この子も結構猫を被っていたりしたのかな?


「初めまして。商人を生業としているソラと言います。それで俺た……私たちのことはどのように聞いていますか?」

「ふふ、堅苦しいのはなしにしましょう。王族と言っても、それほど偉い訳ではありませんから。普段通りに話してくれて大丈夫ですよ」

「わか……った。慣れてないから助かる。それでどのように話を聞いてるんだ?」


 王族というとイメージが悪かったが、この子は、ユイニは大丈夫そうだ。

 まぁ俺の知る王族は、エレージア王国のあのおっさんしか知らないけど。あれ? 一応フリーレン聖王国の教皇も立場的には王族になるのか? 国のトップという意味でだけど。

 もっとも教皇の方は魔人に振り回された駄目な人ってイメージしかなかったけど。

 そう考えると、国のトップ連中はどうしようもない奴が多い気がしてならないのは気のせいじゃなはずだ。

 それとも今まで会った偉い人の残念度の割合が高かっただけか?


「そうですね。月桂樹の実を求めていると聞いていますが……大丈夫ですか?」

「その大丈夫かってのは、ミノタウロスと戦えるかということか?」

「はい。一応お父様……王には話を通していて許可は取っていますがその……」


 言葉を濁した先にいるのは俺と仲間たち。確かに凄腕の冒険者には見えないか?

 スキルや魔法のある世界だ。見た目じゃ分からない強さは確かに存在するが、確かに強面の屈強な男の方が強いイメージはあるかもしれない。

 しかも小さな子もいるからな。そんじょそこらの者よりも全然強いけど。

 あとは単純にミノタウロスの強さから、俺たちのことを案じているのかもしれない。

 実際ミノタウロスとは戦ったことがないし、マジョリカのダンジョンでも確か出て来るのは四十階よりも下だったような気がする。

 ならそれ相応の強さはあるはずだ。

 あのダンジョン。下に行くほど強い魔物が出て来たし……一部相性的に倒しやすいのもいたけど。


「とりあえず行けるなら一度試してみたいと思ってる。無理そうなら逃げればいいと思ってるが、場所的に一度戦うと逃げるのは難しかったりするのか?」

「それは大丈夫だと思いますが、ミノタウロスは見た目と違って素早い魔物なのだそうなので、単純に逃げるのは難しいかもしれません」


 セラも戦ったことがないって話だしな。とりあえず遠距離から攻撃して、一体だけおびき寄せたり出来ないものか。

 その前にどんな地形でどんな感じにいるかを教えてもらった方がいいかもしれない。それに戦った経験がある人がいるかもしれない。

 作戦をたてるにしてもまずはそれからだ。

 もしかしたら戦わないで月桂樹の実を手に入れることが出来る方法が思いつくかもしれないし。

 気配遮断を駆使して見つからないように進むとか、囮を使って気を惹いた隙を突いて実を回収するとか。特に生体付与を使っての囮とか、結構良い線いってるような気がする。囮になるような大きなものを動かせるか試さないと駄目だけど。

 俺がそう尋ねたら、月桂樹の実のある場所に詳しい人を紹介してくれることになった。


「隊長を呼んできてもらえますか?」


 ユイニの言葉に、メイドさんは人を呼び走らせていた。

 自ら行かないのは、主人を一人にさせられないのと、一応客人である俺たちのお世話をするためらしい。

 というか、立って話していたので、このタイミングで椅子に座って話しましょうと言われたため移動した。

 そしてお茶を出されて、街の外の話をユイニに尋ねられたりしていたら、一人? の男性が室内に入って来た。

 男性だと思うが口元はマスクで覆われて鎧を着こんでいるから正直分からない。


「お呼びですか、ユイニ様」

「はい、職務中なのに申し訳ありません。彼らに月桂樹のある階層の……いえ、ダンジョンについての説明をお願いします」

「……宜しいのですか?」

「王から許可はもらっていますので大丈夫です」

「……かしこまりました。アルフリーデです。ではこの城にあるダンジョンについて説明させてもらいます」


 そもそも城にダンジョンがあるのにも驚いたが、その活用方法にも驚いた。

 この狭い島の中で食物の生産がどうなっているか疑問に思っていたが、それをダンジョン内で行っているという。

 各階層はフィールドダンジョンになっていて、昼と夜があるためそれを利用していると言う。

 まずは一階と二階が農作業や畜産。ここは一般の人が作業しているとのことで、魔物は基本出ないと言う。あくまで基本で、極稀に出るらしい。

 三階は鉱物関係のものが採取出来るそうだが、専門のものがそれほどいる訳でもないためほぼ放置しているようだ。魔物は一階と二階と同様に基本的に出ないようだ。

 四階と五階は食用の肉になる魔物が出るようで、主にウルフやブラッドスネイク、オークなどが出るそうだ。

 六階は湖がある階層で、リザードマンが生息している階層になっているが、ここは平和らしい。詳しい話は割愛された。

 七階は月桂樹の木がある階層で、他にも薬草などが採取出来る階だそうだ。魔物は時々出るそうで、タイミング悪く今がその時期と重なり、また普段は出ない魔物であるミノタウロスが徘徊しているそうだ。

 一応それ以降にもまだ階はあるようだが、ここでは関係ないということでこれ以上の説明はなかった。


「やはりここでも魔物はダンジョンの外に出たりすることがあるのか?」

「……竜王様の力もあってそれはないが……」


 ふとマジョリカのダンジョンでのことを思い出して尋ねたが、アルフリーデの答えは歯切れの悪いものだった。

 お城を囲むように配置された防衛措置。もしかしたら過去に何かあったのかもしれない。


「私が話せることは以上だ。何か質問があるか?」


 さらに細かい話を聞き、俺たちはアルフリーデに礼を言いどうするかの話し合いを始めるのだった。

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