第257話 アルテア・5
翌朝少し早く起きて、冒険者たちが何処に向かうかを確認した。
うん、最初からこうすれば良かった。
予想通りというか、冒険者たちはあの門をくぐってその先に進んでいた。
ただそこにいたのは冒険者だけでなく、まるで農作業でもするような恰好をした成人した男女の姿もあった。
一緒に談笑しながら歩いて行く。そこに緊張した様子はなさそうで、本当にそこまで散歩するような気軽な感じを受けた。
宿に戻り朝食を食べると、女将さんからお弁当を受け取った。といっても行く場所がないんだよな。
いっそ港見学でもするかと思ったけど、荷物がなければ特に港で作業しないらしく、今日は行っても港に停泊した船を見るだけで終わるとのことだ。
「なんだったらギルドで体を動かす?」
ルリカの言葉にそれしかすることないかと思い、頷くしかなかった。
一応女将さんに、兵士から連絡があったら冒険者ギルドにいるという伝言を頼んで出掛けることにした。
そしてギルドに到着すると、中にサハナがいた。
サハナは俺たちに気付くと急ぐことなくこちらに近付いてきた。注意して見れば、その歩き方は少し優雅に見えなくもない。
「会えて良かったです。宿に伺うか迷ってたところです」
「そうなのか? それで会えて良かったということは、何か俺たちに用があったのか?」
「はい、昨日お兄様が迷惑をお掛けしたので、その償いとしてお城に招待しようと思いまして」
「お城?」
お城というとここには一つしかないよな?
「ご想像の通りです。実は私たちもあちらに身を寄せていまして、お姉様に相談したら一度招待してみてはと言われまして」
「姉がいるのか?」
「はい、お姉様はお兄様と違って大人で尊敬出来る憧れの人なんです」
サーク君との扱いの差が凄いな。というか、この言葉を聞いてたらまた涙目になりそうだ。
「そ、そうか。とりあえずあの門の向こう側に行けるのは嬉しいが、何か決まりがあったりするのか?」
「そうですね……とりあえずお姉様に紹介しますね。お姉様なら私と違って、色々と権限がありますから」
サハナはそう言うと、俺たちに通行証を渡してきた。
それを首に掛けるように言われたからそれに従う。
門の前に移動すると、門番が少し緊張した面持ちで対応してきた。首に掛けられた通行証のチェックはしっかり行っていたが。
「ねえ、サハナちゃんって良いところのお嬢様だったりするのかな?」
「お城の中で暮らしてるんですから、それなりじゃないのかな?」
ルリカとミアが小声で何か話している。
会話の内容も気になるが、それよりもまずは門の向こう側の景色に驚いた。
まず正面に、大きな木を背負ったお城が見える。
これは山の上からも、またマルテの町からも見えていたからそれほど驚きはなかったりする。
城へと続く一本道の周囲は水に囲まれていて、その道がなければ湖の上にお城が建っているように見えただろう。
周囲の水面はキラキラと反射して綺麗だが、それを囲う無骨な防壁がそれを台無しにしている。
そして確かにお城は大きく立派だな、朝見掛けた人たちが全員過ごすにはいささか小さい気がする。
「なあ、なんでお城を囲うように壁があったりするんだ? いや、別に城壁は問題ないと思うが、造りが少し変だよな」
「そうですね。それもお城に着いたら説明させてもらいますね」
サハナに尋ねたら、ちょっと悪戯っ子が微笑むような意味深な笑みを浮かべるだけで答えてくれなかった。
城に続く道を歩いて行くと、やがて日が遮られて影の中に入った。
見上げれば木の傘の中に入っていた。まだ城まで五〇メートルぐらいあるのに、大きすぎるだろうと改めて思ったが、ミア以外の面々は特に驚いていない。
やがてお城の前に到着すれば、入口には武装した騎士のような人がいる。鎧の色は光沢のある緑色で、汚れ一つない。
「これはサハナ様。彼らがそうですか?」
「はい。問題ありませんね?」
「連絡は受けております。ただ……」
「ええ、まずはお姉様に会ってももらいますので大丈夫です」
やりとりが終わると、門番が門を開けた。
そこを通れば広いエントランスがあり、正面にはさらに大きな扉が。左右には上に行くための階段がそれぞれある。
「まずはこちらに」
サハナの先導のもと右手側の階段を上っていく。
一階、二階、三階と上り、一つの部屋の前で立ち止まるとコンコンとノックした。
すると中から扉が開き、メイドさんが顔を出した。
「サハナ様……。ユイニ様はまだ作業中ですがどうしましょうか?」
「中でお待ちしてもよいですか? 作業の邪魔は致しません」
「はい、大丈夫です」
部屋に通されると、机に向かう一人の女性がいた。下を向いていて顔は見えないが、サハナがお姉様と呼んでいたからたぶん女性だろう。他にはメイドさんしかこの部屋にはいないし。
やがて一段落したのか、女性が顔を上げてこちらに視線を向けた。
その顔は整っていて、絵画のモデルを依頼されてもおかしくないほどに美しく、思わず息を呑むほどだった。
ただそれ以上に気になったのは、ちょうど耳の後ろあたりから伸びているサンゴのような形をしているもの。
アクセサリーじゃないような気がするが……。
「初めまして皆さん。ルフレ竜王国第一王女のユイニと申します」
戸惑う俺を他所に、その女性……ユイニは立ち上がりそう言葉を発した。
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